第40話 移動平均線でトレンドを判断する

 では、なぜ移動平均線で過去数日間の株価の終値の平均の推移を見る必要があるのでしょうか。


 それには移動平均線の特性を知る必要があります。


 移動平均線は「過去数日間の株価の終値の平均値」を表しているのです。

 つまり毎日乱高下する株価をならして、全体の上昇ムード、下降ムードを見極めやすくする目的で移動平均線を描くのです。


 現在、新型コロナウイルス感染症の感染者発表の際「7日間移動平均線」が用いられているのも、日々のばらつきをならしてムードを読むためです。



 つまり今の株価が、過去数日間の終値から見て上昇しているのか、下降しているのかを知るために移動平均線を見ているのです。



 たとえば長期移動平均線で1,000円、中期移動平均線で1,100円、短期移動平均線で1,200円で、現在の株価が1,300円だったとします。


 この場合、過去三カ月の推移より過去一カ月の推移のほうが100円高く、過去一週間の推移のほうが200円高い。

 さらに現在の株価は過去一週間の推移より100円高いのです。


 これは明確に「株価が上がってきている」ことを示しています。


 過去一週間に、現在の1,300円が含まれていますから、他の4日間は平均1,175円ということになります。明らかに高いですよね。

 同様に過去一カ月に、過去一週間が含まれていますから、他の20日間は平均1,075円ということになります。明らかに過去一週間のほうが高いですよね。

 さらに過去三カ月に、過去一カ月が含まれていますから、他の50日間は平均950円ということになります。明らかに過去一カ月間のほうが高いですよね。



 そうなのです。長いほうの移動平均線は、短い移動平均線を含んでいるため、それを除いた株価の高さを知る手間を、双方の移動平均線を描くことで省略しているのです。


 そして、基本的に長期移動平均線より中期移動平均線のほうが高く、中期移動平均線より短期移動平均線のほうが高いのは、「上昇トレンド」を見極める要素のひとつとなります。


 もちろん、これまで株価が低迷していて、ここ数日間で株価が急騰したら、長期移動平均線より中期移動平均線が低く、中期移動平均線より短期移動平均線が低い状況も発生します。

 このため、単純に移動平均線の並びだけで「上昇トレンド」を見極めるのは「暴論」に近いのです。

 あくまでも判断材料のひとつでしかありません。



 このような急騰時は、短期移動平均線が中期移動平均線を下から上へ突き抜ける形がよく出ます。これを「ゴールデンクロス」と呼ぶ書籍もあります。


 しかし、あくまでも中期移動平均線を短期移動平均線が上抜くまで待っていると、株価がすでに高くなっている場合もあります。



 そこでより感度が高いのは「当日の足が短期移動平均線を上抜く」状態です。

 これは過去「5日間」の平均よりも今日の株価が高かったことを示します。


 これで「ゴールデンクロス」が発生すると、半分くらいは実際に株価が高くなっていきます。

 しかし「ゴールデンクロス」が発生しても、半分ほどは株価が落ちていくものです。

 あまりに感度が高すぎて、先の推移を予想するのに使えない場合が多くなります。



 そのため、上昇トレンドの判定に「中期移動平均線」「短期移動平均線」「当日の足」の三つを用いるのがより正確でしょう。



 たとえば「当日の足が中期移動平均線を下から上抜く」場合は、短期移動平均線が上抜くよりも早いタイミングで「ゴールデンクロス」が発生します。

 これを「上昇トレンド」の目安としている書籍もあります。

 ただ、性急な判断かもしれません。

 その日は確かに上げムードですが、明日も明後日も上がるかというと、必ずしもそうではないからです。

 もし上げ基調であれば、昨日も一昨日も上がっている可能性が高く、それなら「短期移動平均線」も上向いていて、「中期移動平均線」を上抜くか抜こうとしているかしているはずです。


 仮に「当日の足が短期移動平均線を下から上抜く」けれども「中期移動平均線がその上にある」場合。

 これは単純に上昇トレンドとは判断しにくくなります。過去一カ月の平均よりも当日の株価が低いのですから当たり前ですよね。

 もし「当日の足が短期移動平均線を下から上抜く」のなら「中期移動平均線が短期移動平均線の下にある」のが望ましい。

 これなら「上昇トレンド」を判断しやすくなります。


 さらにいえば「当日の足」だけでなく「前日の足」も加味するべきです。

 「前日の足」より「当日の足」が「始値」と「終値」とも高い場合、さらに「上昇トレンド」を判断しやすくなります。



 私はさらに「もう一日前の足」を含めた三つの足も参考にして移動平均線で「上昇トレンド」「下降トレンド」を判断しています。


 上昇トレンドの初動に乗り遅れる可能性もありますが、より「ダマシ」つまり「偽りの上昇」を見抜きやすくなるので「より損をしにくい」からです。

 トレンドの読み間違えをするくらいなら、確実にトレンドに乗ってから動いたほうが適当といえます。



 このように、移動平均線は上昇トレンドや下降トレンドを見抜いて、今後株価が上に行きやすいのか、下に行きやすいのかを判断するために用いられているのです。



 これで「移動平均線」の意味がおわかりになったでしょうか。



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