影の中の光
小欅 サムエ
これを光と呼ぶのならば
大事な友人の恋を実らせる大作戦が決行された、ある日の午後。大事な役目だと気負って頑張って、結果として二人を結ばせることが出来た私は、一人廊下の片隅でガッツポーズをした。
彼らは私の友人でもあった。だからこそ、彼らの恋が成就してとても嬉しい。笑顔で言葉を交わし合う彼らの顔を見て、私はとても満足していた。
でも、どうしてだろうか。応援していたはずなのに、どうしてこんなにも苦しいのだろう。
私は、相思相愛であった二人をくっつけようと頑張った。放課後、同じタイミングで帰れるように時間合わせもしたし、途中で用事を思い出して先に帰ったふりもした。
すべて、二人の恋を実らせるための努力だった。だから、彼らが幸せになった今、私もまた幸せであるはずなのに。
苦しい。苦しい。息が詰まる。
彼らの顔を見ると、なぜか心が縮こまってしまったかのように痛むのだ。最後まで彼らのひと時を見届けたかったのに、なぜか分からないけれど私は、逃げ出してしまった。
走る。走る。いつもの通学路がぼやけて見えてしまうほど、必死になって駆け抜ける。
こうして運動でもすれば、このモヤモヤとした気持ちは晴れるだろうと思っていた。でも、家についてもなお、この暗い気持ちは晴れなかった。
なぜだろう。なぜ、親友の綻ぶ顔を見て気持ちが悪くなってしまったのだろう。
おかしい。おかしい。私の心はおかしくなってしまった。
一向に家に入ろうとしない私に、母親が「どうしたの」、と問いかける。その声すらも今は、不快で仕方がない。
「別に」、と何でもないようなフリをして自分の部屋へと駆け込み、制服姿のままベッドへと潜り込む。行き場のない、この訳の分からない感情を発散できないまま、私は一人暗い布団の中でうずくまる。
友達の恋を実らせるために、私は私を犠牲にした。ただそれだけなのに、ただ、私の欲望を封じただけなのに。どうしてこんなにも昏い気持ちに支配されるのだろう。
気持ちが悪い。あの二人が私のいない世界で笑っていることが、ではない。私のこの欲深く、嫉妬深い心が、だ。
心のどこかで、私は友人のために頑張る自分を美化しようとしていた。でも、それは結局のところ、自分の想いを封じ込めて、それを気持ちの悪い何かへと変貌させてしまっただけなのだ。
ああ、どうしてこうなってしまったのだろう。人のため、そのために頑張って。それで私が傷つく。こんなこと、許されていいのだろうか。
憎い。あの二人が、ではない。あの二人を応援しようだなんて思った、当時の私が憎い。憎くて憎くて、この首を引き裂いてやりたい。
……でも、そんなことをしたら誰も喜ばない。私が死ぬことで哀しむ人も、中にはいるだろう。あの不快な言葉を向けた母親も、悲しみに暮れてしまうかもしれない。
それは嫌だ。だって私は、人が幸せになるために頑張って生きてきたのだから。苦しくても、地を這いつくばっても。人のために私は生きる。
そうだ、それでいいんだ。人のために生きる人がいたって、それは自由なんだ。私自身の幸福は、他人の幸福を見届けること。そう決めよう。
そう、他人の幸福こそ、私の幸福。私がどうなってもいい。他人が幸せならば、それでいいのだ。
この胸の苦しみさえも幸福に変えれば、誰も不幸にならない。それでいいのだ。
それこそが、人を愛するということなのだから。
影の中の光 小欅 サムエ @kokeyaki-samue
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