第9話 お悩み相談(代理)

これまでは各派閥の対応を見てきましたが、やはりここは語られなければならない……いや、この者達を抜きにしては『話し』にもならない。


ここは―――この場所こそは、オーガのさと『スオウ』。


現在この集落に定住しているのは、あのルキフグスとの闘い以降、己の実力不足を痛感し改めて自分の郷里にて再修練を行っている……


「オレは―――あいつらに比べるとまだまだ未熟だ……いざとなったらヴァーミリオンに手助けしてもらえる……って甘えがあるからなのか―――」


ヒヒイロカネは、正直なところを述べるとマナカクリムの中でもA級クラス程度の実力はありましたが、彼を取り巻く者達が次々と覚醒に至り、その中では『置いてけ堀』感は強く否めない処があったのです。

{*実際、ササラはSSS級で、シェラザードは『グリマー』として覚醒めざめた事によりSS、クシナダもニュクスを受け入れた事でSSとなっている}

彼がクラン内やPT内で“ちやほや”されていたのは、彼自身の内に封印された『ある人格』、古代の英雄『緋鮮の覇王ロード・オブ・ヴァーミリオン』のお蔭もあったから……あの『創作話つくりばなし』のうちにあったの伝説の数々は実際に本当にあった出来事だった、その剣閃で千の敵を薙ぎ払い、所有する炎属性が付与されたスキルで総てを焼き払い尽す……自分には到底できない芸当―――そうした葛藤が彼を苦しめていたのです。

そこで思い立ったのが、彼の戦役せんえきが終わった後、迷うことなくスオウへ帰ることを選択したのです。


         * * * * * * * * * *


「そっか―――戻っちゃうんだ……ヒヒイロ。」

「ヒィ君―――……」

「2人とも何泣きそうな顔してんだよ、どこへも行きゃしないって。 ただ―――オレ自身の強さってものを見つめ直す機会が欲しくってな、また母さんやホホヅキ様からいちから鍛え直してもらわないとな。」

「(ゲ)あの人達のカヨ……あんたの精神ハート強いなぁ。」

「そう言えばシェラはオレの母さんたちのしごきを受けたんだっけな、どんな感じだった。」

「ソレ聞くのかよ。 『もう一度』って言うなら熨斗のしつけて丁寧にお断りしとくわ。」


冗談交じりで別れたあの頃―――そして戻った日から文字通りの『地獄の日々』が待ち受けていました。


「もうおネンネかい―――あのエルフのお嬢ちゃんの方が、まだマシだったけどねえ~」

「ぬぅぉあああ!」

「ヤレヤレ―――どうやらお前にとって『冒険者』ってのは、ぬるま湯だったみたいだね!」


            そんなつもりなんてない―――……


あいつらと別れ、またスオウへと戻った日から、あんたから課された修錬、毎日欠かすことなくこなしてきたって言うのに―――! 何が違うんだ……あんな―――あんな華奢きゃしゃなエルフと、オーガの血が半分混ざったオレと、一体何が違うって言うんだ!!



幾度となく、木の模造剣で身体を打ちえられ、その度毎たびごとに地べたにとつくばり、武芸の師である実の母から厳しい叱咤しったたまわるヒヒイロカネ、けれどこんな状況を実は彼が一番望んでいたのです。

いつもPTでは美少女たちに囲まれ、あまつさえ自分を求めての争いも絶えなかった、そこはヒヒイロカネ自身も多少の鬱陶うっとうしさは感じていたのですが、そこは彼自身一人の男の子おのこなのですから、異性の事は意識しない事はなかった……ただ、それが“ちやほや”とされ、慢心まんしんへと繋がってしまっていたのでは―――と、思わなくもなかったのです。

だからこそ彼はそうしたそれまでのしがらみを断ち、厳しい環境に身を置く事で自分を律しようとした―――


         * * * * * * * * * *


それから幾許いくばくかの日が経った、ある晩の事…………


「―――すまん、少し話しがしたい。」

「(……)おーい、ちょっと代わりを頼むよ。」


リリアが経営している『大衆食堂』に現れていたのは、ヴァーミリオンでした。

しかしそう……この人物こそは現在よりも200年前当時、猛威を振るった、ある『死』の流行病はやりやまいによって亡くなっており、この現世に現れることが出来るのは盟友であるカルブンクリスと【神威】であるホホヅキの協力の下、『英霊エインフェリアル』と成ることにより、リリアの息子『ヒヒイロカネ』の魂に紐付ひもづけることが出来たから。

そして≪英霊憑依エインフェリアル≫の術により実体化が出来ていた―――はずなのに?

しかしそう……この術のないままに顕現できているのには、それなりの理由があったから―――なのですが……


「私の息子のご就寝中に身体を乗っ取る……だなんて、極悪非道もあったもんじゃないな。」

「言うな―――しかしたったの数回で封印の効力が弱まってしまうなど……」

「ま―――そこんところはあんたの強さ……って事でいいんじゃないのか、それで?」

「そなたの息子はひどく苛んさいなんでいた―――周りが飛躍的に遂げられてしまった強さの向上もあるのだろうが……“焦り”―――それにともなう自信の喪失感とでも言うべきだろうか……。」

「気にし過ぎ―――て処もあるんじゃないのか。 そう言うのは誰しもが通ってきた道だ、斯く言う私も通ってきたもんだったよ。 だがそうしたモノを乗り越えて、新たな境地を―――強さだって手に入れる事だってある。 大体お前―――私の息子の親でもないくせにあいつの心配をするだなんて、過保護もあったもんじゃないぞ。」

「ム・グ……ッ、仕方が無かろう!お前の息子の魂に組み込まれていると言う事は、あやつの悩みもダイレクトに入ってくるのだぞ!?」


大衆食堂を抜け、今は2人のみで語らい合う為と、この会話が他人にも知られないよう人が集中している場所から程なく離れた場所にて―――また手持無沙汰てもちぶさたと言うのも何なので、大衆食堂から一升瓶を拝借し互いに杯を酌み交わす戦友達…そこでの会話はつまる処の『相談』でした、それも成長に伸び悩む若人わこうどの…それは『深刻である』とまではしないながらも、いずれ武の高みを望む者ならば避けては通れない道だった、そこは一応ヴァーミリオンも理解していた処なのでしたが……


「そこはそれ―――としてだな、お前……ホホヅキとの関係は修復したのか。」

「――――――――――――…。」

「返事がないようだが?」

「見りゃ判んだろーが!ああそうだよ!出来ていませんよ!悪ぅございましたね!!」

「(逆ギレをされてもなあ~)……謝ったのか。」

「謝れるもんでしたらねえ?そりゃ謝りますよ! この額を、何度も何度も地面にこすりつけてでも!!けどなあ~~聞いてくれる?あいつッたら戻るなり、塩投げつけてくるんだぞ??しかも菓子折り持ってっても会ってもくれないしぃ~~~」

「(私があずかり知らんところで、そんな事になっていようとは―――……)それは、気の毒をしたな。」

「だから、なあ~~ニルぅ~~お前の方からも、どうかあいつの機嫌を直してくれるように言ってくれない?」


戦闘時に於いてはヴァーミリオンに比肩する猛将なのに、幼馴染の前では“からっきし”な女性ひとだった……しかも直近ちょっきんの『戦役せんえき』にいては身重みおもだった幼馴染の身を慮っおもんばかって一緒に連れて行かなかったものなのに…そこをどう思われてしまったのかは、戻って来た途端の『しょっぱい対応』を見ても判るものでした。



           けれどまた―――引き裂かれてしまう……




つづく



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