女子に男と認識されていない無害くん。金髪碧眼美少女にからかわれて「おっぱい揉んでもいいよ?」と言われたのでヤケクソでめちゃくちゃ揉んでやったら、ラブコメが始まりました

本町かまくら

巣立てよ無害君


 僕、松原智(まつばらさとし)は巷で無害くんと呼ばれている。


 それは中世的な顔立ちからか、それとも控えめな性格からか。


 おそらく両方だろう。


 日々クラスの女子に囲まれて、からかわれている。




「ねぇ無害くん。実は私のおっぱい、Eカップなのよ?」


「さ、榊原さん⁉ きゅ、急にどうしたんですか⁈」


 今日も、クラスの女子に囲まれてからかわれていた。


「真由美確かに大きいもんねぇ」


「羨ましい。私もそれだけ大きかったらなぁ」


「確かに。でも私、結構形には自信があって」


「なるほど……ふぅ~む」


 僕の目の前で、女子たちが胸の揉み合いを始めた。


 ……男の僕が目の前にいるのに。


「確かに、かなりいいねぇ。で、真由美の方は……と」


「「「「「……お、大きい‼」」」」」


 女子たちの視線を集める榊原(さかきばら)さん。


 この学校で最も人気のある女子と言っていいほどの美貌と人望を持つ、金髪碧眼美少女だ。


「この怪しからんおっぱいで、男を落としてるのかこのぉ~‼」


「ちょ、ちょっと! 激しすぎるわよ……!」


「このこの~!」


「んっ、ちょ、あっ……」


「(見ちゃダメだ見ちゃダメだ見ちゃダメだ……)」


 こんないけない光景を見せてくるとか、どれだけ僕を男として認識してないんだか。


 ……何だろう。少しムカッとしてきた。


「あっ無害くん照れてる~! 可愛い~!」


「無害君、顔真っ赤だよ? 目も隠しちゃって~!」


「か、からかわないでくださいよ……」


「さすが無害くん。初心な反応だねぇ~」


 僕は動物園にいる動物か。


 僕で遊ばないでくれ!


「そうだ、無害くん」


 榊原さんが、僕の手を取って下ろした。


 視界に入る、ニヤニヤした榊原さんの顔。






「無害くんも、私のおっぱい揉んでもいいよ?」







 たゆん、と榊原さんの大きな胸が揺れる。


 ――またからかわれている。


 度々こういうことはあった。


 そして、僕が慌てふためく姿を見て、楽しんでいるのだ。


「(ぼ、僕だって男なんだぞ⁈)」


 当然、今も混乱していた。


 男としての本能がこう言ってくる。



 ――揉んじまえよ。


 

「(で、でも……そんなことしたら)」


 ――だからお前は無害なんだよ。


「(そ、そうなの?)」


 ――あぁ。だから、ここでめちゃくちゃに揉んで、無害を卒業しろよ。


「(……ゴクリ)」


 榊原さんの大きな胸が、目に入る。


 きっと柔らかいだろう。


「無害くん固まってる固まってる! 可愛いなぁ」


「さすが無害くんだね! 顔真っ赤だし!」


「ふふっ、まぁそうなるわよね」


 ……言いたい放題、言いやがって。


 ええい! もうどうにでもなれ!


 僕は余裕の表情を浮かべる榊原さんに手を伸ばした。


「(うあああぁぁぁあああぁぁぁぁぁぁぁぁああああぁぁぁぁ‼)」


 

