【更新無期停止】水のように純粋な平凡。あるいは単なる日常的な狂気。

貴音真

第1話「夜明け前の夕暮れ。または女の欲望。」

 起きたのは夜だった…

 知ったのは朝だった…

 目の前に広がる無数の白い暗闇…

 明日からはと繰り返してまた昨日へと還る今日と言う名の過去…

 俺は死んでいるのか生きているのか…

 その答えは誰も応えない…

 赤い空が緑と白に変わる頃…

 君は俺を喰った…




「モンダイでス。アナタハいマ、シアワセかナ?フツーかナ?」


 まるでアニメのキャラクターの様な声をした妖艶で巨大な子供のミイラは、そう言いながら女の口の中に腐った人間の臓物を捩じ込んだ。

「うっ…」という小さな呻き声を上げた女は、涙汁なみだ洟汁はなみず涎汁よだれを垂れ流し、何かを懇願するように妖艶で巨大な子供のミイラの瞳を見つめた。

 その視線を受けた妖艶で巨大な子供のミイラの瞳には、愉悦と恐怖、悲哀と慈愛、狂気と狂喜が薄く満ちていた。


「ヤッたネ。ウレシいネ。ソレジゃア、モットタベてネ!」


「………」


 女は既に気を失っていた。


「アれレ?ネチャッタノかナ?ズルクなイ?カッテニイクナンテズルクなイ?」


 腐った人間の臓物で腹を満たし、無言のまま意識を失ったその女は、まるで全身で感情を表すかのように、涙汁なみだ洟汁はなみず涎汁よだれ尿汁にょうを垂れ流して失神していた。

 それは、あまりの悦びに耐えられなかったのか、喜びのあまりに絶えてしまったのか、あるいはそのどちらともであるように見えた。

 妖艶で巨大な子供のミイラはその女の姿に、嫉妬と侮蔑と憧憬と畏敬を抱き、女の口に手を突っ込んだ。

 水に濡れた枯れ葉のように艶やかで乾燥した細く巨大な手首が呑み込まれ、女の咽頭にその細く巨大な手首から延びている指の先端が触れたとき、女は僅かに「うげ…」という喘ぎ声にも似た声を漏らした。

 肘までが呑み込まれると、女は「げう…」という快楽的な嗚咽を吐き出して身体からだをばたつかせた。


「おげうううげうげごげげげごごごごごごごごごごごごごごごごごごごごご!!!!」


 妖艶で巨大な子供のミイラが手を胃の中で捏ね回すように動かすと、女は快楽を貪るように悶え狂った。

 女は不確かな朝が明けて暗闇の明かりが照らす昼の夕焼けを迎えたように確かな無意識を取り戻していた。

 目玉が飛び出さんばかりに両目を見開いて涙汁なみだを溢れさせるその瞳は、快楽に満ちた悦びを匂わせていた。

 鼻が顔面を覆わんばかりに鼻息を荒くして赤い洟汁はなみずを噴き出すその様子は、生きている喜びを見せていた。

 身体中の水分を全部すべて絞り出しているかのように延々と尿汁にょうを垂れ流すその姿は、悦楽の境地にある人間の本能と性的な欲求を感じさせていた。


「ねエ?ねエ?ドウかナ?キモチいイ?タノシーよネ?」


 妖艶で巨大な子供のミイラは不機嫌な顔で嬉しそうに、女の腹の中にある腐った人間の臓物を体内の奥へと押し込んだ。


「ぎがょがごゃも!!!!」


 女は堪らなく嬉しそうに激痛に身を任せているように見えた。

 既に妖艶で巨大な子供のミイラの二の腕までを呑み込んでいた女は、幾度となく声にならない嬌声を上げて身を捩り、滑稽なほどに甘美で魅惑的な誘惑を繰り返しているように見えた。


「フうン、ゼンブノンジャッタンだネ…ツマンなイ」


 妖艶で巨大な子供のミイラは女の行動が恐ろしく普通で不変で総体的でつまらなかったのか、女の腹に肩まで呑み込まれた自身の腕を優しく一気に引き抜いた。


「………」


 声帯と気道が自由になった女は腕を抜かれたのが気に入らなかったのか、自由になったはずの喉から音を出す行為をしなかった。

 その代わりにズルリという美味しそうな音が微かだが確かに聞こえた。

 妖艶で巨大な子供のミイラは女に伝えることがあったことがあったのを忘れていたのを思い出した。


「ソウイエばネ?アナタノスキナそレ…アナタノカレシトカゾクナンダッてサ」


 女の腹に呑み込まれて吐き出された自身の腕を見た妖艶で巨大な子供のミイラは、気がついたら気がつかない内に排泄されていた女自身の汚物にまみれた女の下半身と自身の腕を見比べながらそう言った。

 そして、妖艶で巨大な子供のミイラは腐った人間の臓物を、女にとって親しく憎く愛おしい人間の腐った臓物を再び女の口に捩じ込んだ。

 女は自分自身が生きているのか死んでいるのかわからないままでその行為に身を委ねながら考えていた。


 明日はなにしようかな…あ、洗濯物しまってくるの忘れてた…

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