第9話 本当の旅立ちの始まり
アリスの庭から自室に戻って来たラティナは旅の準備を始めた。
薬や材料となる薬草と実と種、金銭の代わりとなる様々な属性のクォーツに長期日持ちが出来る非常食、旅の先で必要になるかもしれないその他の道具
ラティナが必要な物を考えては探して【
「す、少しお待ち下さい~」
ラティナは聖堂の
「ど、どうぞ、入っても
「それでは失礼します」
それはラティナにとって聞き覚えのある声だった。
「あ……」
「元気かい、ラティナ?」
眼鏡をかけた初老の男、ラティナの父であるユーセル=ベルディーヌが、
「お…お父さん! お父さんこそもうお体はもう大丈夫ですか?」
「あぁ…心配は
「えっ⁉ な、
「ははは……君は相変わらず嘘は
「ジャンヌさんが?」
ふとラティナは換気のために開いたままにしてあった窓の方へ見た。外では
ラティナは観念して正直に話そうとした。
「……お父さん……私は……」
ユーセルは微笑みながらラティナの肩に優しく触れた。
「行きなさい、ラティナ」
「え?」
「君は
「お父さん……」
ラティナの目から涙がにじみ出た。
「行きなさい、ラティナ。体には気を付けて……」
「行ってきます……」
ラティナはユーセルの体に抱き着いた。
窓から風が今も吹いていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「行きなさい、ラティナ。
「独り
「わ、私はただ、ラティナの
「冗談よ。その気持ち分かるから」
ラティナの自室から離れた客室に今、ジャンヌとポリッチェが滞在していた。
ジャンヌは風の精霊を通じてラティナが父との旅立つ前の
“騎士の聖女”ジャンヌ=ダルクは、遠く離れた場所でも風そのものである風の精霊から見たり、聞いたりした情報を以心伝心で共有する
客室に休んでいた時、普段気まぐれな風の精霊
「
それが自分
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
リゼルは二階建ての広く立派そうな館の裏にあるプール場でデッキチェアに寝そべり、小説を読みながらくつろいでいた。
「ふぅ……」
二日前、リゼルが目覚めた時にはこの館の中に
一体ここはどこなのか、
館の中は、昔読んだ
この二日間は置かれてあった本を読んだり、ゲームで遊んだり、プールを泳いだり、館の周りにある広い庭を探索と散歩をしたりしてうるさい人もいない、不自由なく一人に満喫して過ごしていた。だが、やがてリゼルの心は寂しさを感じ始めた。
(はぁ…なんだろうな……今、俺は自由でうるさく目障りな奴らもいない静かにのんびりする
デッキチェアから立ち上がり読みかけの小説をコートのポケットに入れてから少し歩き回りながら考えているとふとリゼルの頭の中にラティナが思い浮かんだ。
(なんでここであいつの姿が? まぁそれなりにうるさい奴だけどただのアホだし、胸デカかったし、エロかったしな……だからといって今更あいつを思い出すなんて……)
「それは
「寂しい? はっ、そんな訳あるかよ……って、ラティナ⁉」
リゼルは驚きの余り、デッキチェアから降りて立ち上がった。目の前に先程までいなかった
「また私の名前を正しく言ってくれましたね。今まで私の
「あ、あれは……その……別に
「まぁまぁ、リゼル様、落ち着きましょう? 早口で舌
ラティナの右手にはマッド・ハッターから
「なんだ、それは?」
「これは【
「へー。んで、お前が生きている理由は? 確かお前は……」
リゼルが理性を失う直前に目にしたラティナが腹に杭を貫かれる光景を脳裏に思い返した。
「それは私がエンジェロスだからです。お
「へ、へ~……エンジェロスって化物みたいなものなのか?」
「うっ…リゼル様に化物呼ばわりは
「当たり前だろ! 腹刺されたら普通死ぬ
「う……そ、それはともかく私の
「べ、別に……」
「本当ですか? あの時、私がお腹を刺されて倒れた時にリゼル様は怒って……」
「るせぇっ‼」
「あうっ‼」
リゼルに頭を平手打ちで
「うぅ…痛いです……。頭を叩くのは
泣きながら
「叩いたんじゃねぇ、
「同じ意味ですよ……」
最もリゼルの平手打ちは鉄板で叩いたと同様なもの。普通の人間だと
「それよりもお前の親父さんはいいのか?」
「あ、はい。お父さんの
「は?」
「私はまだ
「リゼル様、これからもよろしくお願いいたします」
リゼルはしばし考えた。
(どうする? こんなアホアホな奴と一緒でもな~……とは言え、こんな奴に助けられた
ラティナの顔を見た。
誰もが
リゼルは気付いていない。ラティナの見た目の美しさだけではなく、彼女の怖気の無い優しさに触れて少しずつ感化され、惹(ひ)かれている
「……はぁっ……」
それから一旦ため息を
「しょうがないな……。言っておくがお前は俺の奴隷として扱うからな」
ラティナの手を力強く無く軽く
「はい。これからもよろしくお願いします、リゼル様」
笑顔を
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ラティナ=ベルディーヌ様は”
「そうですか」
人知れぬどこかの
「今度こそ
「出来る限りならば私達も手助けは可能だがこちらから
同じく紅茶を飲んでいたマッド・ハッターが相変わらず個性が定まっていないでたらめな口調でアリスに対して言った。
「わたし達があちらで出来る
“世界の聖女”アリス=リデル。彼女が人前に姿を現した時、この先の未来に世界滅亡の危機が訪れる意味とされている。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
むかしむかし、あるところに人間の父と天使の母とのあいだに生まれた半分天使の力をやどした聖女がいました。
聖女はほかの聖女たちとはちがい、生まれたてなので戦い方はまだみじゅく。見習い聖女とも呼ばれていましたが、体と心を癒す力と誰でも惜しみなく助けようとする優しさは誰にも負けませんでした。
ある日のこと、見習い聖女のもとに父が悪い火の神を信仰する人たちにつかまった知らせをうけました。
見習い聖女は父を助けにいきましたがその先の雪と氷におおわれた地でつかまってしまいました。
そこで
半人前だが、天使の翼をもつ優しき聖女と悪魔の力をもつ魔獣。このふたりの出会いから世界を救う旅が始まりました。
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