53作品目

09話.[合わせるからな]

　今日は何故か繭子及び向井と出かけていた。

　意外にもいちゃいちゃすることもなくちゃんと相手をしてくれていることに安心したような、こうなってくるとふたりにそれぞれを優先してほしいと思ってくるような、という感じ。

「清水、腹減ってないか？」

「大丈夫よ、向井こそお腹空いてないの？」

「合わせるからな」

　なんだろうか、これならやっぱり繭子を優先してほしいな。

　なんか気持ちが悪いからだ、優しくされても違和感を抱いているなんてわがままだけど。

「繭子はどうなの？」

「私は甘いものが食べたいっ」

「じゃあ喫茶店にとか行く？」

「仁君と茜がいいなら」

「俺はいいぞ」

　それならそこしかないな。

　何故ふたりきりでいなかったのかは分からないが、空気を読めていないのはこちらだからなるべく合わせてあげなければならない。

　そういえばこれって圭に怒られるのだろうか？

　一応、このことはメッセージで送ってあるものの、嫉妬されるかもしれないと考えると……少し可愛いかもとか考えてしまっている自分がいる。

「私はあんみつ！」

「俺はよく分からないからこれかな」

　んー、特にこだわりはないから繭子と同じやつにしておいた。

　交換がしたいなら向井とするだろうから気にしなくていい。

　もう変わってしまったのだ、繭子の中ではもう向井しか重要じゃない。

「仁君、それちょっとちょうだい」

「ほら」

「あーむ、んー！　美味しいっ」

「そうだな、たまには悪くないな」

　どうしてあたしはここにいるんだろうか。

　いまからでも帰った方がいいだろうか？

　でも、せっかく誘ってくれたのならと引っかかってしまう自分がいて動けないまま。

　本当に中途半端だった、極端になれない情けなさだった。

　だって仕方がない、向井はともかく繭子は大切なんだからね。

「今日来てもらったのはね、茜にお礼がしたかったからなんだ」

「お礼なんていいわよ、寧ろ初給料も入ったから繭子にお礼がしたいわよ」

「いやいや、だってあのとき話を聞いてもらえたから勇気を出せたわけだし……」

「あたしだって圭とのことでお世話になったじゃない」

　これまでずっと一緒にいてくれて何度も助けてくれた。

　それだけで十分だし、返さなければいけないのはこちらの方。

「いまはそれでいいんじゃないか？　お互いに感謝しているということが伝わればそれで十分だと思うぞ」

「そうかな……」

「ああ、清水もそれでいいだろ？」

「あたしはお礼したい――分かったわよ」

　長居してもあれだからと退店する。

　繭子のなにかをくすぐったのか何故かこちらに引っ付いてくるようになってしまったが。

「向井、繭子のことよろしく頼むわ」

「おう」

「ちょ、ちょっと茜……」

　あとは言っておかなければならないことがあったのを思い出した。

「あと、あのときは冷たくしてごめん」

「いや、はっきり言ってくれて嬉しかったぜ、その気がないのに一緒にいられてもあれだから」

「そ、そうだよ、茜は正しい選択をしたよ」

「それはあんたが向井と付き合いたかったからでしょ？」

「ち、違うよっ」

　……まあ繭子が気に入るだけはあるのかなと。

　そんな失礼な思考をしつつ、甘えん坊さんのお世話をしたのだった。