(ここは…俺ん家か…)




意識が定着し、視覚と聴覚で状況を確認する。

どうやら俺はリビングでゲームをしているらしい。そしておそらく14年前の両親がいなくなる前の記憶だと判断する。




(懐かしいなこのゲーム。結局飽きちゃって最後までクリア出来なかったんだっけ)




視界の隅で時計を確認する。




(16時20分か。たぶん後1時間くらいでお父さん帰ってくるな)




わたるー、ちょっと手伝ってー




懐かしい声が聞こえる。長い年月が経っているのにその声を聞くだけで安心し満たされる。




いまいいとこだからちょっとまって!




(この野郎、2人がいなくなるのを知ったら泣きわめくくせに。いつまでも一緒にいれると思うなよ)




心の中で意味もない悪態をつく。相変わらずゲームを止める気配はない。




あんまりお母さんを困らせるとお父さんが弥のゲーム没収しちゃうよー




もう!わかったよ!




不貞腐れながら素早い指捌きでゲームをセーブする。本体をスリープモードにしお母さんのところに向かう。




なーにおかあさん




(お母さん…久しぶりに顔を見るなぁ)




長い髪をひとつに結びエプロン姿で台所に立つ姿は主婦そのものだった。細く綺麗な指で手際よく食材を切っている。




わたる、お母さん料理で手が離せないからお風呂掃除をお願いしたいんだけど




えぇー、めんどくさいよ




子どもらしく駄々をこねる。嫌がっている素振りにしては嬉しそうな雰囲気があった。




わたるがお風呂掃除してくれないと、お母さんとても困っちゃうんだけどなぁ




うー、わかったよぉ…




しぶしぶお願いを聞いてお風呂掃除に行った。




(こんなにもごく普通の日常なんて本当に久しぶりだ)




ゴシゴシ




(お父さんの顔も早く見たいな)




ゴシゴシ




(あぁ、味覚も感じれたらお母さんの手料理味わえたのか)




ジャー




(いかんいかん、俺は克服にきたんだ。気を引き締めないと)




お風呂掃除を終えてリビングに戻る。

テーブルには出来たての料理が並んでいた。




わたるー、お父さん帰ってくるから玄関開けてきてー




はーい




ガチャ




玄関ドアの施錠を解く。




再びリビングに戻ろうと背を向けたその時、ドアノブが回る音が聞こえた。




おとうさ、ん…




振り返ったその先にはお父さんの姿はなく見知らぬ女の人が立っていた。




ボサボサの髪の毛にシワが目立つ服装。

その女の目は明らかに血走っていた。




女は土足のまま上がってきた。肩で風を切るようにドタドタと歩き出す。




ど、どちらさまです



ドンッ




最後まで言葉を聞いてくれることはなく俺は壁に突き飛ばされた。

女は俺のことは見向きもせず真っ直ぐリビングに向かっていった。




うっ…




ヨロヨロと立ち上がり女のほうを見ると女の手には鋭く光る刃物が握られていた。




(うそだろ…)




もう俺には展開は予想できた。それもとびっきり最悪の展開が。

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