第44話 教会の“聖職者”
“不幸”中の“幸い”か―――今回魔王カルブンクリスの玉座を冒し未曽有の混乱をもたらした者達は、自分達の意志でその場から離脱した……いや、認識から外れたと言うべきか。
それにしてても不吉な「予言」。 自分が大切にしている旧き良き友人達……のみに拘わらず、またしても可愛がっているシェラザードの生命までも脅かされてしまうとは。
この上は、もう私の眼の届く処に置いておいて、新たに創設させた彼女自身の「親衛隊」と、「
それに幸いにして私も魔界へと戻っている事だし、このままシェラザード達が魔王城へと来るまで待って、それから征伐戦の再開とするしかないか……。
今回決意して実行にまで移した「ラプラス征伐戦」。 この計画は、勿論カルブンクリスやササラ、竜吉公主やウリエルと言った魔界の重鎮と幾度もすり合わせを行い、話し合いを行った産物といえました。
しかし、ここまでのことで判った事だけを言えば、ラプラスへの認識の甘さ。 それに“第三者勢力”の事を因子には入れていなかった。
しかしその“第三者勢力”からの情報提供のお蔭で、不測の……それも『シェラザード
カルブンクリスが魔王となるまでに培ってきた
本当の事だけを言えば……欲深い事だけを言うのなら、友人達の生命も救いたかった。
しかし、淡く蒼い髪をした―――眸をした『
『それにこれは絶対不可避―――避けては通れない道』……
『避けては』?『通れない道』?? すると、敢えて『避けた』とするなら試算できている被害では収まらないと言う事か??!
今回の事はなるべく少なくこちら側の被害を抑えさせるよう、計算に計算を重ねて試算させたものだ。
そして「これで充分だ」と私自身が思ったからこそ「
だが、ここで私が逡巡を―――
“前代”とは違う“今代”の魔王、カルブンクリス……。 その彼女はとても思慮深く、彼女自身の臣下はもとより、彼女自身の民は大切にしていました。
その中でも旧きからの友誼を結んでいた友人達や、彼女自身が期待を寄せている者への愛情は殊の外深かったと言えたでしょう。
* * * * * * * * * * *
それよりも―――カルブンクリスからの言い付けの通り、自分自身の「親衛隊」を結成し終えたシェラザードは……と言うと。
道中で、不吉な噂の事を聞いた。 なんでもシェラザードが敬愛する魔王の玉座が、得体の知れない何者かにより占拠。 汚されてしまった事を。
その事で至急魔王城へと辿り着いた者は―――
「侍従長―――サリバンさん! まだ不届き者はいる?」
「シェラザード様―――いえ、今はもう……」
「そ・う―――……」
「それよりも、例の噂を聞いただけですっ飛んで来るなんて……これがラプラスの計略だったとしたら、どうするつもりだったんだい。」
「魔王様―――いや、けれど、しかし……」
「君は、
魔王からの言葉には、嘘偽りはありませんでした。 それほどまでに、自分の『グリマー』としての役割が求められている事を知るのですが。
だけどそれは―――『グリマー』として……シェラザード個人ではない事に一抹の寂しさはありましたが。
「それよりも、一体どんな奴なんです。 魔王様の玉座を穢したの。」
「うん……それがね、正直な事を言うと、よく判らない―――」
「え?よく判らない―――って? 魔王様ほどの方が??」
「ああ、よく判らないんだ、あれは。 この厳戒態勢が敷かれた魔王城に侵入を果たしたのは「3人」。 存在が確認取れたのはその中の1人でしかない。
その1人も私と同じ『魔王』を
「“闇”……それに“悪”だなんて、エニグマになったクシナダじゃ―――」
「“似たような存在”と言えばいいだろうか。 しかしクシナダは少なくとも
自分達が認識し始めているあのラプラスよりも
明確に対抗をしている「敵対勢力」―――それに加え、状況と条件さえ整えば「敵対勢力」にもなり得ると言う、不明確にして不明瞭な「第三勢力」の台頭。
しかも現在は「ラプラス征伐」の真っ最中―――ならば一体どれを優先させればよいのか……
「それで―――魔王様はこの後どのように……」
「今回の「ラプラス征伐」は私が発起人だ。 その発起人が途中で投げ出していては示しがつかない。 それにラプラスを撲滅させることで脅威の芽が一つ減る事は願ってもない事だ。」
この魔王の決断により、魔王カルブンクリスとシェラザード達の行動指針は決まりました。
それにしても……もう一人の『魔王』を
しかしその事を、素性の分からない存在から言われた処でどれだけ信用していいのだろうか。 “龍”vs“虎”、“獅子”vs“虎”のように互いを傷付けあう闘争を繰り広げた後で、“狼”や“狐”の様な「漁夫の利」を貪る者に横から掻っ攫われないか―――
けれど今は不倶戴天の敵を殲滅するのに心血を注がねばならないのです。
* * * * * * * * * * *
「―――ふふん、どうやら動き出したみたいだな。」
「どーやら向こうさん、私達を警戒しちゃってるみたいですけどね~」
「まあそりゃ、そう言う反応するでしょうね。 私達だって“彼女”が私達の世界に来た時には驚いたものでしょう?」
「ははッ―――違いねえ。 それにちょっとでも晒しといた方がいいだろう?全く
