Bonus.7『いい気分~♪』

Bonus.7『いい気分~♪』Tr.1

「ふふん~ふふふん~いい気分~♪」


 馬鹿が自転車でやって来た。

 そう、言わずと知れた我らが愛すべき毒舌天パ、雨音あまね響一郎きょういちろうその人である。

 何が嬉しいのか某コンビニのCMジングルを鼻歌しつつ、旧校舎前で自転車を降り、いそいそと部室に入っていく。

 周囲を警戒するように見回してからおもむろに席に着くと、降ろしたリュックをがさごそとやって取り出したのは愛用のウォークマンと、新品のイヤホン。

 普段の無愛想面からは想像も出来ないような浮き浮きとした様子でパッケージを開封すると、取り出した白いイヤホンをウォークマンに接続し、耳に装着――したところで、


「――雨音くん、何やってるの?」

「くぁwせdrftgyふじよlp!!」


 既に部室に居た藤與ふじよ真貴まきに不意に声を掛けられ、危うくウォークマンを落としそうになった。

 暫し心拍数を落ち着けるべくぜいぜいと呼吸を荒げていたが、


「――ば、馬鹿おま、いきなり声掛けんじゃ無ぇよ!! 危うく落とすとこだったわ!!」

「あ、ごめんごめん、てかこっそり入ってきたと思ったら怪しげな事始めたから――」

「怪しげとは失敬な」

「で、何やってるの?」

「無視かよ!! ――まぁいい、やっとこっちにも白が入荷したんでな」

「白……ってそのイヤホン? また買ったの? 飽きないねぇ┐(´д`)┌」

「ちっちっ、そこが素人の浅はかさ」

「雨音くんだって素人じゃん!!」

 真貴のド正論に「Oh!」という感じで肩を竦めた響一郎だったが、

「ま、百聞は一見――いやさ一聴に如かず、モノは試しに聴いてみな」

 そう言って件のイヤホンを真貴に差し出す。

 一瞬頬に朱が差して躊躇う素振りをみせたものの、軽く溜息を吐きそれを受け取ると耳に装着した。

 それを確認した響一郎は一瞬ニヤリと口角を上げ、PLAYボタンを押す。カチャリと小さく音がして、WM-EX2000ウォークマンのモーターが回転を始めた。


<< □ |> ○ || >>


「――へぇぇぇ……」


 真貴はいつの間にか音楽に聴き入っていた。

 曲の切れ目の微かなヒスノイズでふと我に返ると、いつものニヤニヤ嗤いを浮かべた響一郎がこちらを見ている。

 緩みきった顔を見られていた自覚に両頬がカッと熱くなるのを感じたものの、逆にそのニヤニヤ顔を睨み返す。

 響一郎が一瞬、目を見開くと「ほぉw」と口を窄め、問いかけてきた。


「――さて質問。そのイヤホン、幾らだと思う? ちなみにiPh○ne純正の有線タイプ(EarPods/3.5mm)は2千円な」

「……ん~と……だったら……やっぱり2千円くらい?」

「ほぉ。ちなみにその根拠は?」

「同じくらいの音かなぁ、って。――んー、iPh○neの方が感じはするんだけど、こっちの方が細かい音が聞こえる、っていうか――」

「――ほぉ、いい耳してんな。俺も同意見だ」

「……へ、へぇ~……じゃ、正解?」

「ぶっぶー!! 残念ながら!!」

「んなっ!? まさか、もっと高いの!?」

「流石にンなこたぁ無ぇわw」

「え!? でも――」

「言いたいことは解るが――しかしは本体980円、税込みでも千円ちょいだな」

「えぇぇぇーーーっっっ!!」


<< □ |> ○ || >>


 HA-FX711F-W、先程から出ているイヤホンの型番である。

 3色のカラバリが存在し、黒(-B)、白(-W)、ピンク(-P)と色で末尾の文字が違う。

 ただ、店舗によっては全ての色があるとは限らず、ちなみに作者の居住地域では黒しか見たことが無い。


「まぁまぁ僻地だしなw」


 うっせぇわ(-_-#


「――雨音くんとかヴィー先輩とか、時々見えない人と会話してたりしない?」

「あーあー聞こえなーい!! 閑話休題!!」


[L] ||||||||||||||||||||||||||

-dB 40 30 20 10 5 0 2 4 6 8 +dB

[R] |||||||||||||||||||||||

本日が7月11日だったことに思い至って急遽書いてしまいました。

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