TMに捕らわれぐれいから逃れられない

@m89

第1話

 気が付いたときには体は宙に浮いていた。足の裏は地面につているにはいるけど体を支えるためのものではなく、ただついているだけだ。手首を何かで縛られつるされているから、腕が上にあり腕より顔が前に来ている変な姿勢をしているせいなのか、なぜか背中が痛い。感覚でわかっていたけれど、目視で確認して更に絶望した。全裸だった。せめてショーツだけは残しておいてほしかった。なぜなら、ちゃんと処理をしていないからだ。本当に恥ずかしい。そのままつま先を見たらネイルが取れかかっている。2万円もしたのに。

 柏崎エリカは、暗い部屋で一人、上のほうにある小さい窓から入ってくる光で自分の置かれている状況を理解し整理した。監禁されている。「あぁ、全裸で監禁されているわ」鋭く低い声を発した。発した声は空気に吸い込まれてすぐに消えた。

 おなかのすき具合で、最後の食事から4時間ぐらいしか経っていないと思った。ちょうど今見えている壁みたいにコンクリートが打ちっぱなしのおしゃれなフレンチのレストランで友達とランチをしていた。楽しくおしゃべりはしていたけどほとんど興味のない話だったから、相槌だけうっていた。その友達と別れた後、なぜこうなってしまったのかはわからなかった。横断歩道で意識をなくして目覚めたらこうなっていた。


 背中のほうから、古い感じの引き戸がガラガラとあく音がした。男性みたいな足音が入ってくる。その足音が背中の近くで止まった。何かに座った感じがした。

「やあ、エリカ君。ひさしぶりだね」

 男の声だ。私のことを知っているみたいだけど声だけだとわからなかった。そんなことより、私の後ろ姿ってどんななのだろう?最近、太ってきているしランチの後だし、トレーニングもさぼっているから、お尻は垂れてるし、お腹もくびれていないかもしれないと思った。恥ずかしい。毛の処理は?いろいろなことが次から次へと出てくる。やっぱり恥ずかしい。

「エリカ君、僕はね美しい君の姿が見たかったんだよ。今日はその夢がやっとかなった。君は最高に美しい。髪の毛から足の指先までパーフェクトだ」

 いや違う。こいつ何言ってるの?確かに髪の毛はまぁまぁ合格よ。今日のランチのために、美容院に行ってきたから同意できる。その先は最悪なの。胸だってお腹だってお尻だって垂れて落ちてるし、くびれだってないし、足のネイルなんて取れているのよ。後ろからしか見ていないから適当なことを言えるのよ。前からちゃんと見ていえるかしら。私の身体なんか下着で美しさが保てているようなものなんだから、全裸の私なんてただの女よ。エリカはイライラしてきた。

「震えてるのかい?怖いのかい?そうだね、裸でどこかわからない場所につるされていたら、それはそれは不安がいっぱいになるよね」

 震えている?怖い?不安?うるせぇな。お前が私をちゃんと見ないでパーフェクトとか言ってるから怒りがマックスになってのが解らないの。


 エリカは無意識に縛られている何かを引きちぎった。瞬間、しっかりと地面を踏みしめ体重を感じた。

「やっぱり太っているかも」

 少し悲しくなった。エリカはキラキラの長い髪が広がるくらいの速さでふりかえり、男をにらみつけた。振り返った振動でお腹とお尻がブルブルのしたのが恥ずかしくて顔が赤くなっているのを自分でもわかった。

 


 トレインスポッティング世代の僕らは、危険なことをやってみたいけど『安全の中にはいたい』みたいな潜在意識が働き、安全圏の中での最大限の危険しか体感することができない。この話みたいにある程度、ブラックなことは表現できるけど、先が細ってしまう。それは実体験でそれ以上の体験がないからなんだと思う。


  これを、打破するために昼夜、もがいている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る