4.ニュース
鯨岡を乗せたアウディは、白蛇の運転によって中央道を北上していた。
すっかり夜は更けている。いくつものヘッドライトが繰り返し繰り返し鯨岡たちの車とすれ違っていった。
「ヘンリーの追っていた信号を私のスマホでも同期させて行方を追ってるんですが……ま、説明は割愛するとして、ちょっとまずいことになったみたいです」
「なにがだ」
鯨岡がさっきからしきりに足を揺すっているのを白蛇は知っている。
「ツカサちゃんのスマホの反応が消えました」
「……どういうことだ?」
後部座席から鯨岡は身を乗り出した。白蛇は注意深く運転しながら応える。
「電源を切ったのか、落として壊したのか……」
「そこで止まっているということか?」
「いえ。それなら信号は停止したまま残るんですが、GPSの発する信号そのものが消えてしまって。スマホの電池が切れた可能性もあります」
「……どこなんだ」
白蛇はダッシュボードに置いた自分のスマホを鯨岡に手渡した。画面は地図アプリを表示したままになっている。
「確かタテシナ……と読むのかこれは……町の名は?」
「茅野市です。チノパンのチノ。ずいぶん山奥で消えたので心配ですね。電池切れだとしても充電できないし」
ツカサが姿を消したあと、鯨岡は何度か彼女のスマホに電話をかけていた。だがまるで応答はなかった。なにか反応できない状態になっている可能性があり、鯨岡はあれこれ想像を膨らませた。だが最悪の状況ばかりが頭をかすめて心臓に悪い。
そんな中、ツカサをマークしていたヘンリーから、突然ツカサが猛スピードで移動しはじめたという連絡を聞き、戸惑いながらも行方を追っていたのである。しかも速度は時速二一五キロ。鯨岡は真っ先にヘリでの移動をイメージしたのだが、そうなる状況がまったくわからなかった。しかもツカサはきれいに中央道をトレースしながら動いていたのである。
そうなると、スポーツカーのような高速の乗り物に乗せられていた可能性がある。イケメンにそそのかされて格好いい車でドライブ。どこをどう間違ってもそんなツカサの姿を想像することができない。しかし年頃の娘はときに暴走するものだ。そろそろ男との付き合いにも興味を持ちはじめて――。
頭が爆発するような思いだったが、いざ高速道路に入ると鯨岡の考えも変わった。中央道の下りはそこそこ混んでいて、とても二〇〇キロで飛ばす余裕がなかったのである。
「うわっ、なんか来たぞ!」
鯨岡が怯えた声を発した。特徴的なチャイムに白蛇が反応した。
「LINEの通知ですよ。プライベートなことなので見ないでもらえます?」
「あのメールみたいなやつか……。おい、差出人はヘンリーだぞ」
妙なものでやりとりをしているものだと思いながらいじっていると、別のアプリが開いて、先ほど送られてきたメッセージが表示された。もう諦めてスマホを白蛇に返そうとしたが、鯨岡はその内容に度肝を抜かれた。
「ツカサ!」
「えっ?」
白蛇も思わず声を上げる。
「いや、ウェブニュースの引用だ。『謎の高速スケーター、中央自動車道を爆走。政府の実験か』」
ふざけ半分の見出しの下に、誰かがネットにアップしたのであろう写真が表示されていた。
「めちゃくちゃ適当ですね。〝政府の実験〟っていったい」
「笑い事じゃないぞ。写真はブレブレだが、服の特徴は間違いなくあいつだ。いつものスケートを履いてる」
白蛇は車を追い越し車線に乗せながら、スマホを受け取った。
「これでツカサちゃんと断定できるのはさすがですけど……ツカサちゃんって時速二〇〇キロで走れるんですか? 私はインラインスケートには詳しくないんですが……」
「そんなわけあるか! いったい何なんだよ……くそっ!」
悪態をついて鯨岡が後部ドアを殴りつける。白蛇は再び車を左車線に寄せながら指で合図した。
「もうすぐ出口です。我々も茅野に降ります。あと、あんまり叩くとエアバッグが開くのでやめてください」
ウインカーがカチカチと音を立てていた。
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