無題(Prayer)

@ayumi78

無題(Prayer)

酷い臭いがする、

最初の感想がそれだった。

入ってみると、子供が2人。1人はすでに息がない。

「呼んだのはあなたね?」と1人目の魂に聞く。頷いたので、2人目の方に向き直った。

2人目も、そろそろ力尽きようとしている。ただ、その口から微かに「……ごめんなさい、ママ」と呟きが漏れた。

怒りを押し殺しながら、「謝ることなんかないよ。あんたは悪くないんだから」と話しかけると、「……でも……」と言う。

「ちいさいこをまもるのは、おねえちゃんのしごとって、ママがいってた」

愕然とした、怒りも湧いてきた。自分は子供をほったらかしにして、遊び歩いているくせに!子供に子供の面倒を押し付けて!

絶対この子達の親は許さない、でも、それは他の人の仕事。私は目の前の事に集中しよう。

「ねえ」

と、私は小さな魂に声をかける。「あなたはおねえちゃんを救いたいのよね?」

声なき声で「うん」と返事が返ってきた。

「分かった。あなた達を連れていく」

すると、「…おこられる」と姉の方がささやいた。

「大丈夫、そんな事はないよ。だって」

その頃あなた達はここにいない、だから何があっても怒られる事はないよ。

言わんとする事を察したのか、姉の方は驚いた顔をした。

小さい魂は、早く、早くと言わんばかりに、私が持つ鎌を揺さぶる。

「だ、そうよ。」

「…わかった」

鎌を振り下ろす。あっけなく姉の魂は身体から切り離された。


はあ……

近頃こんな仕事ばかり。

小さな小さな魂が、クーハン型籠にぎっしり収まっている。他の死神が持っている籠ではあまりに可哀想だから、特注で作ってもらった。

泣いている魂、怯えている魂、やっと安心できた、と微笑む魂……

「昔からこういうケースはあったけど、最近多すぎるよ……」

私は他の死神とは別の、賽の河原の方へ行く。子供の魂が増えすぎて、流石の鬼も頭を抱えているようだ。

「……はい」

「……また虐待受けた子供かよ」

「ええ、そうよ。私だってここには連れてきたくないけど、子供の魂が行く所って、ここしかないじゃない」

「…そうなんだけどな、こいつら…」

「あら、珍しく同情してるのね」

「こいつら自身は全く悪くないのになあ」

そこへ、「こちらに連れてきなさい」と声がかかった。

振り向くと、柔和な顔をされた地蔵尊様が、手招きされている。

「はい、すぐに伺います。…じゃ、またあとで」と鬼に手を振り、私は地蔵尊様の元へ急いだ。


ふう、と息をついて籠を手に取り、現世へと向かう支度をしていたら、「あんたも大変やなあ」と、のんびりした声が聞こえた。

「久しぶりね」

「久しぶりやな」

「そっちも大変そうじゃない」

「まあ、こっちは大人相手やし、そっちよりはまだ気楽でいいよ」

「そういう問題なの?」と苦笑すると、「せやで」と、苦笑しながら、「またな」と現世へ向かって行った。

もう、不幸な子供の魂は見たくない。幸せな子供ばかりじゃない事は分かっているつもり。

「でも、こっちじゃなきゃ幸せになれない子供もいる、か」

この間連れてきた2人は転生が決まったらしい。意外に早かった。

「今度こそ、幸せになれたらいいね。地蔵尊様、ありがとうございました」

賽の河原に向かって一礼すると、私も現世に向かう扉を開けた。

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