エルフの「王女様」だって、英雄に憧憬れてもイイじゃない! 2

はじかみ

第1話 凶 報

―――“噂”は千里を奔走はしる……

それが“善”いモノならばまだしも、“悪”いモノならば、その速度を格段に早めて……


“彼女”がその一報を耳にした時、その信じられない有り様にさすがに耳を疑ったものでした。


「すみません、今―――なんと??」


その一報とは『凶報』―――伝え聞くところによると…………



そん―――っ……な?エヴァグリムの城が一両日いちりょうじつの内に……陥落おちた??


それに、彼の王国に関わる王族のほとんどが―――処刑??



“彼女”―――クシナダが耳にした凶報こそ、エヴァグリムがその瞬間に『滅亡した』という噂でした。


“噂”……これが噂なら冗談の類であって欲しい―――


そう、クシナダは願いました、切に―――切に……


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


彼女・彼達は魔王カルブンクリスからの依頼を受け、『ラプラス』共を率いている者を討伐し終え、それを機会にPTは解散、それぞれの功績が認められ方々各所ほうぼうかくしょからの求めに応じ各地へと散らばっていました。

そのなかでも『エヴァグリムの王女』だったシェラザードも父であるセシル王の求めに応じ元の鞘に納まっていたのです。


しかしまたいつかの再会を誓って―――……


そうした中でのこの凶報に、クシナダの想いも当然と言えました。


        * * * * * * * * * *


そうこうしている間に更なる“一報”―――しかし今度は『不幸中の幸い』と言えたモノでした。


『難を逃れた王族の一人か、現在も尚逃走中』―――


これって、きっとあなたの事なのよね、王族なのに生き残る術サバイバルにかけてはけていたあなたの事だもの、そうよね……訳なんて、ないわよね―――



王族の一人が虎口を逃れ、どうにか生を繋いでいるのだと言う。

王族の一人―――『王女』である者はクシナダも認める以上に行動力に溢れ、逆境にこそ強い……その事を知っていただけに、クシナダ自身もその王族の一人が王女である事を強く望んだものでした。


   強く―――強く念じ、そうあるよう……切に―――切に、願った


       ハズ―――  だった―――  のに……


       数日も経たないうちに、―――



最後の……王族の一人が……捕らわれた?それに……今その者は、奴隷市場に??



『最悪』の予感がよぎる―――クシナダは、その予感を払拭ふっしょくさせるために、その場所―――かつてはエルフの王国場所に足を運ばせました。


 そして“噂”が―――  「最悪」の予感が―――  的中してしまう―――


まるで鳥籠の様な『ゲージ』に囚われた……

羽をもがれ―――傷つき、うずくまった一羽の小禽王女を、その眼にしてしまう……

我を忘れ―――かつての“悪友よきとも”の変わり果てた姿を見て、その名を口にしてしまう……

けれど、自由を失いかつて王女だった者羽をもがれてしまった一羽の小禽は、焦点の定まらぬ胡乱うろんな眸を向け、こう返す……


『あなた様が……私の新しいご主人様―――なのですね?』


衝撃的だった……あんなにも我の強いあなたが、他人に隷従れいじゅうすることを承服しょうふくするかのようなセリフを口にしてしまうなんて……



今すぐにでもこんな『檻』を壊し、この奴隷を解き放ってやりたい―――そうした衝動に駆られたものでしたが、『奴隷市場』と言うだけあって商品である奴隷はこの奴隷……『エルフ』、『獣人』、『魔獣』のたぐいまで取り扱っている、ここ最近この場所に出来た割と大きな市場しじょう

そしてこの奴隷―――“元”『エヴァグリム王女』、エルフの女性の奴隷が展示されてあった場所は、この市場しじょうの中でも特に目に付く場所―――『中央広場』……しかも『目玉商品』らしく、その金額が―――


「(『50億リブル』―――??!!)」


正規な手続きをようとなると、とてもではありませんが、この条件を充たす事なんて到底出来そうにない……とは言え、“超”のつく高額なだけに誰かに買い取られる―――と言う心配は、しなくても……いい?

そこでクシナダは、ある秘策を胸に、かつての伝手つてを頼ろうとしたのです。


               が…………


        * * * * * * * * * *


ここは―――〖昂魔〗の領域にある、とある都市の一つ『ヴェリサ』。

そこで更なる魔道の追及・探究をしている―――


「おひさぶりですねッ☆ クシナダさん。」(ムヒッ)

「ササラ……たってのお願いがあるのだけど。」

「『たってのお願い』?」(ムヒョ?)

