第2章 呪炎の花嫁と優愛の聖女

プロローグ

「この意気地いくじなし‼」


 水のしずくが地面に落ちた時に響く雨の音が常に鳴り続ける中、怒声が飛んでは大量の音の波によってかき消されていった。

 分厚い雲によって空は見えないが時刻は夜。ある森の中に二人の若い男女が傘も持たず、雨に打たれながら立っていた。

 二人共、体がれることなど気にしていられない様子で、先程の怒声の主らしい身分の高い家のお嬢様なら着る少々豪華な服を着た女性が、庭師が着る土汚れした服を着た青年をにらんでいた。


貴方あなた、本当に馬鹿バカなの!? こんな機会を逃そうとするなんて‼ 私のこと、愛してるんじゃなかったの⁉ うそなの、ねえ⁉」


「…………」


 青年は黙っていた。


「何か言い返したらどうなの⁉ ねえ‼」


 青年は黙っていた口を開き、言い始める。


「何度も言わせるな……。俺は教会のみんなを……捨て子だった俺を育ててくれた院長先生を裏切ることは出来ない……」


「それじゃあ、私は他の男と結婚しても良いの⁉」


 青年は後ろの方面に向き、こう言った。


「……それよりも早く家に帰れ。風邪引くぞ……」


「……っ!! 馬鹿バカッ‼ もう知らない‼ 顔も見たくない‼ あんたなんかいなくなればいいのよ‼」


 女性からの絶交めいた宣告を聞いた青年の心に傷付いた。

 男は絶望の足取りで歩き、それから駆け足となってこの場から去った。

 一人残った女性が立ったまま、体にれる雨の水にまぎれて涙を流した。


馬鹿バカッ……もう信じられない……! もうあんな奴なんか……あんな町なんか……」


 泣きながらひとり言をつぶやいたその時、雲に覆われた空から一筋のあかい光が流星のごとく突き破って落ちて来た。

 あかい光は女性に目掛けて落ちて来る。

 女性があかい光に気付いた時はそれが当たった。

 禍々まがまがしい紅色の光が照らされ、数秒後に光が消えた時、雨が止んだ。暗い夜の森の中、あかい光に当たった女性は倒れていた。そして意識が失う直前につぶやいた。


「……もう死ねばいいのよ……あいつも……町の連中も……みんなみんなまとめて……」


 それから六日後、この地、雨の国“オルタンシア”にラティナとリゼルが飛び越えて来た。

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