第13話 召喚獣

「サガン!!こんなとこおったんかいな~!」


「もー!心配したんだから~!!」


 そこへ二人が駆けてきた。


「あれ?こちらの方々は?」

 とホノカ。



「私はリリアス。この子はタオと言います。どうぞお茶でも。」


 リリアスは三人を招いた。


「なんや知らんけどお邪魔しま~っす。」


「ちょっとリール!初対面なのに図々しいわよー。


 いきなりごめんなさい。


 私たちは『シベル共和国』を目指して旅をしている者です。


 この森を安全に抜けたいんです。なにか情報があれば教えてもらえませんか?」



「そうでございましたか。


 残念ながらそれは叶わないでしょう。


 森の奥には大蛇が住み着いております。


 とても狂暴で強力な毒をもつ巨大な魔物です。


 先ほどのオーガよりも強大な魔力を持っております。」


 リリアスはゆったりとした口調でそう話した。



「そんな...。でも森を抜けないといけないんです。」


 困った。しかしここまで来て引き返すわけには行かない。


 俺たちには前に進む選択肢しか残されていない。



「とにかく、中でお話でもいかがですかな?」



 俺たちは小屋の中に招き入れられた。









「改めまして。私はリリアス。耳長族の神官をしておりました。職を退いてからはタオと二人でこの森の保安を任されております。


 タオが悪さを働いたようで大変申し訳ございません。」



「いいんです。このぐらいの年齢だといたずら位しょうがないですし。


 でもタオくん!もうしないって約束できる?」



「ごめんなさい!綺麗なおねえちゃん。」

 タオはホノカに抱き付いて言った。その目はいやらしく光る。



「あかんでホノカ!このガキまたやるで。目を見たらわかんねん。」


「そうだな。酒場の猫娘を見るリールの目と一緒だ。」


「そうや、下心の現れやで!」


「まあまあ二人とも、怖い顔しないのー。このお兄ちゃんたちほんとは優しいんだから大丈夫だよ。」


 タオはホノカから、よしよしと頭を撫でられながらもニヤニヤと頬を緩ませている。


 早くホノカから離れろ!



「それよりも、リリアスはん。大蛇の事教えてくれまへんか?」



 リリアスは俺たちに紅茶を差し出すと椅子に腰かけ、目を細めながら語りだした。



「あれはこの子が生まれてすぐ。この子の母親は亡くなり、父親も後を追うように......。


 天外孤独となったこの子を私が引き取ったあたりから始まります。


 私も子を持ったことが無かったものですから、子育てという物に四苦八苦しておりました。


 タオという名はこの子の母親アンネがつけたものです。古い文献によりますと『道』という意味があるそうでございます。


 まっすぐに育ってほしいという思いが込められているのでしょう。


 もともと冒険者だったアンネは、タオを妊娠してからだんだん体調を崩すようになりました。


 それが妊娠によるものだと皆が思っておりました。


 体が強かったアンネも妊娠にはかなわない。周囲は心配しながらも幸せなことだと信じておりました。



 長時間の分娩で力を使い果たしたアンネは、タオを抱いたまま力尽きることになります。


 その顔は満足感と悔しさを持ち合わせておりました。


 父親のロクスンは酷く落ち込みました。


 妻と子と三人、幸せな家庭を築くつもりでしたから、その反動には耐えられなかった。


 現実を受け止めるのに暫くの時間を費やすことになります。



 その間、タオは私の勤める協会に預けられました。


 育児を放棄したロクスンを責め立てる者も多かった。


 しかしながら、愛するものを突如失った痛み、私には痛いほど伝わった。


 ロクスンとタオのため、そしてアンネのため協会は支援をします。



 ようやくロクスンが、タオと二人の人生を新たに歩みだした矢先、ロクスンにも病魔が......。



 無念であったでしょう。



『俺は大切な人を、不幸にしかできなかった。』



 ロクスンが病床で最後に語った言葉です。」





 タオも、俺やホノカと同じ天涯孤独の身、というわけか。



 ホノカは、膝の上に乗せたタオを強く抱きしめていた。


 タオは黙っている。



「リリアスはん。タオの出生と大蛇と、どういう関係があるんでっか?」



「ええ。深い関係がございます。


 サガン殿。あなたが先ほど倒した魔物。オーガはタオが召喚したのです。」



「え!?私たちが来た時にオーガの死体なんて見えなかったわ。サガン、どういうことなの?」


 驚く二人に、オーガとの戦闘の顛末を告げる。



 なるほど、死体が煙のように消滅したのもそのためか。


 しかし、『召喚術』とは本来、熟練した賢者のみが実現できる高等魔術。


 この世界に使用者は数人しか居ないとされている。


 なのにこんな子供があれほどの魔物を召喚するだなんて。



「もしや、その大蛇というのも」


「そうでございます。この子が意図せずに、に召喚してしまった産物でございます。


 生まれながらに召喚術を使うタオ。周りの大人たちは恐れました。」



「それでこんな山奥に......。」




「タオが召喚獣をコントロールできるようになるまでは、この森を出るわけにはいきません。


 たくさんの冒険者が大蛇に挑んでは命を落としました。


 サガン殿、悪いことは申しません。


 どうか、あなた方も引き返していただけないでしょうか。」




「リリアスさん。訳は分かりました。だが、俺たちは引き返すわけにはいかない。


 それに、タオが召喚術を使いこなすためには、立ち向かうことが一番の近道ではないだろうか。」



「......サガン。」


 ホノカが心配そうな表情で俺を見ている。



「それにやで、本来、召喚術っちゅうもんは、大賢者様の魔術やさかい、タオが使いこなすんは何十年かかるか分かったもんやないで。


 それまで、ここに縛っておくわけにいかんやろ。」



「大蛇を私たちで抑制して、従わせるのがいいのかもしれません。


 タオがオーガを使役したように、弱った大蛇を従わせることができるのかも。」

 

ホノカにはすでに、他人事には思えなくなっていた。


「皆様の協力があれば、良い方向に働くのかもしれません。


 しかし約束してください。危険が迫った場合は直ちに逃げ帰るのですよ。」




 こうして俺たちは大蛇の討伐を引き受けることになった。














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