 ぽよん。



「…………へ?」


 僕の手が、吸い込まれるように榊原さんの胸の中に沈んでいった。


 凍り付く周囲。


 僕はヤケクソになって、手を動かした。


「あっ、む、無害くんっ……そ、そこはっ、だ、だめっ……!」


 恍惚とした表情を浮かべる榊原さん。


 僕の頭は高速に回転し、キャパをオーバー。


「んっ、む、無害くんっ……!」


 最後の力を振り絞り、とにかくおっぱいを揉んだ。


 とにかく、揉んだ。


 そして最後に、僕は思う。



「(おっぱいって、柔らかいなぁ)」



 それが最後の言葉だった。





    ▽





 目が覚める。


 視界に広がっていたのは、見知らぬ天井だった。


「ぼ、僕は一体……」


 体を起こす。


 手に残っているのは、生々しいおっぱいの感触だった。


「(そうか。僕は榊原さんのおっぱいを揉んで……)」


 ふと、横に人の気配を感じた。


「……榊原さん?」


「あ、あらむが……智くん。起きたのね」


 榊原さんが本をぱたりと閉じる。


「ここは……」


「ここは保健室よ。智くんがあの後倒れて、それで……」


「そ、そうだったんですか」


 まぁ、あの刺激だと無理もないか。


「それで、僕の看病を?」


「そ、そうよ」


 もう辺りは夕陽に沈んでいた。


 かなり長い時間、眠っていたようだ。


「……その、ありがとうございました」


「え、えぇ⁈ そ、それは……わ、私のお、おっぱいを揉ませてくれて、ということかしら……?」


「ち、違いますよ! た、確かにそれはありがとうなんですけど……って、ぼ、僕は何を言って……!」


「や、やっぱりありがとうなのね! さ、智くんは、お、男の子なのね……」


「……その、今のありがとうは横にいてくれてって意味で」


「はっ! そ、そうよね! ごめんなさい、勘違いをしてしまって」


「べ、別に気にしてないですから!」


「そ、そう」


 ……気まずい。


 僕、この人のおっぱいを揉みまくったんだよなぁ。


 やっぱり、謝った方がいいよな。


「……榊原さん。ごめん、胸をあんなに……揉んじゃって」


「い、いや! い、いいのよ! 第一、私が揉んでいいって言ったのだし……」


「それでも、人前であんなに揉みまくっちゃったのは、ほんとに、ごめん!」


 土下座の勢いで頭を下げる。


「いいのよ別に! そ、そんなに智くんが謝らなくても……」


 ……あれ? 無害くんじゃないのか?


「い、今智くんって」


「……さっきから、そう言っているわよ?」


 照れたように視線をそらし、頬を赤らめる榊原さん


 この反応は、始めて見た。


「な、なんで……」


「そ、そりゃあ智くんはもう……無害くんじゃないもの」


 確かに、そうか。


 だって僕は、榊原さんのおっぱいをめちゃくちゃ揉んだんだもんな。


「そ、そうですよね。僕って榊原さんからしたら、有害ですもんね」


 自嘲気味にそう言う。


 すると、榊原さんが俺の手を掴んできた。


 そして、俺に訴えかけるように言った。




「そんなことないわ! 智くんは……男の子よ!」




 その言葉に、ハッとする。


 無害を卒業しようと思った結果、僕は有害になってしまったのでは、と思っていたのだ。


 しかし、榊原さんは『男の子』と言ってくれた。

 

 それは、僕が目指していたものだった。


「さ、榊原さん……」


「そ、その……私のお、おっぱいを智くんが揉んだとき、胸がきゅんってなったのよ」


「きゅ、きゅん?」


「そう。なんだか気持ちよくって、ずっとそうして欲しいなって思うくらいに……」


「へ、へ⁈」


 また榊原さんが蕩けるような表情を浮かべた。


 ……この展開、全く想像していなかった。


「……はっ! わ、私、なんて破廉恥なことを……!」


「だ、大丈夫ですか?」


「智くん! わ、私別に痴女じゃないわよ⁈ 処女だから!」


「な、何言ってるんですか⁈」


「はっ! わ、私また……」


 大混乱。


 榊原さんって、こんな人だっけ?


「と、とにかく! その……私は、智くんを男の子って認識したのよ!」


「っ‼ お、男の子⁈」


「そうよ! もう私、智くんを無害くんだなんて思えないわ!」


「あ、ありがとうございます!」


「どういたしまして!」


 息を切らす僕たち。


 榊原さんが、苦しそうに胸を抑えた。


「ま、また胸がきゅんって……智くんを見ただけで、苦しくなって、体が熱くなって……」


「な、何を言ってるんですか? さ、榊原さん?」


「ねぇ、智くん。もしかして、私……」


 頬をほんのりと赤らめて、榊原さんが言った。





「智くんに、恋をしているのかもしれないわ」





 ……どうやら僕は、金髪碧眼美少女のおっぱいをめちゃくちゃ揉んで恋に落としてしまったらしい。





    ▽





 僕はいつの間にか、無害くんと言われなくなっていた。


 度々女子に話しかけられるも、囲まれるほどではなく。


 ほんのり頬を赤く染めて、耐え切れずといった感じで逃げ出してしまうようになった。


 ……やっぱり僕、有害くんにジョブチェンジしたのかもしれない。


「ねぇ智くん。今日の放課後、私とカフェにでも行かない?」


「……僕と?」


「そうよ。……嫌、かしら?」


「……いいですよ」


「ふふっ、楽しみにしてるわね」


 隣の席の榊原さんが、嬉しそうに微笑む。


 実は席替えで、隣の席になったのだ。


 それも、窓際最後列。


「智くんって、どんな女の子が好みなのかしら?」


「お、女の子⁈」


「……やっぱり、おっぱいの大きい子、かしら?」


「っ‼ さ、榊原さん!」


「ふふっ、やっぱり智くんは、男の子ね」


「む、むぅ……」


 榊原さんにだけは、未だにからかわれている。


 というか……たぶんこれは、アプローチだ。


「ねぇ、智くん」


 榊原さんが寄ってくる。


 喧騒に満たされた教室。


 榊原さんがいたづらな笑みを浮かべて、僕の耳元で囁いた。








「好きよ」








 僕の表情を見て、榊原さんがまた笑った。


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女子に男と認識されていない無害くん。金髪碧眼美少女にからかわれて「おっぱい揉んでもいいよ?」と言われたのでヤケクソでめちゃくちゃ揉んでやったら、ラブコメが始まりました 本町かまくら @mutukiiiti14

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