第11話 第一の事件の真相
◾隆臣
そんなこんなでようやく本題に移る。尚子は神田明神本殿全焼事件の真相について語り始めた。
「私の父は
「はい。ニュースで聞いたことあります」
と凛。
「事の発端は3ヶ月前。イタリアから来たマフィアとの間でいざこざがあってな。それで父はマフィアのボスに殺された。
父は死んで当然のことをしてきた人間だったから、私は全然どうとも思わなかった。しかし、ボスが殺したのは父1人だけじゃなかった。その場にいなかった私をのぞいて、母も妹も――家族全員が殺された。
葬儀のとき、父の部下から父の遺書と遺品を受け取った。その遺品こそが透き通った虹色の魔力石のペンダントだった」
魔力石というのは魔力源由来の魔力粒子が高密度で結晶化したもので、携帯できる魔力源のようなものだ。
魔力石には色でグレードが定められていて、虹色が最高位となっている。虹色の魔力石は別名オリハルコンとも呼ばれ、現在世界で7つしか存在しない超貴重な魔力石だ。
そんなのをどうして暴力団が?
「遺書には『然るべきときに使え』とだけ書かれていた。それから少し経って今から2ヶ月前、わたしは台場のカジノでディーラーをやっていた。そのとき珍客が来た」
この際誰も何も言わなかったが、カジノ法では20歳未満のカジノ場への入場は禁止している。しかし暴力団の娘で現マフィアの幹部とかいう尚子にはたかが違法では何も言えない。
「そいつはヴェネツィアマスクなんかを着けた奇妙な小学生くらいの小さな女の子だった。そいつは私の耳元でこう呟いた。『ポーカーでキミがワタシに勝ったらキミの家族のカタキに会わせてやろう。ただしワタシが勝ったらソイツの組織に入ってもらう』とね。
そんな私にしか得のない賭けに私は当然乗った。そしてそいつとヘッズアップでテキサスホールデムをやった。私はイカサマの天才だと自負していた。その女と戦うまではな。
あらゆるイカサマを使って私は少女に勝てるようカードを配った。
だがその結果は私の敗北。何故だかわかるか? それはやつが私ですら見破れない高度なイカサマを使ったからだ。『イカサマを使っただろ?』と問い質すことは簡単だ。でもそれは自分が最初にイカサマをした、ということを宣言するようなもの。
『バレなきゃイカサマじゃあない』なんて言葉があるが、私とそいつの間ではまったく違う。『バレてもイカサマじゃない』んだ。笑えるよな。もはやポーカーじゃなくてイカサマ見破りゲームなんだからよ。
まぁ、ともかく私はそいつに負けた。結果的に私はマフィアに所属するんだが、なんとか家族のカタキには近づけた。あの少女には本当に感謝している」
尚子はそこまで喋ってから紅茶を一口飲んで、さらに続ける。
「ガイスト使いの幹部エミリー・ウェーバーと協力して、私はあの神社の地下の墓に眠る宝具を手に入れるという任務を受けた。
その事前準備として、まずは神田明神を燃やして人払いをした。それが3日前のあれだ。
勘違いしてるかもしれないがハートの能力は火をつける能力でも爆発を起こす能力でもなく、物体の温度を上昇させる能力だ。普通の墓なら爆薬をまいて爆発させれば吹っ飛ぶ。だがあれには特殊な魔術的結界が張ってあって爆発ごときじゃビクともしなかった。
そして次の瞬間、首にかけていた虹の魔力石のペンダントが急に発光して、その光は墓の方に吸い込まれていったんだ。
光が収まるとペンダントは透き通るような虹色ではなくただの石ころに変わっていた。
何が起こったのか、私とハートにもエミリーとそのガイストのクイーンにもわからなかった。墓にはなんの変化もなかった。もちろん結界にもな」
尚子はここまで言うと、ふぅと息をついてカップに入ったミルクティーを飲み干し、ソーサーの上に戻す。
「そしてその次の日、私は貴様らに負けた」
「なるほど。だいたい理解できた。つまりお前は家族の仇討ちをしようとしていたわけか」
と俺。
「そういうことだ。1つ忠告してやる。貴様は私を倒した。組織は貴様らを外敵と見なし駆除しに来るだろう」
「殺されるってことか?」
「ああそうだ。たった3ヶ月だったが私はボスがそういうことをするやつだと確信している。幹部を送り、殺そうとしてくるだろう。
そこで提案だ。私とハートは仇討ちを、お前たちは幹部に襲われる。組織と戦うという方向性は同じだ。ここは1つ、手を組まないか?」
尚子はそんな提案を持ちかけてきた。
「「……」」
俺とエースは無言で顔を見合わせる。
「そうだな。たしかに利害は一致している。だが一晩考えさせて欲しい。まだお前のことを完全に忘れ信用しているわけじゃない。今は協力しようとか言ってるけど、実際は裏切ろうとしているんじゃないかとも思っている」
と、俺は正直に答える。
「早めに答えを出すんだな。さもないと死ぬぞ」
尚子はそう言ってソファから立ち上がって玄関の方へ向かい、うつらうつらしていたハートも目をこすって尚子の後について行く。眠くなっちゃったんだね。
「それじゃあまた明日、今日と同じ時刻に答えを聞きに来る」
尚子は玄関のドアを開けながら言い、
「みんなばいば~い。ふにゃ~ん」
ハートはふにゃふにゃと、見送りに来た凛、ジョーカー、エースに手を振った。
それに対して3人も微笑んで手を振り返す。
なんともほほえましい光景だ。
To be continued!⇒
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます