永遠なる青春の木

影迷彩

──

教室で私は、窓際の席にいる百樹(ももき)を見つめる。凛とした横顔は退屈そうに頬杖をついて、黒板でなく窓の外の葉桜を見つめている。


「合川(あいかわ)さん、この数式はどう解きますか?」


私はスッと立ち上がって黒板に向かい、白のチョークで答えを書いていく。先生には私が不真面目に見えたのだろう。

きっと、百樹を見ている私も同じものなんだろうが、百樹が退屈な表情なのに対し……私は、どんな表情をしているのだろう。


私と百樹は別に話す仲でもない。4月に入って新しいクラス替えで間もないのもあるだろうが、私と百樹では何か隔たりがあるように感じている。私はむしろ、そこが気になっていて、ずっと彼女のことを見つめている。


『君は彼女のことが好きなんだよ』


横を振り向いて驚いた。何か知らないものがいる!


『私は青春の神だ、君があの子に告白するまで、この時を永遠に引き伸ばす』


突然そんなことを言われても困るのだが……私は前に歩けなくなった。もしかしたらこの一歩は既に 何度も繰り返されてるのかもしれない。


『君が繰り返したのは、前に一歩も歩けなかった選択だよ。今から告白するんだ、そうでないと、青春の神として見過ごせない』


そんな勝手をと思い、私は引き返そうとする。


『引き返したら、二度と青春は手に入らない。私は君たち学生に、やって後悔する青春を送ってほしいんだ。なにもしない展開よりはマシさ』


私はため息をついた。異常だ、普通じゃない、真面目に生活するんだ……そんな迷いも見透かすように、青春の神は私を教室に入らせようと尚も語りかけてくる。


『大丈夫だ、まずは声かけから……そこから青春は始まるんだ』


背中を押されるように、私は教室へと入った。一人佇む百樹が振り返り、私は青春の選択を始める。

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