第0話 東京魔術学園高等部(後編)

■隆臣視点



 またこの夢か。

 遥か過去にタイムスリップして世界のために……大切な人たちのために数々の任務を遂行する。そして同じく過去を改変しようとする組織とそれぞれの正義のために無駄な血を流し合う。そして世界が崩壊して全て手遅れになる夢だ。

 しかも夢なのに感覚が超リアルだから一瞬夢であることを忘れちまうんだよな。


 そして6時間目の3級魔獣との実践後に俺は気を失い、またこの夢を見ていたようだ。

 目を開けるとそこは見知らぬ天井だった。窓の向こうは薄暗い。3時間くらい眠っていたのか?

 上半身を起こす。いてて……体中が痛い。そりゃああんなパワーでタコ殴りにされたら打撲の3つや4つは免れないよな。

 目の前には篝、亮二、薄男、鬼瓦先生の4人がいる。



「お! 起きたか隆臣!」



 と篝。



「ここは……?」


「保健室だ。まったく無茶しやがって」



 亮二は安堵した様子で答えてくれた。



「すまなかった品川! まさか共食いをして準2級相当に成長した3級魔獣が紛れ込んでいるとは思わなかったんだ! だがよくやった! 一切の魔力を使わずにそのフィジカルだけで準2級相当を駆除したのは賞賛どころの騒ぎじゃない。最高評価のS評価にしようと考えていたがそれでは足りん! 謝罪の念も込めてSSSトリプルエス評価を与え――」


「――はいはいーい。先生話長すぎです。それにもうこれ以上男はいらないでしょう。ねえ品川君」



 熱く語っていた鬼瓦先生を保健室から摘み出しながら話しかけてきたのは保健室の先生だった。

 高身長・巨乳・美人の三拍子が揃った典型的ステレオタイプの保健室の先生だ。名札には茅場かやばともえと書かれている。



「体の具合はどう? 全身アザだらけだったけど」


「全身痛いです」


「まあそうだよね。もしなんかあったら早めに病院に行ってね」


「はい、わかりました」



 茅場先生は優しく声をかけてくれた。てか胸でっか! メロンくらいはあるぞ。

 あれ? そういえばこの業界には治癒魔法ヒールってないのかな? ほらドラクエならホイミとかFFならケアルとかあるじゃん。

 ないから俺はまだ全身が痛いままなのか。それとも激ムズの魔法で誰でも彼でも使える代物じゃないのかな。



「みんな心配かけて悪かったな。もう無茶はしない」



 そう、無茶はしない。無茶なんてしなくても勝てるくらい強くなって俺はあの子たち・・・・・を守るんだ。



「家まで送ってくよ」


「ありがとうございます。よろしくお願いします」



 俺は茅場先生の厚意で田町の自宅まで車で送ってもらうことになった。



――――――――――――――――



 1週間後。全身のアザと痛みはすっかり消えていた。

 1時間目数学1。因数分解の応用問題……ギリ舞える!

 2時間目古文A。コイツは日本語じゃない。

 3時間目数学A。確率の問題はサイコロの気持ちになれば解けるって偉い人が言ってた! でも俺にはサイコロの気持ちはわからなかった。

 4時間目美術。絵とかムリだから。

 昼休みは俺、篝、亮二、薄男のイツメンで食堂に行って昼食を食べる。今日はボロネーゼとマルゲリータを注文してみた。この2つは初挑戦だったけど、食ってみた瞬間飛んだ。

 5時間目は魔法学7。今日は「魔力操作理論と魔導具まどうぐ理論」の小テストがあった。もちろん爆死した。だが未知の文字の正体が判明した。アレはルーン文字というらしい。


