君と何度でも初雪を
ガヒュマル
第1話 めぐる季節
「やっぱり、春が1番好きだわ。あったかいし」
俺は、暖かい太陽の日差しを受けながらつぶやいた。
今日、4月3日は、高2になって1日目の登校日だ。
俺のつぶやきに、
貴大は、高校1年の時に知り合った友達で、時々こうして合流し登校している。
それにしても、こいつホントに背高いな。確か、178cmとか言ってたか。
高身長で見た目も少しチャラ目、だが決してきつい冗談やノリをせず、正直者。
いざという時には親身になってくれるいいやつだ。
「そういえば、今日の始業式終わったら、明日 身体測定だったよな」と貴大が俺を見下げて聞いてくる。
「やめてくれ、今ちょうどお前の身長と比べて、凹んでたんだ」
「俺は、1年前178cmだったから、180cmいってるかな」
「おい、人の話聞いてるか」
「まぁまぁ、いいじゃないか!」と微笑みながら言われる。
「
なんか、こいつに言われると腹が立つ。
「はいはいどうも。お前との身長差は縮まなそうだがな」と少し妬みをこめて言った。
やがて校門が見えてくる。
「ま、今年もよろしくな!」と貴大が微笑んで肩を叩く。
ほんと、こいつはよく笑うな。
そう思いながら、「よろしく」と一言返し、靴を履き替えた。
その後、貴大は下駄箱前で会った友達と先に自分の教室に向かったので、俺もあとを追
い向かおうとした時、後ろから声をかけられた。
「おはよ!元気だった?」
話しかけてきたのは、幼馴染の
琴葉は、背が俺より少し小さい程度、学校では容姿端麗で学力も学年トップ10に入る男女共に慕われている人気者だ。
しかし見た目とは裏腹に、負けず嫌い、たまに男勝り、でも結構繊細な面もある。
あとは…声でかい。
今日もでかいなと思いながら「おう、まぁ普通に過ごしてたよ」と答える。
「とか言って今年も春休みの宿題終わってないんじゃないの?」とニヤつきながら聞いて
くる。
俺は、高1までこの手の宿題は最後まで溜めて終わらないこともしばしばあった。
だが、「今年はちゃんと終わらせたよ」と少し自慢げに答えてみた。
もうあと1年で受験があるということもあり、いい加減ちゃんとやろうかと思って誘惑に
耐えながら終わらせたのだ。
そう話しながら、2年生の階に着いたので「じゃ、帰りに下駄箱で」と別れ、俺の教室である2年4組に向かった。
ちなみに俺と貴大は4組なのだが、琴葉だけは2組とクラスが違うのだ。
学校の構造として、4階から1年、2年、3年とあり、学年が上がるごとに階が下がっていく。
クラスは全6クラスで、1〜3組は西棟、4〜6組は東棟と分かれており、基本は東棟の玄関から入り、各階の渡り廊下で棟を行き来する。
よくある構造だが、この学校には1つだけ変わっていることがある。
ここ、東京都にある公立
のがない。
理由は忘れたが、多分勉学に支障が出ないようにとか、そんなとこだろう。
おかげで、顔見知りと変わらない生活ができるから助かるのだが。
教室に入ると、「遅かったな。どこかに寄ってたのか?」と貴大に声を掛けられた。
俺は荷物を下ろしながら、途中琴葉に会ったことを伝えた。
そういうと「そっか。お前らほんと仲良いな。付き合わねぇの?」と貴大はいう。
貴大と琴葉は高1の時から面識がある。
よく琴葉とは行き帰り一緒のこともあって、その時に貴大とも3人で帰っていたのだが、貴大はその後すぐバスケ部に入ったので、今ではオフの時にたまにしか顔を合わせなくなった。
「仲はいいけど、幼馴染は幼馴染だからな。今のままでいいよ」と普通に答えたのだが、
「ほんとかぁ?」とたまに少しかかってくる。
実際、琴葉に対する恋愛感情はなく、古くからの親友みたいに思っている。
ちなみに、貴大は自分の恋愛には興味はないのだそう。
少しすると、聞き慣れたチャイムがなり、全員自席へ戻る。
そして、今年も変わらない担任が入ってきてHRが始まった。
始業式で唯一助かることといえば、大体は午前中で帰れることだ。
全校集会で校長のありがたいお話を聞き、春休み中に出た課題を出し、連絡事項を聞きあっという間に下校。
貴大は宿題が終わってないから居残りになった。
帰ろうと教室を出ると、ポケットの中のスマホが鳴る。
画面を見ると琴葉から、『HR終わったら玄関ね』とメールが来ていた。
正直に言おう。帰る約束をしていたの、すっかり忘れていた。
急いで玄関に向かい、靴を履き替え出口で琴葉を探す。
「あ、いた」
すぐに琴葉の元へ向かう。
「お待たせ」と声をかけると琴葉は振り向き、「遅い!忘れてたでしょ」と少し拗ねた表情をする。
「ごめんごめん、帰りジュース奢るから」というと「ほんと?やった!許す」と一発で許しをいただけた。
自転車をとり、2人で帰路に着く。
途中自販機でジュースを買い、春休みや昔の話をしながら帰っていると、「もう、大丈夫なの?」といつもとは違う、急に真面目な話になったような声で琴葉が聞いてきた。
俺の鼓動が少し早くなった気がした。
「やっぱり忘れられはしないよ。でももう1年以上経つんだ。ぼちぼち吹っ切れたよ」となるべく心配させないように微笑み、優しい声で答えた。
俺には過去に、少しばかり辛いことがあった。
誰かが死んだとかそういうわけではないのだが、その出来事で俺は完全に病んでしまい、中学卒業から高校に入学するまでの間はずっと部屋に引きこもってしまっていた。
やはり一度傷ついたら完全にその痛みを忘れることはできない。
だが痛みは時間と共に、たとえそれが治っているわけでないとしても和らげることができる。
俺ももう、痛みに屈しうずくまるばかりではなく、ちゃんと前へ歩き出さなければならない。
この後、琴葉とはいつもの角で別れて家に帰った。
家に入り、自室に荷物を置く。
壁に掛かっている時計を見ると、まだ13時過ぎなのでゆっくりしようと私服に着替えてベッドへダイブする。
うつ伏せでは少し苦しいので、仰向けになってぼーっとしていると、不思議と過去の記憶が鮮明に蘇ってきた。
あの時の忘れることができない記憶が。
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