第8話 全力買いはしない

 「株式取引」の書籍を読むと、「こんなに簡単に儲けられるんだ」と勘違いする方が多い。

 そして書いてあるとおりの手法で「株式取引」を始めてしまいます。


 しかし、それで実際に資産が増えた初心者はほとんどいません。

 しかも「投資は自己責任で」の原則を振りかざして「読んだあなたが損をしても知りません」で終わってしまうのです。


 「株式取引」の書籍では、どれだけ実践するのが難しいかを強調するべきです。

 「いともたやすく儲けられる」ような書き方をしているのが悪い。

 まぁ金を払った書籍に「儲けるには途方もない努力が必要です。しかも必ず儲けられるとはかぎりません」とは書けませんよね。

 だってそんな書籍、たとえ事実であっても売れませんから。


 「株式取引」の書籍を買いたい方は、「いともたやすく儲けられる」方法を知りたくてよさそうな書籍を選んでいるのです。


 私の考えでは、「株式取引」の書籍を著している方は、実際には「株式取引」で利益を出せていないはずです。

 だって「株式取引」で利益を出しているのなら、わざわざ時間を割いてまでして書籍を書くより、「株式取引」に集中してより大きな儲けを築けますよね。

 書籍を著す時間を惜しまずに印税を稼がなければならないから書く。

 だから「利益を出せていない」と推察できるのです。


 多くの書籍では「信用取引」を推奨して、そのうえで「全力買い」を取り上げています。

 しかし「株式取引」を職業とする場合、「全力買い」は「諸悪の根源」となるのです。


 だから私はあえて主張します。

 「全力買いをしてはなりません」



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全力買いはしない


 「株式取引」を始めるとき、多くの方は「すぐに大儲けできる」と喜び勇んで株式を目いっぱい買い込みます。

 信用取引をしているとなおさらです。(信用取引は後日に書きます)。


 東京証券取引所(東証)での「株式取引」は基本的に100株単位です。

 以前は10株や1株もあったのですが、現在ではあらかた統一されています。


 にもかかわらず、1株から運用できる証券会社もありますよね。

 これは証券会社が100株単位で買い付けて、そのうちの1株をトレーダーに委ねているのです。

 1株株主が100名集まれば、証券会社としては100株単位の売買と変わりませんからね。それで手数料が少しでも手に入るのであれば、という経営上の思惑もあります。

(追記:今の1株投資は、証券会社内での取引に限定されており、東証アローズ

の株価に関係なく、証券会社内の売買で株価が変動します)。


 そんなルールがありますので、初心者は証券口座に100万円を預け入れたら、さっそく株価10,000円の銘柄を100株、または株価1,000円の銘柄を1,000株買います。

 これが「全力買い」です。


 せっかく買うのなら、今買えるギリギリの金額のほうが大きく儲けられる。

 ほとんどの初心者はそう思うのです。


 しかしそれこそが「初見殺し」の落とし穴。

 多くの初心者が、たった一回の取引で退場していく原因となります。


 100万円ぶんの株式を保有すれば、より大きく儲けられるのは事実です。

 ですが「儲けられる」は「損する」の裏返しなのが「株式取引」の実態。


 たとえば100万円ぶんの株式が一週間で+10%となれば10万円の含み益です。

 しかし一週間で△10%となればあっという間に10万円の含み損となります。

 しかもその含み損を取り戻すには+11.12%の上昇が必要です。


 まぁ一日で±10%は、よほどのことがないかぎり起こりません。

 たいていはそのままストップ高、ストップ安まで進みます。


 短期間で発生しやすいパーセンテージは±5%ほどです。

 つまり100万円の株式が105万円になったり95万円になったりするのです。

 それだけならなんてことないと思いますよね。

 しかし毎日5%ずつ積み重なれば、10.25%、15.78%、21.55%と上下幅が膨らみ、上は105%×4日=121万円にも、下は95%×4日=81万円にもなります。


 だから銘柄選びは重要なのです。


 ですが「株式取引」を始めたばかりの方にとって「銘柄選び」はただのバクチ。

 それまで株価が上がってきたのでこの銘柄にしようと飛びつく。

 しかしそこが天井で以後下げ続けるなんて「株式あるある」です。


 仮に100万円が81万円になったとき、全額を注ぎ込んでいたら打つ手がふたつしかありません。

 含み損を確定して19万円の損を受け入れ、81万円で買える株に移る。

 またはいつか100万円に戻るだろうと希望を託して売らずに握り続ける「塩漬け」しかないのです。


 だから絶対に「全力買いはしない」でください。


 「全力買い」は上がるか下がるか。ただそれだけです。

 その後の株価の流れにもよりますが、おしなべて50%上がるか、50%下がるか。

 これでは丁半バクチと変わりありません。


 生活費にもなる資産を築く「株式取引」はバクチでやってはならないのです。

 バクチにしないため絶対に「全力買いはしない」でください。


 あなたが欲張って「全力買い」したら、それは儲けるテクニックをかなぐり捨てています。

 着実に利益を増やす確率を高めるのではなく、丁半バクチに持ち込んでいるからです。



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 「株式取引」は買った銘柄が上がるか下がるか。

 おしなべて50%上がるか、50%下がるかです。

 これでは丁半バクチとなんら変わりません。

 コイントスで表と裏のどちらに賭けるのかとも同じです。


 もし確率が50:50なら、より確実に儲けるための方法論が実はあります。

 それを知ると「株式取引」をする人の精神性の一端を垣間見れるのです。

 トレーダーがどれだけ細かな計算をしているのか。

 細々とした計算で丁半バクチよりも有利に確率を操れるのか。

 それこそがトレーダーの本来あるべき姿です。



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