無職だと売られて大森林。パンダに笹をやり最強の村ってやつを作るとしよう
うみ
第1話 お約束?の追放劇
ガラガラガラと馬車の動く音が嫌に耳へ響く。
「どうしてこうなった」などと嘆いていても仕方ないが、愚痴の一つくらい言わせてくれよ。
俺は今、ロープで両手を縛られて座らされている。
ロープの先は抜けるように澄んだ滑らかな肌をした麗人が握っていた。
一か八か逃げることができるかもしれない。だけど、余り気が進まないんだ。
少なくとも、彼らから解き放たれた後にしたい。甘い考えだと、自分でも分かっている。
こんな状況だってのにな……。
麗人は人ではない。
長い耳にすっと伸びた鼻、切れ長の目は整い過ぎていてまるで彫刻のようだ。
「あ、あのお……」
「……」
声をかけても、目を瞑ったまま何も答えてはくれなかった。
しかし、声をかけるたびに麗人の指先が震え、ロープを握る手に力が入っているのが分かる。
酷く動揺しているのか、何かに耐えるように。
俺と会話をすれば「意思が揺らぐ」とでも言わんばかりに。
そんな態度を取られたら、何だか逆に俺の方の心が痛む……分けないだろ!
いや、ちょっとはあるかも。
「俺は『生贄』に捧げられるんですよね?」
「……そなた。我らの言葉が分かるのか」
「はい。全て聞こえておりました」
「そうか……我らの事情ですまぬが、許せ。いかな重罪人とはいえ、我らの代わりに犠牲になることは……いや、詮無き事。私が偉そうに言うことではない」
「生贄ってことは、竜か何かでもいるんですか?」
「そろそろ聞こえてくる」
森の中を進む馬車の中に俺はいた。
馬車に乗るのは俺と袖の長いローブを羽織った耳の長い麗人、後は馬を引く御者だけだ。
御者もまた、麗人と同じく男なのに美しい顔立ちをしていた。
彼もまた何も喋らず、時折肩が震えているのが見て取れる。
彼だけじゃない。彼らの集落でも、皆、俺に対し申し訳なさそうな態度を取っていたんだ。
逆に「ガハハハハ、お前は生贄だー、ざまあ」と悪役山賊みたいに振舞ってくれたら、後腐れなく思い切った行動を取れたかもしれない。
グルルルルル――。
「こ、これは。化け物の声か」
「畏れ多い滅多なことをいう者ではない。神獣の声だ。この時期になると、神獣が嘆くのだ」
「俺は神獣とやらの餌になる……のでしょうか」
「お前次第だ……と信じたい。私の妹も、また……」
つううっと麗人の頬を涙が伝う。
彼らの種族は森エルフというらしい。
人間から見ると全員が美しいと言える見た目をしており、森の奥深くで自然と調和した暮らしを行っている……と聞いた。
盗み聞きした情報によると、森エルフは出生率が低いらしく神獣への生贄を差し出すことに苦慮しているんだってさ。
だから、多額の金を払い王国から人間を融通してもらった。処刑になるような重罪人を、だ。
しかし、彼らの持つ情報は一部間違っている。
彼らは処刑されても仕方のない人間を、と望んだのだろうが事実は異なっていた。
王国では人さらい、人身売買当たり前な世界だったんだよね。は、ははは。
別に犯罪者じゃなかろうが、捕らえられ売られることだってあるのだよ。何も知らない、異世界から来た俺のような人間でもね。
なして俺が、こんなことに。
グルルルル。グルルルル。
うわあ。余程お腹が空いてらっしゃるようで。
喰われないために、何とかする手段はある。今に見ていろよ。この状況、完全にひっくり返してやるからな。
◇◇◇
――三日前。
「カンパーイ」
「おつかれー」
久しぶりだなあ。高校時代とみんな変わってないみたいで、あの頃を思い出す。
趣味もまるで違う四人だったけど、何故か馬があってこうして社会人に成った今も定期的に会っているってわけだ。
「それで、
「うーん。まあ、まだ二年目だし。相変わらずだよ。
短く毛を刈り込んでツンツンにした頭の爽やかイケメンは、一番古くからの友人で俺の幼馴染の
逆に問い返すと、彼は枝豆を口に入れながらうーんと首を捻る。
「俺も得意先回りばっかでさ。土日だけ練習だと体がなまって」
「相変わらずだな。俺は土日くらい寝て過ごしたいよ」
こいつの趣味は体を動かすことというとんでもない奴なのだ。
社会人になった今も、休日は剣道をやっているらしい。
「そこは
「だろお」
ビールを掲げ、もう一人の友人とビールジョッキを打ち付けあう。
長い黒髪が乱れに乱れた彼は、無精ひげも相まってなかなかのむさくるしさだ。
身だしなみに頓着しない彼らしい。
「市ヶ谷くん、
「頼むー」
「あ、俺も」
「ありがとう」
四人の中の紅一点は相変わらず気が利くなあ。
高校時代は化粧っ気もなかったけど、今は薄く化粧をしている。どんどん美人になっちゃってもう。
なんておっさん臭いことを考えた時、急に視界が真っ白になった。
……。
う、みんなは?