「ニヒヒ―――兄ちゃんの悪知恵、今日も冴えてますよねーーー全く相変わらずの極悪人ぷり♪」
「おいおいおい、そう褒めるなよ照れちまうじゃねえか……ゲハハハ!」
「全く……今のどこがあなたの事を褒めていると言うのかしらね、『人中の魔王』様。」(クスクス)
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
例の異常事態を収め、再び魔王カルブンクリスとシェラザードはラプラスの世界へと舞い戻りました。 しかし今度は、シェラザードの親衛隊も伴って。
それに一部の隊員達にしてみれば、ラプラス自体もそんなには詳しくはない、加えてそんな者達の「世界」なんて……
「お―――おいおい、ここがラプラスと言う奴らの世界なのか……。」
「ふん、所詮は野良の犬っころだな、こんな事で怖気づくなど……。」
「やせ我慢は良くない、無理をするな。 それより~~~へ、陛下……」
「ん~?どったの。」
「なんだかこの「陛下」と言うのまだ慣れなくて……「シェラザード様」でも構いません……でしょうか?」
「別に、いいよどんな呼び方したって。 ガラドリエルが呼びやすい方で呼んでくれれば、さ。」
自分達もよく知らない者の世界―――それは不気味の何者でもありませんでした。
その事で様々な意見が出る《それがいわゆるひと悶着》のでしたが、ほんの少し前まで「上司とその部下」だった者達は……
「久方ぶりですかな―――」
「ああ、うん、君も他の者達と上手くやれているようでなによりだ。 それよりもホウンセン、これを見てどう思う。」
「所見を述べるならば……あなた様がいなくなった隙に、かの兵器を破壊しようと送り込まれた者達が、また何かの意志を持った者により食い散らかされた……全く酷いものだ、まるで野獣の食事の後だ。」
「“現役”―――いや“全盛期”だった頃の君で、この者を
「無理でしょうな。 まずこの者は無意味に食い散らかしているように見えて、的確に急所を捉えて壊しつくしている。 自分も以前、無手の達人と渡り合った事がありましたが……この者はその達人以上と見られます。」
その場所こそは、カルブンクリスが魔界に戻るまでラプラスを掃討していた場所。 そして、「兵器神仙」である那咤を待機させておいた場所―――で、あったにも拘らず、そこには那咤の姿は確認されませんでした。 ならば、善戦したものの虚しく破壊をされてしまったのか―――そう思い、辺りを隈なく捜索してみたのですが……部品の欠片すら見つからなかったのです。
ただ、激戦・激闘があった
そんな矛盾を抱えつつも、やがてカルブンクリスとシェラザード達は、ある町に辿り着きました。
しかしそこは―――そう、このラプラスの世界の町。 住人はもちろん……
「(ま、言っちゃラプラスだよね~~)」
「(なら全員ブッ殺しちまおうぜ!)」
「(バカか、お前は、相手は非戦闘要員だぞ。)」
「(とは言ってもラプラス……皆一応警戒はせよ。)」
そう、ラプラス―――だけれども、相手は如何せん「非戦闘要員」。 それに……?住民達全員が、見知らぬ者達である自分達に怯えている?
それはそれで当然なのでしょうが、シェラザード達にも言い分はありました。
そう―――今現在の彼らは、過去の自分達……宣戦の布告すらなく襲い来た者達と、“同類”……情けをかける謂れなど―――ない。
「やあ、始めまして。 私達は別段あなた達に危害を加えるつもりはないよ。 ただ、近くで小競り合いがあったようでね……少しばかりお邪魔をしてもいいだろうか。」
人当たりの好い―――特に敵対する意思を表に出さず、話し合いの場を設ける。 それはカルブンクリスの特技の一つと言えました。
しかしこんなもので警戒は払われるものか―――と、疑わしい限り……でしたが。
「(払われ……ちゃったね、警戒。)」
「(ケッ、面白くもねえ。)」
「(ふうむ……しかし、ここの住人達のこの怯え様、何なのだ?)」
「(ああ……私達にではない―――様にも見えるのだが……?)」
「(油断はするな、この“感じ”―――何かがいる……)」
自分達への警戒は払われ、町に入る事を許されたカルブンクリスとシェラザードの一行。
しかしなぜ、カルブンクリスはこの町を目指したのか。 なぜ、この世界ではない自分達の姿を晒すと言う危険な行為に及んだのか。
その理由は実に
何故ならこの町の「ある施設」から、ある存在の確認が取れていたから。
ではその「ある施設」とは……この世界の神を奉る場所―――『教会』。
* * * * * * * * * * *
「ごめん下さい―――少しお邪魔を、よろしいかな。」
「はい―――どなたでしょう。」
一目見ただけで判った事。 その者は聖職者……それも、カルブンクリスやシェラザードも知っている、元はラプラスだった『女司祭』―――クローディアを彷彿とさせました。
しかしクローディアは現在、この町とは違う場所にいる、その事はカルブンクリスにシェラザードは知っていました。
だからこの女の聖職者は、クローディアでは……ない。(?)
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