第1話 花畑の国の見習い聖女
ここ、
聖共和国の住民達は全員、精霊を信仰する“精霊教会”の信者であり、各国の町や村には必ず聖堂が建てられていて、プランタンも例外無く、国の中心に建つ大聖堂は今日も国内の
「
患者を治療するための部屋で若く美しい女性が、幼い少年の骨折したらしい左足の
「はい、もう大丈夫ですよ。」
左足に痛みがなくなった
「良くここまで我慢しましたね。
美人に
「ありがとうございます、ラティナ様。
「いえいえ、お礼なんて、これが私の出来る
そう言いつつ誰もが
彼女の名はラティナ=ベルディーヌ。
「ラティナ様、次の患者です」
「はい、どうぞこちらへ」
“
「失礼する……」
次の患者は若く背の高い女性だが、目は鋭く、
「
「そうだ。
そう言いながらも両者共、驚いた様子は無かった。
患者の女性は人間の姿をしているがその正体はガリア大陸の古くから住む大いなる種族“竜”。万物の根源をなす自然界の構築必要不可欠である元素、“エレメント”を人間の理術使いよりも高度に操り、成体になれば家
「私は西の火山地帯に住み、噴火が起きない様に火山のエレメントの管理をしていた。だが、最近、頭痛がひどくて役割も果たせない状態なのだ……」
「分かりました。ちょっと見させて下さい」
ラティナは《
「……
「そ…そうか」
「
「し、しかしな……」
聖女の意見に賛成するか不安だからやり方を変えたくないから否定すべきかの迷いの声を出していた。この竜は生真面目だなとラティナは
「こういう時には
そう言い、
その姿は
生えた翼が大きく広がりで赤竜を布の
ラティナ=ベルディーヌは普通の人間ではない。
“
「ありがとう、ラティナ殿」
ラティナによって心の
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
昼の頃、ラティナは午前の治療を終え、
重症の患者を優先的に済ませ、残りの軽症の患者は大聖堂にいる
「ふぃ~~~」
ラティナは大きくため息を吐いた。
「「
昼食を持ってきた二人の女性の補佐官がラティナの様子を見て声をかける。
「あ、いえ……心配しないでください。ただ、考えごとをしていただけなのです」
「考え
「私は……この部屋で待っているだけで良いのでしょうか」
そう言いながら窓の向こうに見える白い雲と青空の向こうへ見つめた。
「本来なら、私自身が出向いて治療を行われなければなりません。そうすれば動けないような病気
“ディアボロス”とは、生きとし生ける者全てに害をもたらす、世界の敵。悪魔、魔物、妖魔とも言われている。ディアボロスは、姿形、能力によって数百以上の種類が存在する。
最近では共和国に属していない国、帝国領でディアボロスの数が急激に増加して
本来ならば
ラティナはただ、仲間達が死にそうな目に
「ラティナ様、
眼鏡の補佐官サラが言った
「それにディアボロスとの戦いも決して甘いものではありません」
「そうです! ディアボロスを甘く見ないでください! そもそもラティナ様は戦えないじゃないですか」
「う…、た…確かにそうなんですか……」
そう、ラティナは戦えない。弱いからだ。
戦闘訓練で一度も勝った
理術使いになった者は生命力と身体能力が覚醒的に上昇するが個人差もあり、心理によって身体能力の変化が関わる場合がある。ラティナの場合は腕力が普通どころが一般人よりも弱すぎるのだ。
その原因は、血が苦手、先端恐怖症、誰よりも優しすぎる性格さ故(ゆえ)のためらい、ドジっ娘でいつも訓練相手に負けてしまう。そんな凶暴なディアボロスとの戦いで逆に足を引っ張ってしまう可能性もある、あまりの不安さに精霊教会の頭脳格も戦い方を指導する教官達も頭を悩ませてしまい、評議の末にやむなくここ、プランタンの大聖堂で一切の派遣をさせず、治療のみを行う役割を与えるしかなかった。一応は、ラティナの必死の訓練で血を見ても気絶をする
「守護騎士団は世界の平和と聖女を守るのが使命。彼らもその覚悟の上で戦っているのです。それに世界は広い。人々も多い。
「……ごめんなさい」
「あ~、別にラティナ様が
「すいません、ラティナ様……」
リオが慌ててフォローし、サラも自分の言い方が悪かったと反省した。
「それにラティナ様が行かなくても
「……そうですね。私の気にし
「大丈夫ですよ。結構腕の立つ
リオは明るく切り替えさせ、持って来た昼食、肉の味がする豆を
(それでもやはり私は……)
ラティナという少女は優しい性格のため、困って人をほっとけない
