第33話 どうも不審者です
完全なる不審者であるパンダに乗る俺(とカルミア)に対し門番が委縮していた。
「宰相に用がある。出せ」
「じ、事前の約束なく城へ入れるわけにはいかん」
「この状況でまだ、そのようなことを」
パンダに乗ったままポンと彼の方へ手を乗せる。
体に触れられ身の危険を感じたのか、門番としての本来の役目を思い出したのか彼は腰の剣に手をかけた。
「ひ、ひいい」
「おやおや。握る剣がないようだが?」
「お、お前が」
「そうだね。城門を消すところを見ていたものな。ところで、この剣は君のものかね?」
アイテムボックスから門番の男が持っていた剣を出し、彼に向ける。
わざわざ彼に触れたのは剣を指定して収納するためであったのだ。そんなこと分かってるって? ははは。まあいいじゃないか。
門番は跳ね橋が無くなり、続いて城門が消失するところでしかと見ていた。なので、ここまで委縮しているというわけなのだ。
剣も奪われ、彼の戦闘意欲は完全に消失したようだった。
「い、命ばかりは……」
「門番として、いいのかそんなことを言って」
「命あってのことだ。宰相は呼べん。だが、このまま通っていい」
「君は?」
「逃げるだけさ」
きらんと歯を光らせ、門番だった男は華麗に空堀を越えて街へと消えていく。
「ふむ。通れと許可をもらったことだし、行くか」
「あ、あの……」
何やら後ろに座るカルミアが言いたいことがあるらしい。
「気になることでもあった?」
「蓮さんが悪魔みたいです……」
「そ、そういう作戦なんだから仕方ないじゃないか。これも人命のため」
「そうなんですけど、妙に板についているというか」
「気のせいだよ!」
『ひょろ山賊、のようです』
パンダが的確な突っ込みをしてくる。
カルミアはとりあえず一応は落ち着いてくれたみたいでよかった。
パンダ? 奴はいつも通りだよ。人間社会のことなんてパンダの関知するところじゃないからな。
彼は笹が食べられればいいのだ。
城門をくぐると広い中庭になっていた。
ずらりと全身鎧の騎士たちが並んでいたが、遠巻きに見ているだけで俺たちを引き留めようとする者はいない。
場合によってはパンダのスピードで振り切ってやろうと思っていたが、杞憂だった。ロザリオがいい仕事をしてくれたんだな。
パンダはのっしのっしと城門から続く石畳の道を歩き、いよいよ城の前まで到着する。
そこには、ピンクがかった鎧を纏った壮年の髭の男とロザリオが立っていたのだった。
壮年の男は某ゲームに出て来るあの戦士に似ていなくもない。
「貴殿が蓮殿ですな。某はグレゴリオと申す」
「はい。市ヶ谷蓮夜です。宰相に話があり、城に来ました」
「ロザリオから全て聞いております。騎士団は某の指揮下にあり、貴殿に手出しせぬよう指示を出しております。尤も……」
壮年の男、グレゴリオが騎士団長ということだな。騎士団が彼の指揮下にあるというわけなのだから。
そんな彼であるが、目だけをパンダに向け緊張からか手に力が入っている。
ジワリと汗をかいているようで、パンダに並々ならぬものを感じ取っている様子だった。
「こいつはパンダです。大丈夫です。噛みつきませんので」
「これほど強力な魔獣を見たことはありません。それだけで貴殿の力が分かるというもの。ロザリオから話を聞いた時は迷いはしましたが、貴殿と大和殿にお任せいたします」
「騎士団は手出し無用でお願いします」
「防衛であれば、騎士団も協力いたします」
グレゴリオの言葉をそのままに受け取ってはいけない。俺たちに協力すると言っているのではなく、国の防衛のためならばと注釈がつく。
なら、国の防衛が必要と判断するのは誰だって話なのだ。
王の直言でもって動くのだろうけど、王は自由に動ける状況じゃあないと聞いている。ましてや今のままだと俺たちの意向が王に伝わるわけもなく。
「ロザリオさん、大和は?」
「街に監視塔があるのをご存知ですか? そちらにいらっしゃいます」
「なるほど。ということはこちらは抜かりなく進んでいる、ということですか?」
「騎士団長殿が共に来てくださるとのことになりましたので」
「手際が良すぎて少し怖い……」
「朝礼があると申したではないですか。騎士団の意思統一はそこで成されますので」
確かそういうことを言っていたような気がする。
街から少し離れたところで泊り、朝日が昇る前にロザリオと大和は城へ向かった。
その後、騎士団長らに話を通し今に至る。
これほどあっさり宰相らと会えるなんて思ってなかったから、嬉しさより戸惑いが大きい。
んじゃま、「オハナシ」に行くとしようか。もちろん、パンダに乗ったまま。
◇◇◇
城を囲む城壁から跳ね橋、堀の水まで全て奪い取った狼藉者の俺を彼らは叱責するでもなく、うんうんとオハナシを聞いてくれた。
とりあえず、「もしよければ城壁を元に戻して欲しい」と言われた程度で、こちらの要求をほぼ全て飲んでくれた。
これで安心しちゃあダメだけどね。いくら書類まで用意させたとはいえ、奴らには紙の証文などあってないようなものだ。
「王の書状、証文。そして、これが宰相の証文でいいんだな?」
「それで全てです。レン様」
そう言って慇懃無礼に深々と礼をするアブラーン。
水晶に触れた時以来だが、相変わらず何を考えているのか分からない男で、不気味だ。
王と宰相にオハナシした後、彼が実務担当ということで全ての書類を準備してくれた。
これで全部ってことなので、まとめてアイテムボックスに放り込む。
「アブラーン。宰相も王も、細かい内容までは分からないと言っていたが、お前はどうだ?」
「どうと申されましても、何のことやら」
「二つある。俺と大和を元の世界に戻す手段。もう一つは俺を人身売買した経緯だ」
「はて。後者なら憎々しくも浅ましい伯爵派の所業ですな。我らはレン様を手厚くもてなそうとしておりましたのです」
どうだか。
といってもアブラーンがここで嘘を述べるメリットはなにもない。
城壁を全て収納することで、王と宰相は度肝を抜かれ、放心状態になっていた。
このまま街を取り囲む外壁も消してしまおうかと言ってやったら、すぐにオハナシを聞いてくれたんだ。
伯爵軍が迫っているからな。ははは。
「まあいい。俺たちは約束をたがえない。お前たちがこの証文の通りに約束を守るのかは甚だ疑問だが、後でまたな」
「お待ちしております。どうか王国をお救いください」
どうか(宰相派の)王国を救ってくれってことだろうに。
自業自得。
今回の騒動は転移の儀式を失敗したと喧伝されたことから端を発している。
結果論になるが、俺と大和を無責任にもこの世界に呼んだ宰相派は自滅し、俺を売り払った伯爵派もまた同じ末路を辿るだろう。
俺たちを呼ばなきゃ、こうなることもなかったってのに。いい迷惑だよ、ほんと。
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