第46話 英雄達の挽歌
“化け物”級の強さを誇れる者が3体、ラプラスの町の教会に降臨した。
それだけでも警戒はすべきなのですが、やらなければならない事―――那咤の回収は何としてでもやらなければならない……
「あの、少しいいだろうか? その人形は私の所有物なのだ、だからどうしても返してもらいたい。」
先程は「それ」で断られた。 それは今回もでしたが、カルブンクリスは更なる条件を用意していました。
「別に“タダ”と言う訳ではない。 この私の願いが叶うなら、何か一つあなた方の「願い」を聞いて差し上げよう。」
言葉は、慎重に選びました。 その上での“交渉”―――相手方が提示して来る「願い」が無理なものではない限りは、この交渉の難度は低い―――しかし、この得体の知れない者達の「願い」は一体どの程度なのだろうか。 『魔界を譲渡せよ《余程無茶な要求》』ではない限りは―――
「ああ、そう言えばそんな事を仰っていましたね。 いいですよ?別に。」
「そうか、それは有り難い。 ではそなたの「願い」とはなんなのだ。」
「願い?? 別に、構いませんよ?」
「いや、だがしかし、先程は無条件でも断ったではないか。」
「ああ……あれは、供物を釣り出す為に言っていたに外なりません。 まあ
「あら、それは私の事を言っているのかしら? 団長様も程度の低い生贄を捧げられた所でいい迷惑―――だとは思うのですがあ?」
「和して同せず」とはこの事か―――同じ仲間の輪の中にいながらも、その
「<
「……どうにか無事なようだが、欠損したデータはないか?」
「<
「判った、そのままで聞いてくれ。 何故お前はシステムを
「……………………。」
「おい?那咤―――」
「コワイ……コワイ……コノ那咤を破壊しようとした連中はさほどの脅威は感じられませんでしたが……アレは、アレこそは、まさしくの破壊の権化―――“神”に匹敵し得る者……」
「(言語が流暢になったと言う事は、システムは完全に回復したと見ていいね。)それより、そうか……やはり原因は“彼女”―――判った、よく休むといいよ。」
「はい、申し訳ありません、マスター・カルブンクリス。」
“そのまま”を見ていると、ヒトの死体を見ているかのようだった。 しかし、カルブンクリスが手順を踏まえ何らかの操作をすると、途端に黄泉返り始めた。
けれども、
とは言え、こんな事情を知らないシェラザードの親衛隊たちは……
「こいつ―――死んだものとばかり思っていたが、復活魔術もないままに復活しやがったぞ??」
「フン、奇妙だがそこの犬っころよりも利用価値はあるようだな。」
「なんだとぉ?このぉ……オレの事を毎回毎回犬扱いしやがってえ~!」
「止めておけ、見苦しい。 それより魔王様、この者は?」
「これは、私と太乙真人とで開発をしていた、「多方面戦略兵器」―――那咤と言う。 君達も知っての様に私がラプラス達の壊滅を視野に置いた今回の征伐戦は、この那咤完成を期に発動させたものだ。 故に、那咤に支障が来たしてしまったのなら征伐を中止させて魔界へと戻るか、修理・点検をして留まるかしなければならなかった。」
「ふぅん……それで、征伐戦はすぐにでも再開できそうなんですか。」
「ああ、この調子なら明日から再開できそうだ。 ただ―――……」
「『ただ』? ただ……なんです?」
「いや、なんでもない……」
『なんでもない』と、その者は言いました。 言いました―――が、その実は?
『なんでもない』訳がない。 その者自身の旧き友人の死が、すぐそこに臭わされているのだから。
だからとて、その事を伝える訳にはいかない。 伝えてしまえば「彼女」はその場へと駆けつけてしまうのだろうから。
何しろ「彼女」は、あるお話しの熱狂的な
だからこそ……伝える訳にはいかない。 何しろ、魔王自身の旧き友人達の死の延長線上に、『グリマー』であるシェラザードの死も臭わされていたのだから……
* * * * * * * * * *
そして―――“死”の運命は舞い降りる……それは例え、霊魂と成り果ててしまった者の上にも。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ラプラスの世界の各方面に展開されている戦線の一つ、それも
『緋鮮の覇王』『清廉の騎士』『神威』『韋駄天』の向かう処敵は、なし―――それに加えて悪魔的な頭脳で戦略を立てる『魔王軍総参謀』もいれば、鬼に金棒……でしたが、ラプラス側も意地があるのか―――英雄達に対抗する為の手段として送り込まれた者、それは―――『暗殺者』。
古代の英雄譚などに於いても、実に多くの英雄達はその生を全うする事はありませんでした。 政治的な「謀殺」や、娼婦を使った「誑し込み《ハニー・トラップ》」……等々。 中でも「暗殺」は、英雄だけに拘わらず国王までもその歯牙にかけられてしまうとあっては、油断は禁物―――油断は、禁物なのですが……ヴァーミリオン達もその点では、油断をしていたつもりは、毛頭なかった。
「ぐっ! ―――ぐぶっ!!」
「ホホヅキ―――?! どうした……」
「わ、判りません……ですが―――っ。」
「(この反応……?)毒物を盛られた? よもや先程の給仕が―――けれど取り敢えずは処置の方を。 これは私達の間で流通している解毒剤です。 これでなんとか……」
その日、ヴァーミリオン達もラプラスの世界の町で、食事を摂っていました。 その最中にホホヅキが血を吐いてしまった、一体どうして?