一方、ラティナ達の会話を盗み聴きし、ほくそ笑む者がいる
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
昼の
ラティナは
それからまたしばらくするとドアからノックする音が聞こえた。
「はい、どうぞお入り下さい」
部屋に入るのを許可するとドアが開き、右手に経典なのか黒く分厚い本を持ち、深刻そうな表情をした神官の服を着た温和な感じをした中年の男が入って来た。
「ラティナ様、大変です」
「どうかなされましたか、ルブルーショ教官?」
彼の名は、シルーズ=ルブルーショ。プランタンの大聖堂に在中している修行中の
「
「はい」
「アップ・グリーンパークが帝国軍に占拠されました」
「……え……?」
ルブルーショから出た言葉を聞いてラティナは固まった。
「ア、ア、ア、アップ・グリーンパークって、確か大帝国の東の方にある所で、あの“
「はい……」
“
ラティナ達が住むこのガリア大陸の西から海を越えた先に大帝国の本土である大陸“ロディオス”がある。そこに二年前、突如、多くのディアボロスを引き連れて現れ、破壊と
精霊教会は、相対する他国だろうと人の命を守るため、守護騎士団を送り出し、帝国の守りの要である帝国軍と協力して“紅黒の魔獣”に挑んだ。そして三日間に渡る戦いの末、“
こうして世界の平和は守られたが、“白き聖女”は死に、決戦の舞台となったアップ・グリーンパークは“
「しかし、先程、アップ・グリーンパークに派遣されていた
「帝国軍に⁉
共に戦った帝国軍が“
「“
「そんな……」
「……それともう一つ、大変言いづらい事実がありまして。捕らわれた者達の中に、
「お父さんも!?」
「はい、昨日、アップ・グリーンパークの教会から薬の注文が来まして、自分で配達しに行った時に捕まったとの事です……」
ラティナの父は、
「本庁からの
「……私もお父さんと皆さんを助けにいきたいです!」
「……やはり、そう言われますね。……分かりました。貴女(あなた)を救出隊に加えましょう」
「ありがとうございます……」
「いえ、お気になさらず。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
父や捕らわれた人々を助けたい
「ラティナ様、こちらが私が選抜した突入部隊の面々です」
ルブルーショが引き連れて来た四人の若い男女はラティナの
「あ…あれがラティナ様!」
「なんて
「うわさ通り、美しい……」
「み、皆さん、初めまして、私が
ラティナがあいさつをすると四人の若い男女はより興奮の声を一斉に上げた。
「皆さん、
ルブルーショの説明で照れだす一同。
「皆さん、よろしくお願いします」
「さて、
「教官、その作戦で本当に大丈夫でしょうか……?」
「我々は帝国と戦争をするつもりではありません。それに帝国の方も”
余りにも
「それでは転送の準備を。救出隊の
ラティナの後ろには石台の上にある四本の石の柱とそれに囲む何かの鉱物で熔かして描いたらしい空色の方陣が
ラティナ達、突入部隊は言われた通りに四本の柱の内にある空色の方陣の上に乗った。ルブルーショの傍らにいた神官は戸惑いの表情を浮かべながらも四本の柱の近くにある石板が付いた石の書見台の
「”
「では皆方、お気を付けを!」
空色の方陣から光の柱が現れ、ラティナ達は消えた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
”
ラティナ達、突入部隊はこの世界とは別の空間を超え、ロディオスのアップ・グリーンパーク内にある、オブジェとして置かれている、大聖堂の転移門(ゲート)と同じ四本の柱と方陣から出現した。
アップ・グリーンパークはロディオス
空間移動の際、最初の内に必ずなる空間移動酔いから何とか目が覚め始めた時、ここが目的地だと気付いた。
「ここがアップ・グリーンパーク……」
「……っ!?」
完全に動かなくなる前に首だけを鋭い痛みに入った方向へ見ると共に来た救出隊の面々が倒れていた。
皆、首筋に小さな針が刺されていた。
視界が悪くなる大雪に紛れた影がラティナ達を囲んでいた。全員、顔を隠し、武装した者達だ。
「……侵入者、全て麻酔針打ち込み完了。こいつらをあそこへ連れて行け!」
こうしてラティナ以下、突入部隊はアップ・グリーンパークに着いて早々、帝国軍兵らしき謎の集団に捕らわれてしまった。
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