やがて繋がる異世界生活

山豹

序章『プロローグ『もしも◼️◼️が届くなら』

  ──


 きっと、それは自分ではない誰かの人生ものがたり。これはそれを『夢』という形で追体験しているのだろう。


 どうしてそう思ったのか、なんでそれが分かるのか説明はできない。でも、その夢に出てくる『誰か』を見ていると、不思議と感じるものがあった。


 不思議なことにその人が──まるで自分のことのように見えたから。


『──────っ、』


 夢の中のその人が何かを言っているが、上手く聞き取れない。日本語なのか、英語なのか、それとも知っている言語ではないのか。


 それに、周りの景色にも見覚えがなかった。まるでゲームで見るような世界が広がっていたから。


 だってそれは、まるで御伽噺おとぎばなしの世界のようだったから。


 それは、本当に夢のような、現実味のない世界だったのだ。


 そして、そのファンタジーな景色は陽炎の様にゆらゆらと揺れて──再び景色が変わると、今度は在り来たりな見慣れた交差点にいた。


「…………あっち行ったりこっち行ったりと、忙しい夢だな」


 ころころと変わる世界観について行けずに思わず溢れた呟き。

 赤信号で止まっている中、俯いていた顔を上げて、そこで初めて気がついた。


 交差点の真ん中に──


 いや、ただの光ではない。

 それは『発光している人体』の様にも見えて、手や足らしきものが視認できた。


『────────っっっ‼︎‼︎』


 それは何かを叫んでいる

 というのも、声が聞こえないので見た感じをそのまま頭の中で想像したものでしかない。少なくとも、『それ』は叫んでいるように見えたのだ。


「…………、」


 直感だった。

 いや、予感とでも言うべきか。


 と、そう思った。


 だからそんなに叫んでいるような、苦しんでいるかのように見えるのだろうか。

 病気で苦しんでいるのか、怪我で苦しんでいるかも分からない。


『────────っ‼︎』


 また、荒々しくが動いた。


 助けを求めているのだろうか。


 それとも、別の何かを求めているのか。


 どちらにせよ、このままではその気持ちは届かないだろう。

 その想いは、誰かに伝わることもなく、誰にも知られずに消え去る。

 体が消え去ってしまえばもう伝える手段はない。


『っ、──────っ!』


 けれど、その想いが誰かに繋がるなら、例え自分の体が砕け散ろうともその気持ちは途絶えない。

 志を同じくする誰かに繋がるならば、その想いは死なない。

 託された誰かの中で生き続ける。


「………………っ」


 虚空へと伸ばされた名前も分からない『誰か』の手を掴む人は、いない。

 助けようとする人は、誰もいない。


 もしも。


 もしもだ。


 助けを求める人がいて、でも誰も助けようとする人がいなくて──自分だけがその人を助ける為に動くことができるのならば。


「誰も行かないなら──俺が行くよ」


 虚空へと伸ばされた手。

 誰も掴まないその手を、少年は掴む。

 もう消えてしまいそうな誰かに向かって、聞こえるのか分からないけれど、言葉にして伝える。


「俺が、俺が必ず──繋いでみせるよ」


 聞こえたかは分からない。

 伝わったかは分からない。

 でも、苦しむように動いていた光は、その場で静かに静止して。

 聞こえていなかった『手を繋いだ誰か』の、優しく穏やかな声が頭の中に響いた。


 不思議なことに、どこか覚えのある声な気がした。


『今度こそ……■■■■を、助けてやってくれ』


 そして、視界を真っ白な光が包んでいく。

 それは、窓から差し込む朝日の暖かな光のようで。

 それは、夢から目覚める合図でもあって。


 目覚める直前に──、




──晴翔ハルト君」





 ──また別の誰かの声が聞こえた気がした。

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