第3話   ワガママな娘

  私がリーナの死を知って取り乱すと思ったのか父さんとラルクはおおいに取り乱していた。


 アワアワとしながら気を落とすんじゃないよとか、残念だったなとか、仕方が無かったんだよとか…慰めの言葉をこれでもかとくれる。


 そうだよね。

 仕方がない事ってよくある。


 本人の行いとか周りの状況とか色んな事があわさって色んな事が起きる。

 それ以外にも突然避けられない事故だってある。事故死した私としてはホンマそれって感じだ。


 どんな世界にいたって人は死に方が選べない。


 二人は取り乱していたのでオルガの話は聞けそうにない。

 私はとりあえずどういう態度を取ればいいのかわからず、自分の部屋に黙って逃げた。傷心の娘って感じだ。後からラルクの呼ぶ声が聞こえたけど振り切った。


 暫くはそっとしておいてくれるだろう。その間に色々と考えなくちゃ。


 思わぬタイミングで知らされた友達の死か。

 友達を亡くした子供ってどうなるんだろ。ショックだろうし、まして自分も死にかけたし。


 私ならどうしただろ?


 死に目にも会えず、お葬式にも出られずそれで納得なんて出来るんだろうか?そもそも納得なんかできないな。


 どうやって折り合いをつけるのかな。

 私の友達や家族はどうだったんだろう。

 どうして、なぜ?となるだろうな…

 なぜ私は生きてここにいるんだろう。


 不意にリーナの最後の場所にいきたくなった。

 前の私の最後の場所で何を感じるのだろう。


 汚い小屋だったな、それから…あの子。


 緑の髪の少年が心配になってきた。あんなに泣いて大丈夫だったろうか?


 っていうか、あの髪の色は何なんだろう?さっきいた店先では皆それ程違和感のない黒、茶、赤毛くらいだった。

 リーナの村の小屋の近くにいた男達はたしか…フード被ってたからよく分からなかったな。


 私は部屋に引き籠もって色々と考えたが、やっぱりリーナの村に行きたいとジョルジュに頼んでみることにした。


 色々聞きたいしなぁ。

 一人では行けそうにないし、ダメもとで頼んでみるか。


 部屋から出るとジョルジュがそこにいた。どう言えば良いのか、いざとなると言葉が出ず黙り込んでうつむいてしまう。


「あぁ、大丈夫かい?ショックだったろうに…。」


 その言葉に顔をあげると、ジョルジュは心配のあまり食卓で仕事をしながら私の様子をうかがっていたようだ。テーブルには書類が何枚か置かれていた。


 ホントにいい家族だな。アリアが本当は別人になってるなんてわかったらどう思うんだろ。


 隠さないとなぁ。出来るだろうか…


「父さん、お願いがあるんだけど。」

「あぁ何でも言ってごらん。父さんなんだって聞いてやるよ。何か欲しいのかい?」


 ジョルジュは娘の言葉に早口で答える。


「私、リーナの村に行ってみたい。」

「えっ…なんだって!そ、それはダメだよ!危ないよ。」


 一瞬間を置いてジョルジュは慌てて首を横にふる。そりゃそうだよね。命を落としかけた原因のある所に簡単にもう一度行くなんて無謀な事そうそう了解してくれる訳ない。


「でも、リーナが…」

「わかるよ、わかるけど。もしまたお前に何かあったら父さんは死んだ母さんに合わす顔がないよ。お前まで失ってしまったらと思うと、ここ数日は生きた心地がしなかったんだから。絶対に駄目だ!」