 6時間目は実践1。魔導具を使った実践。

 魔導具は俺にとって魔獣との戦闘の要だ。その名の通り魔法を導く道具で、魔力を一切操作できない俺でも格上の魔獣を倒すことができる優れもの。

 つまり3級魔術師とかいう底辺の俺でも2級魔獣や準1級魔獣を駆除できるかもしれないってこと。

 今日は魔導具を使った総合実践。俺は学園から日本刀型魔導具――妖刀村雨を借りて1つ格上の2級魔獣に挑む。

 ムラサメちゃん出てこないかなー。あ、これ幼刀じゃなくて妖刀か。

 俺は先週不慮の事故で準2級を倒してるから、今日2級を駆除できれば準2級魔術師になることができる。

 ちなみに2級に上がるには筆記試験が必要らしい。2級への昇格はゴールデンウィーク後だな。

 あの子たち・・・・・を守るためには強くならなくてはいけない。ただでさえマイナススタートなんだからどんどん昇級しないとな。


 俺は村雨を左手に持って実践場に入る。

 檻が開いて2級魔獣が登場。現れたのは全長3メートルはありそうな巨大な狼型の魔獣だ。

 やはり3級とは違って外見がはっきりしているな。それに先週の人型魔獣とはオーラが違いすぎる。コイツの方が格段に強い。

 だが今の俺には武器がある。先週みたいに死にかけたりはしないさ。

 ブレザーを脱ぎ捨てワイシャツの袖をまくり、そして村雨を鞘から抜く。

 これは剣道ではない。構えや型なんてものは必要ない。魔獣の駆除さえできればいい。

 俺は右手で刀身を握った。いってぇ!

 血が刀身を伝う。だがこれでいい……はず。魔導具の真の力を発揮するためには血が必要らしいからな。借り物だが頼むぜ村雨あいぼう

 俺は村雨を前に突き出して構える。さあかかってこい!

 2級魔獣が飛びかかってきた。

 先週の人型魔獣よりノロイ! 俺はサイドステップでヤツの攻撃を避け、村雨でヤツの左前脚に斬りかかる。



 ――ズシャ!



 さすがは日本刀。体毛越しでもヤツの肉を切ることができたぞ。凄まじい切れ味。

 だがヤツは一切怯まない。なんて野郎だ。

 反撃をくらわないようバックステップで一旦距離を取る。

 日本刀の凄さはわかったが……これ本当に魔導具か? 魔導具なら何かしらの効果が発動されるはずなんだが。それとも村雨の効果は切れ味アップとかなのか? それならハズレじゃん!

 俺はヤツに向かって一直線に走り左手に持っていた鞘をヤツの顔に向かって投げつけた。

 ヤツは右前脚でそれを薙ぎ払う。その際にヤツは自身の右前脚で俺が見えなくなる。その瞬間に俺はヤツの顔面に斬りかかった。

 鮮血が吹き出す。いいぞ。やはり武器があればかなり攻撃が捗るな。それに今の攻撃で左目を潰せた。これはデカい。

 俺はすぐさまヤツの懐に潜り込んで喉元に村雨を突き刺す。そしてそのまま尻尾の方に向かって走る。



 ――ズシャアアアア!



 大量の血を浴びながら俺はヤツの腹部を切り裂いてやった。臓物がこぼれ落ちる。

 しかしヤツは一切怖気付くことなく俺に向かってくる。マジかよ!

 俺は砂を蹴り上げ巻き上げた。お前は頭が低いからコレはよく効くだろ!

 たしかにヤツの右目に砂は入った。その証拠に両目を瞑っている。

 だがヤツは攻撃をやめなかった。コイツ中身イノシシかよ!

 俺はヤツの右前脚のひっかき攻撃を村雨で受ける。

 その瞬間、



 ――ポキン!

 


「え?」



 村雨の刀身が折れた。嘘だろ! 妖刀ってこんなにあっさり折れるもんなのか!

 そして俺は吹き飛ばされる。いてて。パワーだけでいったら先週の人型魔獣よりもコイツの方が断然強いな。だが村雨を犠牲にダメージは最小限に抑えられた。

 間髪入れず狼型魔獣が襲いかかってくる。

 何とか躱して左前脚の傷口に折れた村雨を突き刺してやった。

 結局最後は殴りかよ! いいぜ! やってやるよ! そういう運命なんだろ!

 俺を引き裂こうと両前脚の爪が迫り来る。

 俺はジャンプしてそれを避けヤツの頭に蹴りを入れる。そして着地と同時に大きく踏み込んで渾身の右ストレートを鼻先にかましてやった。

 狼型魔獣は倒れて動かなくなる。


 よし……なんとか2級魔獣討伐完了だ! これで俺も晴れて準2級魔術師か。

 とはいえ魔力操作の習得や魔法学1〜6の修得など課題は山積みだ。

 ようやくスタートラインかと思ったがまだまだ先みたいだな。

 これからの道のりは辛く厳しいものになるだろう。だが俺はあきらめない。この手で……あの子たち・・を救うために!

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