第21話 円怒る
「お姉ちゃん、雪さん。クリアボール私に任せてくれないかな?」
円はそう雪と環に話している。
「私、信治さんにあんな事したゴブリンを許せないし、悪質なファウルはいつもの事だけど、あんなサッカーを冒涜するファウルは許せない。私は怒ってる」
「円?怒るなんて珍しいわね。でも私も同感よ」
「まぁまぁ環さんも円さんも落ち着いてください」
微苦笑を浮かべ円と環に雪は話しかける。
「雪もそうとう怒っているみたいね。表情に出ない分、怒りが深そうね」
環は雪の精神状態を察して話しかける。雪は冷静で微笑んでいる事が多い。だけど微苦笑を浮かべるなんてめったに無い。自分の怒りの感情を制御しているのだ。だから表情に気を払う余裕がないのだ。
「スローインするぎゃ」
「とにかく今は時間が無いから私にボールを回してね」
「分かりました」
「円、サポートは任せてね」
「うん、お姉ちゃん」
ゴブリンの主審の笛がなる。
本来ならばゴブリンのボランチにプレスをかけてロングフィードの精度を落とすべきなのだが、王子は足が遅いので、自陣で守り、本来、行うべき雪もバイタルエリアを守る為にプレッシャーにいけない。ゴールエリア内の人数はゴブリンの方が多く、ゴブリンにオフサイドトラップは効かない。なぜならばゴブリンが主審だからだ。ゴブリン有利の判定を行うに決まっている。
それはチーム全員の共通の意識だった。
先ほどの会話を聞いていたのだろうか、バイタルエリア付近にゴブリンスナイパーが移動していた。ミドルシュートな得意のゴブリンスナイパーにとってはこぼれ球をシュートする最適な位置なのだろう。
信治がいなくて、大きなスペースになっている左サイドにボールは飛んでくる。
「エアリアルアロー」
右サイドハーフのゴブリンの体を淡い魔法による緑の光が包み込む。
自信に強化魔法とボールに魔法をかけたのだった。
魔法は禁止されてる。だけど異世界サッカーのルールを守る気はさらさらないのだろう。
ゴブリンの主審も止めない。
正確なクロスがゴールエリアに飛ぶ。
「ロックフォール」
黄色い魔法の光に包まれたホブゴブリンの左センターバックが大声で叫んでいた。
高い所から岩を落とすようにボールを叩きつけると言う意味だろうか?
しかし、そのホブゴブリンにボールが届く事は無かった。
ゴブリンのゴールキーパーやホブゴブリンのセンターバックが競り合う中、ジェシカがパンチングで大きくボールを跳ね返した。
ゴブリンスナイパーを引き連れて雪がボールを拾う。
ボールを奪おうとするゴブリンスナイパーをかわして、円にパスを出した。
「円さん、お願いします」意図のアイコンタクトを円に送る。
こくっと円はうなずくと大きくボールを蹴りだした。
クリアにしてはフィールドの真ん中を飛び過ぎている。
円とゴブリンのゴールキーパー以外はそのボールの意図に気づかなかった。
「ボランチもどるぎゃ、あれはクリアぎゃないぎゃ、シュートぎゃ」
「この距離から入らる訳無いぎゃ」
「主審が何かファウルを取ってくれるぎゃ」
ゴブリンが言い合いをしている間にボールはどんどん飛んでいき、ペナルティエリア内側に落ちて転がって行く。
そしてゴールラインを割った。
円の周りに環と雪とナターリアが集まってくる。
「お姉ちゃん、やったよー」
「円やるわね。さすが自慢の妹よ」
「ナターリアでもできない事ないけどグッジョブなの」
「すごいロングシュートでしたね。でもこれは1点以上の効果がありますね」
「雪ちゃんどういう事?」
「お互いに陣形を整えて再開しないといけませんし、ゴブリンのゴールキーパーはもう前線にいけません。それにロングシュートが決まらなくてもゴブリン達はボールを拾いに戻らないと行けなくなりました。どんどんロングボールを蹴りましょう」
「ふぇ?」
雪の発言を聞いた円は小首をかしげる。
「もうゴブリンたちは無茶ができないことよ。円は難しい事を考えずにロングシュートを狙えばいいのよ」
「そうなの?環お姉ちゃん。頑張るね」
「審判どうするぎゃ。前線に張り付けておくのか?」
「パワープレイ継続ぎゃ。点を取らないと勝てないぎゃ。そろそろ守る側の集中力も切れるはずぎゃ。ボランチは走り回るぎゃ」
「カウンターを喰らった対処できないぎゃ、サイドバックも戻すぎゃ」
ゴブリンのボランチが言う
「サイドバックは高い位置でプレッシャーをかけるぎゃ」
「審判、ゴブリンたちは魔法を明らかに使ったと思うのだが、禁止事項ではなったか?」
アレックスは忙しそうな審判に話しかけていた。
「うるさい。だまれ。クズ人間どもは黙って殺されろぎゃ」
ゴブリンたちは明らかに混乱に陥っていた。
自分たちが押し込んでいると思っていたら、実はカウンターストライクの対象になって責められていたのだ。円にはそこまでの意図は無かったが、1点以上の効果があるシュートだった。
ぴぴ
第四の審判である天使の笛がなる。
信治の治療が終わったのと得点を示す板を上げていた。
「全員処置配置に戻るぎゃ。そこの左サイドバックも試合に入るぎゃ」
全員が落ち着いた所で試合が再開されそうだった。
信治は試合がここまで来たら勝ちたいなと強い闘士を燃やしている。
必ず勝つ。信治はそう思っていた。
続く
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