 仕方がないけどダメだの一点張りで全く聞き入れてくれない。


 ひと筋縄ではいかないね、流石に。どうにか説得する方法を考えるしかない。


 それから何となく店先に出ると困り顔でウォルフが近寄ってきて、


「父さんにまた何かワガママ言ったのか、ここまで声が聞こえてきてたぞ。」


 片手で私の頬をムニッとつまむ。痛いって。


 またっていうのは普段からワガママはよく言っていた様だから仕方ないが、今回のは格別だろうね。


 ヒリヒリする頬を押さえながら見上げる。


「リーナの村に行きたいの。」


 私はウォルフが味方になってくれないかと上目遣いにみる。本当ならラルクの方がアリアには甘いけど今回は心配症が全面に出そうなので彼のほうが良いだろう。


 ウォルフは眉間にシワを寄せると


「流石にそれは…今は無理だろ。第一まだ封鎖されてるだろうし。封鎖が解除された後は行っても何も残ってないぞ。」

「何もってどうして?」

「知ってるだろ、最近は流行病が出た村は焼かれるんだよ。」


 衝撃の事実が知らされた。


「何それ!そんな事あるの?一つの集落焼くって…助かってる人だっているんでしょ?その人達はどこに住むのよ。燃やされた村出身って他の村に簡単に受け入れられるの?」


 私は驚きのあまりウォルフに詰める。


「いや…オレに言われても。領主様からの御達しだし。」


 妹に責められると思わなかったのか焦りながら答える兄。


 いやしかし焼くってやり過ぎでしょ!家財一式でしょ?残された人はどうやって生きるのよ。


「ここ数年流行病が多くて、そもそも資源の無いここの地方の唯一の収入源が旅人の通過だろ。病の噂でそれが激減だから、何とかする為の苦肉の策なんだろ。」


 続けてウォルフが説明してくれ「言ってもわかんねぇか。」と呟いていたが私は被せるように


「流行病ってなんの病気がわからないの?原因は?焼き払うくらいしてるなら無くなるはずでしょ?多いってどうゆうこと?」

「どうって…聞いた話じゃある日、突然村に病が出てあっと言う間に広がって、領主様が医術師や回復薬ポーションを送ってくださるけどその時には手遅れって事がほとんどだそうだ。」


 ここら辺は村や町は結構離れてる。移動は馬車か徒歩が基本で、話が届いた時にはもう手遅れって事がよくあるようだ。


 だけど、ポーションや魔術って!

 ここファンタジーの世界か!


「ポーション使ってダメなの?」

「農村にそんなに沢山置いてないからな、高価だから。それにポーションはどちらかといえばケガには効くけど病気にはあんまり効かないだろ。延命は出来ても治療はやっぱりそれ用の薬か癒やしの魔術だろ。」


 そうなんだ…ポーションって万能薬ってわけでもないんだ。


 ポーションはこの家には常備薬的に置いてあって、飲んで良しかけて良し。私も飲まされていたらしい。いえ、飲まして頂いていたようだ。高いってお幾ら?


 ウォルフにもうワガママ言うなと言われた時、ちょうど店にお客が来たので彼は接客にむかった。


 魔術か…これは誰かに聞かないとな…




 私はまだフラフラするがちょっと町を探検する事にした。


 出歩こうとする私をウォルフは慌てて追いかけてきたが、かといって付いて回る訳にもいかず、周りをキョロキョロ見渡し、


「ハック!こっちへ来てくれ。」


 いつの間にいたのかこちらをチラチラ見ていた男の子に声をかける。


「アリアについて行ってくれ、まだ本調子じゃ無いからしばらくしたら連れ帰ってくれないか。」


 そこにはアリアの幼馴染のハックがいた。ちょっと驚いた様子だったがコクコクと頷くと私の後を付いて歩き出した。


 しばらく黙って並んで歩いているとハックは心配そうに


「なぁなぁ、どこ行くんだよ。もう大丈夫なのかよ。熱さがったのかよ?」


 町ではハックと一番仲良くしてる。彼は単純だが良い奴だ。


「熱はない。ねぇ、リーナの事きいた?」

「あぁ、封鎖された村の子だろ、覚えてるよ。何度か会った事あるからな。可哀想だな、この頃多いから他人事じゃないって母ちゃんが言ってた。」


 もっと動揺してるかと思ったが案外と冷静そうだ。それだけ頻発してるってことかな?


 流行病って前の世界じゃインフルエンザとかスペイン風邪的なのがあったけど麻疹とかもかな?この世界にワクチンとかは無さそうだし、そもそもウイルスとかの存在自体あるかもわからないよね。


「ねぇ、増えてるっていつからなの?」

「いつって…わかんないけど、去年あたりからオレが知ってるだけで3回目。村が焼き払われ始めたのがこの前からだから他ではもっと出てるのかもな。」


 マジで酷い!





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