【週刊カクヨム1周年記念コンテスト用企画設計図】 屍江稻異座穂と死体になった魔女
オロボ46
プロローグ
――魔女の紋章――
世界中に蔓延した現代の疫病は、ある人物の助けによって半年で収まった。
その人物は疫病にかかった人間の前、現れ、紋章のような焼印を押した。その紋章を付けられた人間は、翌日になると何事もなかったかのように健康になっていたのだ。
その姿は、まるで救世主。しかし、本人は「私は中世の時代に弾圧されていた魔女だ」としか自分のことを話さなかった。外見の証言も、出会った人ごとに違っていたため、性別すら定まらなかった。
ある程度疫病が収まったころ、魔女は忽然と姿を消した。その目的も、その正体も、わからないまま。
残されたのは、紋章の焼印を作り方が書かれた書物だけ……
――紋章の街 鳥羽差市――
魔女の残した書物から、紋章を技術として扱おうと主張する会社が現れた。
“鳥羽差市”と呼ばれる、日本の山と海に囲まれた地方都市に拠点を置くその会社は、紋章によるビジネスを成功させた。
一度は紋章の技術により発展した鳥羽差市。
紋章の技術が世界中に広まり、人々が離れていってもなお、その街は初めて紋章を活用した街として有名となった。
――羊の殺戮――
紋章の技術が一般化してきたころ、鳥羽差市ではある事件が起きていた。
山にあるキャンプ地に訪れていた6人のキャンプ客のうち、幼い少女をのぞいた5人の男女が真夜中のうちに消え去ってしまった。
捜索するキャンプ指導員と警察。しかし、消えた5人を発見したのは、幼い少女だった。
少女は森の開けた場所で、彼らを見つけた。
ひとりは右足、ひとりは左足、ひとりは右手、ひとりは左足、ひとりは胴体……
それぞれの部位だけとなった5人は、人体の位置に規則正しく並べられていた。
そして、頭にあたる位置には、
見知らぬ白髪の少女の生首が、目玉をえぐり取られて置かれていた。
キャンプ客5人と、身元不明の少女の死体。
警察がその場所に駆けつけると、死体たちと戯れる幼い少女の姿があった。
その後、少女は死体たちを発見する前に、羊の頭を被った人影を見かけたと証言した。
警察はその人影による犯行と推定して捜索したが、その人影の手がかりどころか、白髪の生首の身元すら明らかにならないまま、事件は迷宮入りとなった。
この事件をきっかけに、鳥羽差市にある都市伝説が生まれた。
真夜中の森を歩くと、羊の頭を持った悪魔“バフォメット”に襲われる。
もしも捕まってしまうと、体の部位をひとつ切り落とされ、
異世界に連れて行かれるよ。
――帰ってきた死体――
それから10年後、バフォメットの都市伝説も笑い話にできるようになったころ、その都市伝説は再び話題となる。
鳥羽差市にすむ女子高生が、行方不明となった。
その女子高生の跡取りは、奇しくも10年前の事件の現場で途切れていたのだ。
10年前の事件を知るものが今回の失踪事件と結び付けないことは、無理な話だった。
その頃、鳥羽差市はずれの山の道路を、1台の車が走っていた。
ハンドルのない自動運転専用のその車には、ひとりの少女と1匹のウサギが乗っていた。
ウサギは二足歩行をしているかのように、助手席に尻をつけて腰掛けている。
タキシードにシルクハットと、童話のような出で立ちで、白い毛並みには埋め込まれた数々の紋章が青色に発光している。
そのウサギはまるで知能があるかのように隣の少女と会話をしていた。
ハンドルなき運転席に座る少女の肌にも、紋章が埋め込まれている。
その顔は、10年前の身元不明の生首と瓜二つ……いや、そのものだ。あの白髪の生首が、死人の顔をしながらも生きているかのように笑っている。
その右腕は女性らしい細い腕、しかし、反対の左腕は男性のように筋肉質だった。
その体は、まるで部位をつなぎ合わされたフランケンシュタインの怪物のようだ。
そう、まるで10年前の死体をつなぎ合わせたかのように……
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