騎士見習いの年下男子が私の嘘に協力してくれるんですけど
荒瀬ヤヒロ
第1話
売り言葉に買い言葉。
ついうっかり言ってしまったのだ。
「はあ……なんで、あんなこと言っちゃったんだろう……」
いつもの教会の手伝いからの帰り道、モニカは後悔に苛まれながら肩を落としてとぼとぼ歩いた。
村に住む未婚の女性は皆、教会で手伝いをするのが決まりなのだ。若い乙女がたくさん集まれば、当然、話題は「恋愛」のことが多くなる。
特に今は、一年に一度の花祭りが二週間後に迫っているのだから、娘達はその話題で持ちきりだった。
「私の彼、今年こそ花をくれないかしら?」
「私は約束してるの。赤い花がいいってリクエストしちゃった」
「メアリーがボビーに花をせがんでいたらしいわ。馬っ鹿ねぇ。ボビーの本命はマリアに決まってるじゃない」
「ダイアナってば、最近ますます派手よね。毎日のようにお目当ての彼に言い寄っているみたい」
花祭りで使う花飾りを作りながら、娘達はきゃっきゃっと話題を弾ませていた。
モニカはその話題に積極的には加わらず、黙々と手を動かしながら聞いていた。
「モニカは、花をくれる彼はいないの?」
尋ねられたので答えない訳にはいかない。モニカは溜め息を吐いた。
「いないわよ、そんなの」
途端に、娘達が呆れたり肩をすくめたり、大袈裟なリアクションをする。
「モニカってば、駄目よそんなんじゃあ」
「花祭りまでに彼氏を作った方がいいわよ」
「がんばってモニカ」
皆が口々にモニカを励ます。モニカは目を伏せてじっと耐えた。
彼女達は、善意のつもりなのだ。
これまで恋の一つもしたことがない、地味な見た目で華やかさの欠片もないモニカを心配してあれこれ言ってくるだけだ。
一年に一度、花祭りの日に、男性は花束をもって女性に求婚するのが伝統だ。
だから、花祭りの前になると女の子達はそわそわとはしゃぎ出す。恋人のいる娘もいない娘も、誰が求婚されるか気になって仕方がないのだ。
「モニカにも、早く素敵な恋人が出来るといいわね」
「そうよ。興味がない、なんて言ってたらあっという間に行き遅れになっちゃうわよ」
「どんな人が好みなの?」
「好きな人がいなくても、好みぐらいなら言えるでしょ」
「モニカみたいな普段は恋愛なんて興味ないって言ってるような子が、悪い男にだまされて夢中になっちゃったりするのよ。気をつけないと」
「そうよモニカ。好きな人が出来たらちゃんと教えてね。モニカがだまされないように確かめてあげるから」
口々に好き勝手なことを言う友人達に、モニカはさすがにむっとした。
地味な見た目で恋をしたことのないモニカは、この手の話題になるといつも友達からからかわれたり馬鹿にされてしまう。花祭りを目前にして連日似たようなことを言われており、モニカの我慢も限界だった。
だから、つい言ってしまったのだ。
「私にだって、——恋人ぐらいいるわよ!」
「はあ〜、なんであんなこと言っちゃったかな〜」
求婚はしなくても、花祭りには恋人と一緒に参加するのが普通だ。モニカが一人で参加したらあっという間に嘘だとバレてしまう。
「嘘を吐いた自分が悪いってわかっているけれど……」
花祭りに参加するのが憂鬱になってしまった。
いっそ仮病でも使うかと思案しながら家に帰ると、母親から父にお弁当を届けてくれと頼まれた。
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