顔をあげると、厳しい顔をした大和が前を睨みつけていた。
「蓮夜。俺は白昼夢でも見ているのか?」
「何を……え?」
大和の言わんとしていることがようやく理解できた。
俺たちは居酒屋にいたはず。それが、赤い絨毯の上に座っていたのだ。
ゲームや漫画で見るような玉座が一段高いところに置かれていて、左右の壁から垂れ幕……みたいなものが吊ってあった。
「他のみんなは」
「分からない。俺も蓮夜と同じだよ」
どうやら俺と大和だけがこの場所にいるようだった。
二人の事が心配だけど、そうも言っていられないらしいな。
ドーンドーンと銅鑼の音が鳴り響き、ぞろぞろと古めかしい衣装を纏った一団が右奥の扉から入ってきた。
「よくぞ参った。異世界の者よ。儂はアストリア王国宰相ガルシアである」
顎髭を生やした大柄で腹も出っ張った中年の男が偉そうにふんぞり返る。
彼の宣言が終わると、さささと脇から痩せぎすの小柄な男が前に出てきて俺たちの前に水晶玉を掲げた。
「ささ。これに手を」
「一体どういうことなんだ? 変なドッキリならやめて欲しいんだけど」
大和が俺の代わりに言いたいことを言ってくれた。
対する小柄な男は顔色一つ変えず、いけしゃあしゃあと言葉を返す。
「先ほどガルシア様がご説明された通りです。『異世界から招かれた者』と。あなた方は異世界の方なのでしょう? まずはこの水晶玉に手を」
「話にならない。行こう。蓮夜」
「外に出ても、右も左も分からないですよ。我々はあなた方に力を貸して欲しいのです。どうかこの国を救って頂きたい。無茶な願いだとは分かっております。突然、呼ばれて不信感も募っているでしょう。ですがどうか、必ず、事が済めばお返しするとお約束いたします」
「……どうする?」
どうすると子犬のような目で見られても困るって。大和よ。
怪しさしかないけど、本当にこの男が言う通り「別世界」だとしたら彼らを振り切って外に出てしまうというのも考え物だ。
何より、ここにいるだけで相手の数は10人ほどいる。抵抗して捉えられ……となるよりは大人しく従い隙を伺った方が吉か。
決して油断せぬよう、信じぬようにしないとだけどな。
「水晶に触れよう。少なくとも衣食住は保障してくれるんだろうな?」
「もちろんです。お部屋も用意いたします」
大和と目配せし、頷き合う。
二人揃って水晶玉に手を触れる。
『名前:市ヶ谷蓮夜
職業:絶対働きたくない無職
職業特典:引きこもり用にアイテムボックス10倍!
能力:アイテムボックス、言語能力
スキル:無』
なんじゃこら。水晶玉に文字が浮かび上がった。
ステータスってやつかな、ゲームみたいな。
それにしても、何だよこの悪意ある職業。俺はこれでも一応、社会人をやっていたんだぞ。
そらまあ、できることなら働かずに生きていきたいと思ってはいたけど。誰だってそう思うんじゃないのか?
大和はというと。
『名前:九段大和
職業:バトルマスター
職業特典:剣の成長速度10倍、レベルアップボーナス
能力:アイテムボックス、言語能力
スキル:剣圧、スラッシュ、パリィ』
「あははは。蓮夜。酷いな」
「我ながらこれはない。何だよこれ」
よほどツボに入ったのか大和が腹を抱えて笑い転げている。
「ご協力感謝したします。では、この後、軽く能力とスキルのご説明をさせて頂いた後、お部屋にご案内いたします」
小柄な男は慇懃無礼な態度を崩さなかったが、能面のような顔が嫌に印象に残った。
※よろしくお願いします。今回は
婚約破棄からはじまる悪役領主のはかりごと~ざまあされたふりをして裏から領土を操ることにしようか~
https://kakuyomu.jp/works/16816452219730487270
と同時投稿いたします。どちらもある程度は書いております。
10話まで投稿し、好評な方を連載する予定です。どちらも、、、でしたら、、、ちょっと、、、ですが。どっちも好評な場合はどちらも連載します。
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