第15話 第二の事件! 発動、ジョーカーの真の能力

◾凛



「雨……?」



 さっきのカフェに到着したわたしの鼻先に大粒の雨が当たりました。

 雨の勢いは一気に強くなって土砂降りに変わります。それでわたしはハッとしました。



「ダイヤちゃんの能力は水を氷に変えて操る能力。空間が水で満たされた今……あの2人の独擅場! はやくジョーカーのところへ戻らなきゃっ!」



 わたしは石ころを両手で掴んで、全速力でジョーカーのところに走り出しました。



◾ジョーカー



 男とダイヤはゆっくりと階段を上ってきた。

 ダイヤの周りでは落ちてきた雨水が集結して巨大なつららになり、背後で銃弾が装填されるように配置されていく。

 ダイヤからわたしまでの距離は約10m。

 わたしは半身はんみの状態でゆっくりと階段を上り、間合いをはかる。



(感覚的にダイヤの能力効果範囲は狭い。せいぜい5、6メートルってところかしら。十分に距離を取ればイニシアティブはこっちのものだけど、あの量はさすがに防ぎきれないわっ!)



 わたしはあきらかな劣勢に戸惑ってしまう。



「ダイヤ、一気に放てッ!」



 男の指示でダイヤは大量のつららを一気に発射してきた。

 能力で防ごうとするがすべては防ぎきれず一部を右腕や右脇腹、右脚に被弾してしまう。赤くて温かい液体がわたしの右半身を伝って階段を赤く濡らす。



「くっ!」



 歯を食いしばって痛みに耐えようとするが、痛すぎて正直やばいわ。



「すぐにつららを補充するんだ。近づいてトドメを刺すぞ」


「……ん」



 ダイヤは雨水をつららに変換して男と共に近づいてくる。

 ダイヤは美しく伸びた空色の髪の毛を手で梳かす余裕まで見せている。舐められたものね。

 走って逃げるにしてもこの脚じゃすぐに追いつかれる。凛もまだ来てない。

 いったいどうすれば……とにかく、ダイヤの能力効果範囲に入っちゃいけない!

 そう思い至りダイヤとの距離を保つために上の段に足をかけた。



「ッ!!」



 瞬間、ひどい痛みが右脚から全身に駆け巡った。まるで全身が崩れるような痛みだわ。

 前方に倒れてたちまち動けなくなってしまう。

 ダイヤが5メートルのところまで来た。

 絶対絶命! このままだと……確実に負ける!

 凛! はやく!! はやく来て!!



「……トドメっ!」



 ダイヤがつららを発射しようとした刹那、突然ダイヤが膝から崩れ落ちた。



「う……くぅ!」


「どうしたダイヤ」


「か、体が……重た、くて……立ち上がれ、ない」



 立ち上がろとするダイヤだがそれは叶わない。

 それを見た男は、



「そうかわかったぞ。ジョーカーの能力の秘密が。あいつの能力は重力を強化する能力。だからつららが当たらなかったとき全部地面に落ちていたんだ。そしてダイヤが今こうなっていることがジョーカーの能力が重力強化であることを裏付けている。だが効果時間は一瞬だろう? せいぜい10秒かそのくらいか?」



 わたしにとってこれは苦肉の策だった。

 重力を強める対象が人や人の持っている物になるとすぐにわたしの能力の秘密が暴かれてしまう。

 だから賭けだった。凛がもうすぐ来てくれるということへの。

 しかし凛はまだ来ない。能力効果時間の限界がきた。これ以上は効果を維持できない。

 ダイヤは男につかまって立ち上がり、すべてのつららの矛先をわたしに向けてきた。

 何か……何か思いつけ! なんでもいい! 役に立つ何かを考えろっ!

 絶望的状況の中わたしは必死に打開策を考える。

 絶望に絶望するな。絶望に怖気付くな。状況をひっくり返す方法だけを考えろ! 生前、誰かにそんなことを言われたのを思い出した。どうして今思い出したのだろうか。バカみたいだ。



「ジョーカー!」



 階段の上から凛の声が聞こえてきた。



「凛!」



 両手にはたくさんの小石が握られている。



「撃つんだ、ダイヤ」


「凛、投げて!」


「ええい!」



 ダイヤはつららを発射し、凛は手に掴んだ小石を全部放り投げた。

 小石がわたしの頭上を通過したタイミングで、わたしは再び能力を発動。小石にかかる重力を強め軌道を調節しつつ男とダイヤを狙おうと考える。

 だがそれを完遂するにはつららがわたしの体を貫通するまでが短すぎた。

 つららはわたしの全身に突き刺さり、小石はあらぬ方向に飛んでいった。



「ジョーカー!」



 凛は叫びながら駆け寄ってきてわたしの血だらけの体を抱き寄せてくれる。



「瀕死のようだな」


「ん! ……やったね、クリス!」



 それまではあまり表情を変えなかったダイヤだが小さくほほえんでクリスと呼んだ男を見上げた。



「ジョーカー! ジョーカー!」


「……ぅくっ! り、ん……大丈夫、だわ」


「早くわたしの中に戻ってきて!」


「違うわ……」


「何が違うの! わたしの作戦が無茶過ぎたんだよ!」


「それも、違う……わ」



 瞬間、



「っ!」



 ダイヤの全身から血が吹き出した。わたし以外の3人はそろって当惑する。



「何が起こったの?」



 と、凛。



「あ、つららが……」



 しかしすぐに3人はわたしの体に突き刺さっていたつららがなくなっていることに気がついたようだ。



「これは……ダイヤ、あなたがわたしを……死ぬほどに追い込んでくれたから、だわ」


「何を……言っている、の?」



 不可解さと痛みに顔を歪ませ、ダイヤは尋ねてきた。その全身には、先ほどわたしに突き刺さっていたつららが突き刺さっている。



「簡単なこと……だったのよ。とっても」



 するとさっきの黒猫が階段を登ってわたしのところまで来て、傷口をぺろぺろと舐め始めた。

 舌のザラザラと唾液で痺れるくらい痛かったが、わたしはされるがままに放っておいて話を続ける。



「わたしの能力は重力加速度を大きくする――重力を強化する能力。でもそれは間違いだった。かの有名な自然科学者アイザック・ニュートンはりんごが地面に落ちるのを見て、長い研究の末に万有引力の法則を発見し、万有引力は全ての物体間にはたらく引力であると定義したわ。つまりわたしの能力は万有引力を強化する能力と解釈することができるのよ」



 その言葉だけで3人は十分に理解できただろう。



「まさか!? そんなことが! そんなことがありえるというのか!? 能力の解釈を広義なものにして、能力を変更するだってッ!?」



 クリスはひどく狼狽えた様子だ。まったく変な面ね。

 それに対してわたしは落ち着いた様子で、



「信じられいかしら? なら試してみる?」



 と、挑発的に言った。



「ッ!」



 クリスは悔しさで歯を食いしばる。だが、



「フフフフフフフハハハハハハハハハハハ!」



 突然ゲラゲラと笑い始めた。



「何を笑ってるの? アンタたちはもう負けたのよ」


「フハハハハ! この俺を! 天は見放していなかったッ!」



 クリスは空を指さす。

 チラリと目線だけ向けると、雨雲が薄くなり再び太陽の光が差し込んできているのがわかった。ゲリラ豪雨だったみたいね。

 クリスとダイヤにとっては有利な状況が途切れるというのになぜ笑っているのか。わたしと凛には皆目理解できなかった。



 To be continued!⇒

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