第24話 闇の胎動
『都合の好い考え方』とは、まさに「思い描いている通りに事態が進めばハッピー・エンドに終わる。」……でしたが。 そうならないのが世の常―――だからこそベサリウスは、彼自身が「こうなったらいいのに」という思いをそこで語ったのです。
その事を聞き、眉を曇らせる竜吉公主―――
確かに、彼が言っている通りに事態が進んでくれれば、長年私達が頭を痛めさせていた問題の根本から解決が出来る。
けれど相手はラプラス……そう簡単にいくはずが―――
確かに都合の好い部分だけを聞かせられ、まさにその通りに事態が進捗していけば、今後一切ラプラスからの襲撃の種は無くなるであろうことは容易に予測が付きました。
けれども何事も思い通りに行かないのが世の常。 都合の好い部分だけを信じて諸手を挙げて歓迎できるのは、まさしく凡愚の為せる業なのです。
* * * * * * * * * *
一方、オレイアに拠点を定め、ラプラス共の動静を伺っているヴァーミリオンの下に―――…
「少しお邪魔をいいかな。」
「カルブンクリス? どうしたと言うのだ。」
「次のヤツらの出現地点が判明した。
このオレイアより北西部……その辺りに彼の世界からの転移する為の
「なるほど、つまり出会い頭を叩きそのまま向うに殴り込み―――って訳ね。」
「いや、リリア。 君が言っている事とはほぼ同じだが、ヤツらのモノは使用しない。」
「それでは……どうやってあちらの世界に行こうと。」
「今、「それ」の完成を急がせてある。 タイミングとしてはギリギリになるだろうが、私からの「合図」があるまでは行動は控えてもらいたい。」
「承知いたしました。 ―――が、私達は彼の世界にそんなには明るくありませんよ。」
「そこも心配はいらない。 ある存在からの協力も仰ぎ、簡易ながらも向うの地図を作成させてある。」
「ニュクス―――公主でさえ封印するのがやっと……と言われた強敵が、な。」
「しかし、安易に信用してよろしいものなのでしょうか。 これが彼の者が張った罠とも―――。」
「私が観る限りではその心配は、ない。 それは彼の者に対しての処遇を見ても明らかだ。
それに―――……」
自分達のかつての依頼主―――カルブンクリスが依頼した『魔王ルベリウスの討伐』がきっかけとなり、その絆や縁は彼女達の間で一層深まりました。
そしてまた今、彼女達に対して依頼が配信されたのです。
* * * * * * * * * *
そう、ベサリウスの『都合の好い考え』とはまさにこの事だったのです。
「もしかすると主上は…………向うの世界への強襲を模索している。」
「それ―――って、「こちら側」からって事よね?! だけど……」
「忘れたんですかい公主サン。 こちら側には“オレ”達以上にヤツらの事を憎く思っているあの存在がいる。」
「ニュクス!!」
「恐らくですがね、主上はあの女から、あちらの世界の地図を渡されたんだと思いますよ。
「正確な地形」、「正確な戦術・戦略地点の位置」、もしかすると「兵の配置」まで記していたかもしれない……。」
「(!)だから………」
「そう―――だから主上は公主サンの処の、太乙真人てお人が計画していた事に目をつけ、計画の再始動を“強要”させた……。」
「そこまでして……あの御方の為にはならないと言うのに。」
「だが、こうも考えられる。 主上のはらわたはね、もう煮えくり返っているんですよ。 ええそりゃもう自分で抑制できないくらいに。
本当のことを言って差し上げましょうか? あのお人は、自分一人で終わらせようと考えていた節すらある。」
「けれど……そうしなかった―――」
「どうしてだと思います? あのお人は踏み留まったんです―――踏み留められたんです。
向うの世界にはどうやら『闇の衣』の事を知っている存在がいる、そんな処に出向いたって袋叩きに遭うだけだ。 だからと言って大きな犠牲を払ってまで向う側へ強襲をかける意味はない、そこで突き当たったのが―――」
「『那咤』―――確かに「生命莫キ神仙」なら、その心配はいらない……。」
「まあ、とは言えこれが“オレ”の『都合の好い考え』ってヤツです。
こう思ってている通りに事が運べば、「亭主元気で留守がいい」って事にもなるんでしょうがねぇ。」
「軍師」や「参謀」とは、「最悪」を想定してから最善の策を練る。
そんな魔王軍総参謀が、自分が都合好く考えた事を、自分の才を見込んでくれた人にだけ話しました。
そしてまたベサリウスは、本来の職務を全うする為、「最悪」から想定し始めたのです。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
その、また一方で。
魔王カルブンクリスの“想定”にも、ベサリウスの“想定”にも組み込まれていなかった「闇」が動き始める……。
その存在の本分は「闇」―――
その存在の性分は「影」―――
闇や影はどこの世界にもある―――だからこそ、任意の場所に
それは、太乙真人が開発していた『異界転移門』を使わずとも、またはラプラス達の『次元転移術』を使わずとも。
所かまわず
そして影の侵蝕から始まる生命の簒奪―――
その異聞を聞きつけ、即座に『賢者』は『槍使い』『重戦士』『神官』『呪術師』を呼集し、何があったかを探らせようとしたのですが……。
「なに? 全滅―――した、だと?」
「は―――はい。 かの四方一人として……」
どう言う事だ? 曲がりなりにも彼の者達は、我らが“神”の祝福を受け、身体や戦闘能力の底上げが為されているはずなのに。
「彼ら」……ラプラス達の世界に於いてそれなりの実力を有していた者達を一様にして“神”の
そして背けば
それに、ニュクスに敵わなかった者達が、どうしてかニュクスよりも手強い者に敵うはずがあろうか。
そこの処も疑義があった為、異変の原因を探るべく『賢者』自身が直接赴いたのです。
そこで彼女の見たものとは―――……
これは……ッ! どうした事なのだ??!
何もない―――なにも、ない…………
血の一滴どころか肉の一片さえも遺されていない―――
その場所には街や集落が形成されていたのに、元から住んでいた痕跡すらなかったかの様になってしまっていた。
無人の地―――
けれどこの事態が“ある存在”が為し得た事だと判るのに、時間だけが費やされてしまう事となるのです。
つづく
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