第16話 そこかしこで沸き立つ事案
それはまず―――鬼の郷スオウで確認された事象でした。
かつては緋鮮の覇王が所属をしていたクランに籍身を置き、そこのリーダーをしていたものでしたが、いつしか自分の力量不足を思い知り、結成されていたクランを解散後、今現在ではスオウへと身を寄せ、自分の母やその友人と共に厳しい錬磨に励んでいた―――ものだったのに……
うん? なんだ―――あいつ……
この辺ではあまり見かけない様式の「甲冑」を着込んだ戦士……?
―――がしかし……見るなり有無を言わさずすぐさま入れ替わった……。
「フ―――フフフ……中々に面白い見世物を視させてくれる。」
「感心せんな―――タダ見など……」
若い男性が、急に大人の女性と成った。
その事で驚くものと思いきや、この身慣れない甲冑を着込む者は興味を示し始めた―――そう……彼の者の眼前に立ちたるは、紛れもない強き敵。
「一太刀ご指南願う―――」
「フッ―――よそ者は礼節も知らんのか。 名乗れ……“
「おお、これは失礼―――思わぬ
拙者は―――『侍』と申す。」
「(『侍』……)なるほどな、私の“
その言葉が発せられたと同時に
その耳障りな音を聞きつけ、この地に逗留をしていた3名が馳せ参じる。
「ニル! なんだそいつは……」
「おのれ、狼藉者が!」
「お待ちを―――どうやら敵は、彼の者だけではないようです。」
そう……敵は『侍』一体だけではありませんでした。
魔術を得意とする『魔術師』、体術を得意とする『格闘家』、そして超獣を十数体従えた『魔獣使い』。
「なるほどな、こいつらがラプラスの最上位種……」
「私達も随分と舐められたものです。」
「しかし判らないものです―――なぜ今になって……
(幸い―――分断されることなく各一体ずつを相手とすれば事足りますが……かの超獣を引率ひきつれている者―――アレが少々厄介ですね。)」
優れた忍の条件として、常にどれだけ客観的に―――物事の視野を俯瞰して視られるか。
それをノエルはギルドマスターをこなしたことにより得ていました。
そして敢えて―――
「リリアは『格闘家』の相手を、ホホヅキは『魔術師』を、そして私は獣共の目を眩ませる為、アレを発動させます!」
敢えて―――向うが望む
けれどもそれは―――
≪忍法:“霧隠”・霧幻陣≫
辺り一面に霧を発生させ、視界を奪う術―――それは敵であろうが、味方であろうが……けれどしかし、彼女の仲間は既に心得ていました。
目で捉える事だけがその総てではない―――それを知っていたからこそ……。
≪
≪一閃;間引き≫
≪影殺;餓鬼道≫
互いの実力を知っている―――信頼をし合っているからこそ、その背中を任せられる。
だとて『侍』は
いや、それどころか……
「フ・フ―――中々に面白い座興を見せてもらった……。 アレは、『忍』の術のようだな。」
「なに?知っているのか、私と同じモノを操れる者を。」
「ああ知っているともさ。 拙者の仲間内にも『忍者』はいるのでな。」
思わぬ収穫―――と言うべきか、『侍』は自陣の陣容を喋ったのです。
しかも知れた事情が、ノエルと同じ『忍』がいる―――ただ、それだけではあまりにも情報不足でしたが。
すると―――……
「感謝―――すべきなのだろうな……。
私達は貴様達の内情を知らん、だが貴様達のお蔭で少しずつだか視えてきた。
それとどうやら……貴様達本来の名はあったようだが―――『侍』『魔術師』『格闘家』『魔獣使い』……そして『忍者』。
そのどれもが人の名ではない―――つまり貴様達は何者かに屈し、その本来の名を抜かれ、盲従してしまった軟弱者の成れの果てのようだな!」
「フ・フッ、痛い処を衝きおる。 応ともさ、拙者も『あの者』の前に屈した、だが拙者は更なる戦を臨みし身。
ぬしにも判ろう……この身を武のみに浸してきた者は、所詮安寧・平穏な世では生きられぬ
判る―――その『侍』の言いたい事は、判る……にしても、信じているモノが違う為、交わることのない「理念」に「志」。
だからこそ―――
「我が信念の前に貴様をここで葬り去る!」
「その意気や善し―――拙者も己の信念の為、貴殿をここで
この決着に二撃目は不要―――互いの雄叫びと共に交錯する剣閃と、互いの位相。
そして決着は着いたかと言う様に、鞘に納められる剣。
だがしかし、まだお互いは立ったまま……??
実に―――よい戦であった……
その一言が言い終わるのと同時に、その胴身を二つに割かれる『侍』。
互いの―――ヴァーミリオンと『侍』の実力は甲乙つけがたい程に伯仲していましたが、この勝敗の分かれ目となったのは……
「(……)『エセリアル・シフト』―――」
「ああ、そこだけが命運を分けたようだな。」
本来武器と武器とがぶつかり合えば、そこで鍔迫り合いが発生するのですが、彼の武器「デュランダル」自体が持つ特性の一つである能力を発生させると、相手の武器を通過させてそのまま斬り伏せると言う、ある意味凶悪な性能がありました。
{*ただしこの特殊能力は毎回発動されるモノではない。 それと言うのも下手に発動させてしまえば持ち主の身にも危険が及んでしまうからである。}
* * * * * * * * * *
こうして―――驚異の一つは払われたのですが……そう、何も脅威はこの一つだけではなかった。
被害報告は「スオウ」だけに留まらず、「マジェスティック」「ヴェリサ」「オレイア」と、各派閥の主要都市となっている処は軒並みに襲撃され、ラプラス達の意気込みも感じられたのです。
その―――報告を受け……
「陛下―――ご出陣なされるので?」
「当たり前だよ……この私達の
それがどんな罰当たりな事か、骨の髄まで染み込ませてやる!」
現在、スゥイルヴァンの女王と成っている者は、以前不覚をとり自国を滅ぼされた上に、また自身も虜囚の果てと成る辛酸を嘗めさせられた事がありました。
油断をしたつもりなどなかった……なのに―――
生き恥を晒し逃げ延びようとしたつもり……なのに―――
あの屈辱は決して忘れない―――あの恥辱は決して忘れない……
この落とし前だけは、必ず着けさせてみせる―――……。
「『ヘレナ』―――いるわね……。」
「フ・フン―――永い間声がかからないもんで、忘れられちまったもんかと思いましたよ……
「せやけど、ようやく“うち”らの出番や―――ちゅうことやなあ?」
「期待をしておるぞ、“余”を最も激しき闘争の渦中に投げ入れられんことを。」
「誓約」の
一人称が“ワシ”の、見るからに叩き上げの軍人だった「老年男性」。
一人称が“うち”の、少々独特な言い回しの「成人女性」。
一人称が“余”の、不遜にして尊大極まりない「初老男性」。
彼ら彼女達は『公爵』に
その中でも特に『公爵』から気に入られた者が、こうして生前の記憶や保有していたスキルを与えられ、個別として活動することを赦された者でもあったのです。
つづく
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