彼女達の仲間内では唯一そう言う
「ケホッ―――、ケホッ―――、ゲ・ホ・ッ……」
「おい―――おい!しっかりしろ!! どうなってるんだノエル……」
「そんな、バカな?? 私の里の薬剤が、効かない??? そんな……こんなはずでは!」
症状は、好くなるどころか悪くなる一方。 そしてついに、『神威』ことホホヅキは、そのまま帰らぬ人となってしまいました。
仲の良かった幼馴染を、ラプラスに殺されてしまった……その想いだけで十分でした。 けれども、怒りに充ちたままで相手に対処をしようとは思わない事。
その事は、リリアの流派に於いて基本中の基本と言えました。 だけど、仲の好かった幼馴染を暗殺などと言う下劣極まる手法で殺されて、冷静なままでいられるだろうか?
冷静には、なれない―――。 なれないけれどしかし、冷静にならなければならないのが、流派の掟。
* * * * * * * * * * *
「お前か―――ホホヅキに毒を盛ったのは。」
「…………。」
運良く、リリアはホホヅキに毒を盛ったとみられる
そして“是”か“否”かを訊ねるも、相手は「うん」とも「すん」とも言わない。 けれども、「沈黙」は肯定と同じ―――やにわに剣を抜き、給仕を斬り裂く……も?
な……に?! これは―――≪空蝉≫? けどなんで……ノエルと同―――じ…
「ぐ・うぅっ?! き、貴様ぁ~~~!!」
「フフフ―――お前達を殺害せよとの仰せに、なぜお前たち全員を一度に相手にしなければならない? それにどうしてお前達を殺害するのに1対1でやらなければならない……」
「“1人必殺”―――確実に殺すには、判断を鈍らせ多勢でかかるに限る……」
「お前達の武はとくと見させてもらった。 あまり目立った行為は慎むべきだったなあ?『清廉の騎士』……。」
1対1、また多対1でも決してリリアが他の者に
そこを今回は狙われた―――それに、相手は1人だけではなく、多方面からによる刺突。 内臓に、胸部に、幾つもの刃は突き立てられ、剰え刃には猛毒が塗られていた……
* * * * * * * * * * *
「リリア―――リリア―――?」
仲間に何事かあった―――その証拠となるモノが、自分達が
その矢先に、『清廉の騎士』リリアが長年使い込んでいた武器の一部が、自分達の
これで、何事もなかったと思わない方がおかしい。 絶対に何かがあったはずだ―――そう思い、ノエルは己の総てを賭けて捜索をしました。
そして……見つけた―――荒れた野に横臥わる《よこたわる》仲間を。
ただ、これが罠ではないとも言い切れない、ノエルは最大の警戒をして横臥わる《よこたわる》仲間の側へと近づきました。
「リリア―――リリア、大丈夫ですか?!」
「あ……あ・あ……ノエル―――か……済まない、しくじっちまった……」
「喋らない方がいいです、傷口が広がりますから……それよりどうして?あなたほどの手練れが―――」
「気を……つけろ―――あいつらは手強い……それ・に、私はここまでの……ようだ…………」
「なにをバカな事を!冗談ならいつもの時に言うべきです! 今は非常事態、冗談なん…………て?? あ゛……リリ―――ア?」
「私はここまでのようだ、そして―――『韋駄天』、お前も、な。」
最大の警戒は―――していたはずでした。 無論ノエルは忍、その事にかけては仲間内では随一のところがあったのですから。 けれども、そんなノエルですら欺いた『暗殺者』。 傷付いた仲間を装い、最大限に身体が密着したところを見計らい、背中から―――
油断はしたハズもないのに、これまでの“馴れ合い”が油断―――だった、のか?
いずれにしろ、
* * * * * * * * * * *
「(おかしい、リリアだけでなくノエルまでも単独行動に
ベサリウスよ、お前は至急ササラや盟友にこの事態を詳細に報告せよ。」
「判りました……ですがヴァーミリオン、あんたも無茶だけは控えておくんなさいよ―――呉々も……」
自分が率いる小隊を分断され、各個撃破をされている? そんな感覚に陥ったヴァーミリオンは、軍師役であるベサリウスに事の次第を、もう一軍の軍師を務めている『黒キ魔女』と『魔王』に報告するように伝えました。
しかし―――この事が仇となってしまった……逆を返せば、ラプラスにとっては千載一遇のチャンス! ホホヅキやリリア、ノエルは今現在を生きる者達、けれどしかしヴァーミリオンは過去に死んだ、言わば霊魂。
霊魂の相手と言えば、やはり……
「ぐっ…ぬうっ?! な、なんなのだ、この感覚は一体……!」
「ほほーーーう、おやおや、存外しぶといものですなあ?」
「貴様……何者だ!」
「これはこれは、お初にお目にかかる―――『緋鮮の覇王』の霊魂……このわたくしめは、しがない……そーーーーう、しがないただの、『
「なに……っ?!『
「ええ~~~そうですとも、この世に
『
しかしながら、それだけでは終わりませんでした。 そう、ヴァーミリオンがこの現世に顕現出来ていたと言うのも、ある者の存在を依り代に媒介しての話し。
当然のことながら、ヴァーミリオンの霊魂が消え去ってしまえば……
「ぐ……ぁあっ! く、くそっ、なんて事をしやがる! ヴァーミリオンは悪霊なんかじゃ……」
「ふうーーーむ、ふむ。 依り代に使われておったガキか、さてもさてもこのガキの処分は『賢者』様より言い遣わされてはおらなんだが……」
そう、その場に残されていたのはヒヒイロカネのみ。 とは言え、当面ヒヒイロカネの処分までは言い渡されてはいなかったようなのですが、果たして残されたヒヒイロカネの運命や、いかに?
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