第21話 開発計画書番号 第漆弌零玖型《Project-no,7109》

スゥイルヴァン女王シェラザードが、かつて自分が味わわされた屈辱をそそぐ為、その相談を魔王カルブンクリスにしようとしましたが……


「魔王様にお目通りを―――!」

「シェラザード様ですか。 残念ですが今主上はお逢いになれません。」

「どうして―――!?」

「すでに各地からの報は主上の耳に入っております。 あの方はその報を受け、新たなる設備の開発に勤しんでおられるのです。」


侍従長サリバンにより、魔王と面会することは叶わなかった―――ただ彼女が言うのには、なにやら『新たなる設備の開発』に精を出しているらしく、しかも城内にある“あの場所”ではなく、どうやらまた別の場所にて―――らしかったのですが、ならば一体どこに?


        * * * * * * * * * *


「おや、珍しいねえ―――“表”で何かあったのかい。」

「フフフ……あなたにしてみれば、世間で何が起こっていようが『我、事に関せず』でしたかな。」

「それだけ皮肉が言えりゃ大丈夫なようだ。」

「実はそうも言っていられなくなった―――」

「ほおう?」

「私が目にかけている者がとらわれ、その尊厳をけがれにおとしめられてしまう処だった。」

「―――だとすると、『光の珠』かい。」

「そのようだ。」


その場所とは―――“三柱みつはしら”の一つ、〖聖霊〗は神仙族の固有領域である『シャングリラ』でした。

その場所でカルブンクリスが会っていたのは一人の神仙、名を『太乙真人』。

柔軟かつ自由な発想で、これまでになかった新しい概念を生み出す≪発明≫の権能を持ち合わせていました。


そんな神仙と魔王は、一体何を―――……?


「それで、以前依頼をしておいた件の進捗しんちょくは?」

「あの“2つ”の事かい?いくら私でもねえ、この身は一つしかないんだよ?」

「そうも言っていられなくなった、これは『緊急事態』だ、向うは『勇者』一党を繰り出してきたようだ。」

「『勇者』……そいつはちと厄介だねえ―――」

「恐らくは“神の使徒”を名乗る『賢者』の下で正常な魂がゆがめられ、あまつさえ“”を書き換えられてしまう事で更なる汚染が進行するのだろう。 それに哀しい事に、今の私達の技術では“彼ら”は元には戻らない……ならばせめて天に帰してやることこそが、私にしてあげられる事だとそう思っている。」


何も相手方の事情を知っていたのはラプラス達だけではありませんでした。

そう、少なくともカルブンクリスとジィルガは、ラプラスの事を知っていたのです。

ではその知識の“源泉みなもと”は……? それが【夜の世界を統べし女王ニュクス】だとしたら―――ただそれでなくとも、ラプラスに対抗する手段は常に模索し続けていたのです。

そこでニュクスからの協力を取り付け、ラプラスの情報を取り入れた、それも徹底的に。

そして同時に2つ、太乙真人に開発を依頼していたモノの一つが……


「だとしたなら―――開発を急がさにゃならんのは、“こいつ”の方かねえ……」

「『開発計画書番号ProJet 第漆弌零玖型no,7109』=那咤なたく=………」

「一応―――言うまでもない事だが、こいつは開発の段階で一度“ポシゃ”った事案だ、なにしろ『生きた素材』は一つとして使用しちゃいない、寧ろ無機質、ただまあ、その無機質も無機質なら言う事ないんだろうけどねえ……」

「『火尖槍かせんそう』『火竜鏢かりゅうひょう』『金咬箭きんこせん』に『乾坤圏けんこんけん』……だったかな。」

「神仙の権限を物質化武器化させる事で、その素体を組み上げさせた……加えてあんたから譲渡された『重粒子加速砲』やら、色々と危なっかしいもんを組み込んであるからねえ……だから神仙のモノだけだったら、どうにか以前の型番verで間に合ってたんだが……神仙以外のモノを取り入れちまったもんだから、そうした全部の制御をしなくちゃならない。 そうした機構システムを組み上げるのに手間取っちまったもんだよ。」


この2人が共同して開発をしていた、それが全身を兵器や武器で創造つくられた『兵器神仙へいきにんげん』だったのです。

それに『那咤なたく』とづけられたこの躯体くたいは、その全身を『兵器で創造つくられた』―――とはしていたのでしたが、外見上みかけのうえでは自分達とそう変わりはなかった……そう、外見上みかけのうえだけでは、シェラザード達とそう変わりはなかったのです。


そして調整の度合いがどうなのかをてみる為、動力を作動させると―――……


「〈システム・バイ・ノーマル〉――〈オールグリーン・クリア〉――〈タダイマ ノ キオン 23℃〉――〈シツド56%〉」

「お早う、気分はどうだい。」

「〈セイモンニンショウ;イッチ〉――〈セイタイニンショウ;イッチ〉――〈オハヨウゴザイマス マスター・タイイツ〉」

「ふうむ―――まだ言語化するのにたどたどしい部分があるようだが……」

「まぁだ起動して5分と経っちゃいないんだよ、そう急かしても何もなりゃしないって。」

「〈セイモンニン証;一チ〉――〈生体ニンショウ;一致〉――〈おはようございマス マスター・カルブンクリス〉」

「ふふ、中々のモノだ。 こうも短時間で私からのリクエストに応答こたえてくれるものとは、学習機能に使用している知能AIは何になるのかな。」

「お褒めに授かりありがとうございます。 只今私のメイン・オペレイションに使用していますのは『太極符印たいきょくふいん』の型番参ver3となっております。」

「うん、上出来だ。 では格納庫ハンガーから降ろすから自立して歩いて見せな。」

「〈使令受諾オーダー・アクセプト〉これより自立・自走すると共に、用意された標的を攻撃いたします。」


感情が一切ない人形―――ゆえにこそ、この『開発計画書ProJect』が発覚した途端、『凍結』を余儀なくされたものでした。

けれど幸か不幸か、世間の一方でラプラス達の侵攻騒ぎが目に余る処となった時、この『開発計画書ProJect』の事を知っていたと見られた今代の魔王の訪問を受けた…太乙真人は、最初は『凍結』されてあった例の計画の『廃棄』を、今代の魔王自身が言い渡しに来たものかと思ってしまったのですが……


『この計画を是が非とも役立ててもらいたい。』


その“言葉”こそは、表面上では依頼をしているかのようにも見えるのですが、言葉を交わした以上魔王と太乙真人は“対面”していなければならない……

紡がれた“言葉”は普通―――でしたが、醸した声色は明らかに違っていました。

それは自分の世界を荒らされてしまった事に対しての―――また自分が目をかけていた者への悪しき処遇の為され方に対しての―――やり場のない憤怒怒りの炎の吹き溜まりだったのです。




つづく



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