第2話 カ~ラ~ス~なぜ鳴くの~?その理由は猫にとって恐怖なり

 ギャア!

 ギャアギャア!


 けたたましいカラスの鳴き声に目を覚ましたが、音源おんげん方角ほうがくを見やると、数羽のカラスが、朝焼けの空を旋回せんかいしては、急降下きゅうこうかり返していた。


 急降下の先の草原では、小さな黒猫くろねこが、ころげまわって、応戦おうせんしていた。


 どちらが優勢ゆうせいなのか、どちらも黒くて、白黒しろくろつけにくいが、の猫の本能ほんのうは、黒い仔猫こねこの身の危険を感じていた。


「あの黒猫、カラスに狙われている!」


 カラスは、光るものをねらって習性しゅうせいがある。猫の目である。

 目のみならず、のどを突かれ、したを引きかれ、あまつさえ、生きたまま、雑食ざっしょくのカラスに食べられてしまう野良猫もいるという。


「助けに行かなくちゃ」


 三毛猫のは、脱兎だっとのごとく、ダッと走り出した。

 普通の猫が、時速五十キロで走るところを、何故なぜか1.5倍の七十キロで走る。十秒もあれば、黒猫を助けられるだろう。


 急げ!


 そう思うと、力がみなぎる。地をり、草をつかみ、四肢しし筋肉きんにく躍動やくどうさせ走った。


 あと九秒、八秒、七秒、六秒、五、四、三、二、一、今だ!

 するどい爪をあらわし、カラスめがけてジャ~ンプ!しようとした時、


 ドーン!

 と、すさまじい轟音ごうおんが空にひびきき渡った。


 驚いたカラスたちは、蜘蛛くもの子をらすように、四方八方へ逃げ去った。


 カラスへ飛びかかろうとしたは、耳をつんざ銃声じゅうせいにビックリし、もんどり打って、あお向けにヒックリ返った。


 ヒックリ返ると、天地てんちが逆転して見える。無事でピンピンしている黒猫を、天地さかさまに確認できた。


 その背後に、散弾さんだん銃を虚空こくうへ向けてかまえる細身ほそみの老人が見えた。黄色い安全ヘルメットをかぶった老人は、黒い仔猫へ歩み寄り、しゃがんで、


「危なかったな」


 と、頭をなでた。救いを求める黒猫の意思が理解できたのだろうか、助けられた黒猫も、


「怖かったよお。お腹も空いていたし、心細かったよお」


 といている。まるで、人と猫の意思が疎通そつうしているかのようだった。


 仔猫の緊張きんちょうはまだ解けていないはずで、緊張状態にある猫は、人間を寄せつけないのに、よほど気を許しているらしく、仔猫は、細い老人のあしに、頭をなすりつけてなついている。


 猫の言語げんごを理解したように、老人は、黒い仔猫へ、


「朝ごはんを用意しておいたから、早く帰っておいで」


 と言い残すと、忙しいのか、急いでいるのか、自転車を立ちぎして、白髪はくはつの人とは思えないスピードで去って行った。


 枯れ草が保護色ほごしょくになったのだろうか、三毛猫のあたしには気づかなかったようだ。

 しかし、さすがに、同じ猫同士の黒猫は、気づいたらしく、


「いつも、そんなところで寝ているの?」


 と声をかけてきた。

「そんなところで寝てたら、風邪ひくよ?おばちゃん」


「おばちゃんじゃナーイ!」

 あたしはガバッと起き上がり、

「おばちゃんじゃなくて、お姉ちゃんだっつーの。それに、あたしの名前は、三毛猫ミー」

「ミー姉ちゃんだね。僕の名前は、黒猫クー」


「黒猫のクーか。宜しく……」

 と言おうとしたとき、低い朝日を背に、数匹の黒い影が伸びてきて、あたしの白い足を黒くめた。

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