「はい……どうか、今一度あなたのお力を―――」

「“私”を“雇おう”と仰るのですね?“高い”ですよぉお~?“私”は―――」(ムヒヒヒヒ☆)


〖昂魔〗を統括する悪魔族の“長”―――ジィルガにその才を認められ、現在彼の存在の下で【黒キ魔女】は更なる成長を遂げていました。

そんな彼女のもとに、かつての伝手つてを頼りたいと、かつての仲間の一人が訪ねてきた、しかも条件も理由も述べずに『たってのお願い』で『力を貸して欲しい』とだけ言う。

ただ―――【黒キ魔女】は条件も理由もそんな事を聞かず、力を貸す条件として途方とほうもない要求をしてきたのです。


「ごっ……『50億リブル』??!」

「お“安い”モノでしょぉ~う?」(ムヒョヒョヒョ☆)



            こんな時に―――なぜ足下を??



【黒キ魔女】の協力を得る代わりにを雇う代償として、突き付けられた契約の金額―――『50億リブル』。

、エヴァグリムの王女エルフの奴隷と―――同じ額……とは言え、まだその事はエルフの奴隷を買うと言う事は億尾おくびにすら出していないはず……だったのに、なぜ足下を見られてしまったのか―――

すると……


「なぜ、私がヴェリサこんな処にいるのか、お忘れになりましたか?」

「―――えっ?」

「あなた達との契約が切れてしまったからです。 かつて……私があなた達のもとに身を寄せたそもそもの原因―――この私からの『【黒キ魔女】を討伐せよ無理クエ』を、それも裏条件でクリアしたから“そうした”……そして魔王様よりそれだけの報酬50億リブルがあなた達に支払われた―――だからかつての契約は切れたのです。 まだ……お分かりになりませんか?あなたが買おうとしている奴隷の値段―――クランに収めている『報酬50億リブル』を使えば可能ではありませんか?」

「ササラ―――あなた……」

「私も、彼の国に起きた実情を知るにおよび、気が気ではありませんでした。 この私の生命は既に二度救われている……その一度目は早産そうざんによって産まれでた時、【大天使長】ミカエル様からその血を分け与えられたからですが……今一度目は、350年も以上も前に母上であるノエルが誰によってその生命を救われたか……あの当時のエヴァグリム王女であるローリエ様、その方が救ってくれなければ、私が今この世に存在している事自体が有り得ないのです。」


かつての、自分達のPTの一人にして知力の高い『知恵ある者』がさとしを行う……それはまた、かつての―――魔王カルブンクリスに倣うならうかのように。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


こうして【黒キ魔女】の導きにより、彼の者を加えた者は再び奴隷市場へと姿を見せ―――


「いかがなさいましたか?」

「本日は、奴隷を求めに参りました。」

「ほほう―――それで、どの奴隷に致しましょう?」

「そうですね……では『あの奴隷』を。」

「おお!これはお目が高い! こちらの商品は50億リブルとなっておりますが?」

「最近では世の中物騒になってきましたからね―――ですので、『現金』ではなく『小切手』で……」

「おお!あなた様が噂に名高い【黒キ魔女】様! 良いお買い物をなされました―――またのご贔屓を。」


かねてよりの計画通りに、広く魔界にその名が知れ渡っているササラが買い手となる事でくだんの奴隷の身柄は売り払われました。

そして手枷・足枷・首枷……と、奴隷である証しを取り付けられて足下をふらつかせながら檻より出てくる、自由を失ったかつて王女だった者羽をもがれてしまった一羽の小禽……そのふらついて倒れそうになった奴隷の身体を支えた時、気付かされてしまう―――“軽い”……しばらく見ない内に痩せ細り、やつれてしまった“悪友よきとも”の姿……


それに―――…………


「あ、ありがとうございます……ご主人様―――こんなにも憐れな奴隷めの為に、こ、こんなにも優しくして下されて―――」


その言葉に、胸が締め付けられるようだった―――張り裂けそうだった……。

だからその瞬間、溢れそうになった涙をこらえ、強く手を引いてその場所より立ち去ったものなのでした。




つづく



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