第31話 大森林ではよくあること
城門の傍だと家を出すわけにもいかないし、木にもたれかかって顎をつけ寝そべるパンダの顎を撫でノンビリすることにした。
ん? 撫でるとかしてないだろって。
そうともいうかもしれない。俺の足にパンダが顎を乗せてきたんだよね。足先を上げようとしても重くてあがらん。
じゃあ、すすっと足を抜けばいいじゃないかと思うかもしれない。だが、これは俺とパンダの戦争なのだ。引くわけにゃあいかねえ。
「レンさん。あれ、大和さんじゃないですか?」
「お」
カルミアの声に反応した俺はパンダの顎から足を抜き、「おおい」とツンツン頭に手を振る。
するとあろうことかパンダが前脚を振るう。
「何すんだよ」
「もがー」
パンダに押し倒された。もっふもふが全身に乗っかり暑苦しい。
こいつめえと腕で力一杯押すとゴロンと転がって空振りした。な、なんて素早い奴だ。
ずんぐりして体も大きいから鈍重かと思いがちだが、こいつは走る速度が馬より速いんだよな。
「動物とじゃれあう蓮とか想像できなかった。実は動物好きだったのか?」
「そんなわけないだろ!」
『ひょろ憎いじりしていただけ、なようです』
「このやろおお!」
「ダメですうう!」
何だか久しぶりだな、この流れ。
慣れたものでどったんばったんした後、すぐに元の体勢に戻る。
はい、解散、解散。
ん、俺たちにとってはいつものことだったのだけど、大和はハラハラした様子で女騎士は顔を逸らし見まいと決め込んでいる。
「いつものやつだ。別に仲たがいしたとかじゃないから安心してくれ」
「そ、そうなのか。上級者過ぎて俺にはちょっと理解の範囲を超えていた」
「大森林ではよくあること」
「大森林じゃ、喋る動物が絡んでくるのか?」
「今のところパンダ以外を見たことがないな。探検もそれほどしていないからさ」
せっかくだから大自然を満喫しようと思っていたのだけど、災害クラスのモンスターの訪問が続いていたからなあ。
とてもじゃないけど、気軽に散歩できる環境じゃなかった。そのうち、誘引されるモンスターも駆逐され安全に出歩けるようになるだろ。
「街は七日前より更に物々しくなっているな」
「唐突だなおい」
「用件は先に手短にだろ」
「よく分からねえけど、突っ込んでも仕方ねえ。街というか王国がかなり殺伐とした感じになってきてるぜ」
「詳しく」
煙がそこかしこであがっていても門が封鎖されていなかった街だぞ。
警戒対象が変わった? それとも内紛が終わり一枚岩になったから敵対派閥を追い出した?
じっと大和を見つめると、彼はばつがわるそうに右を向く。
「言われなくても、俺の知る限り……ロザリオ。説明を頼む」
「速攻説明を放棄した諦めの良さは相変わらずだな」
「それ、褒めてんのか?」
「もちろん、褒めているさ。適材適所ってな。ソロじゃないことの強みだ。俺たちはチーム。みんな得意なことで力を発揮すればいいのさ」
「なんかカッコよく決めたとか思ってんだろ」
「……ロザリオ、説明を頼む」
一歩下がった大和に押し出されるようにしてロザリオが前に出る。
頭の中で情報を整理しているのか、しばらく押し黙っていた彼女は堰を切ったように語り始めた。
「自国のことでありますが、あまりにも稚拙に過ぎ大和様の願いでなければ身内の恥を語るべきではないのですが……結論から述べると王国は内乱状態にあります」
「それで門を」
「その通りです。中央で力を持つ者は領地を持つ貴族であったり、王国だけではなく他国にも影響を及ぼすほどの独占的な商業圏を持つ貴族であったり……と様々です」
「中央に影響を持つために直接乗り込んできたり、中央の貴族と結託したりというのもいそうですね」
「認識の通りです。それだけではありません。他国と結ぶ、引き入れる、独立を宣言する地方貴族まで出て来る始末」
大袈裟に額に手をあてるロザリオだったが、こちらはこちらで開いた口が塞がらない。
真面目にやってその結果なのか? それともワザとやっているのか。
彼女から現状を聞けば聞くほど迷いが大きくなっていく。
大臣派は突如裏切った王派とドンパチやって影響力をかなりそがれた。自爆した王派は壊滅し、王族は丸裸で玉座に座っているだけの状態になる。
一体何のために裏切ったのやら……。協力し他派閥がちょっかいかけてこられなくなってから、とか壊滅するにしてももう少しやりようがあるだろ王派のみなさん。
他勢力も中々香ばしい。王派の裏切りを見たというのに宰相派を打ち破るため伯爵派は地方の大貴族である辺境伯と迎合し募兵する。
辺境伯は名前の通り国境を守護する役目をおった貴族だったのだけど、この募兵に反応したのは中央でなく隣国のガルシア王国だった。
辺境伯がガルシア王国を攻めようという動きは見せていなかったにも関わらずだ。
ガルシア王国はロザリオの情報によると、アストリア王国の半分くらいの国力らしい。となると、国境で兵を集めるなんてしたら緊張漂うわな。
この動きにダブランダー一派がガルシア王国を支援し、一派の支持基盤たる商人から資金を集め傭兵を揃える。
結果、辺境伯はガルシア王国に攻められ、戦わぬまま敗走してしまった。しかし、敗走したのは彼らなりの戦略だったのだ。
無傷で敗走し向かう先は――ここアストリア王国の王都アストリアである。
もう意味が分からない。どうしてこうなるんだよ!
「騎士団や兵は王都を防衛するのでしょうか?」
「正直、王の意思が全く反映されない王の言葉を騎士団が受け入れることに抵抗があります」
「といっても、騎士団が旧王派に代わり王を支持するわけではないのですよね?」
「我らは武人として、国の命令に従う所存であります。王を御守りする意思はございますが、政治的な判断を行うことを忌避しております」
「軍の文民統制か」
事ここに及んで高潔な意思を保つというのは美談ではあるが、混乱を集束させる気がまるでないとも取れる。
かといってむざむざ辺境伯の軍に対し無血開城をする気もないのだろう。
自分の領地を占拠された辺境伯の軍を街に入れてみろ。阿鼻叫喚の地獄絵図が完成する。
なので、騎士団としては街に侵入されぬよう防衛せねばならない。
うーん。誰も得をしない動きをしているから、本気なのか、ワザとやっているのか分からなくなるんだよなあ。
辺境伯と騎士団が共倒れすれば宰相派にとっては、多少の得にはなる?
いやいや、辺境伯領を占領されているんだぞ。大きく力を減じた宰相派が騎士団を失い、新しく傭兵を雇入れる資金はどれだけ残るんだ?
「どうだ? 蓮」
「ううん。一つ思いついた作戦があるけど、倫理的にあまり……」
この混乱を収束……はできないかもしれないけど、俺と大和にとっては利にはなるかもしれない。
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