第49話 野球小僧-49

『三沢君の成績はどうなんです?』

『江川君の陰に隠れていますが、江川君がいなければエースという評判です。同じ2年生で、同じくサウスポーというのはずいぶん損しているようです。ただ、剛の江川、柔の三沢ということで、タイプは違うということです』

『コントロールはいいのね』

『チーム一ということです』

『大木君のように小さな選手でも、大丈夫ということですね。それと、次の山本君はサウスポーを苦手にしているようですから、それも考えての起用ですね』

『うちの監督はなかなかやりますね』

『適材適所というか、一番いいところで選手を使うのが上手いようです』

『さぁ、ピッチング練習も終わった…終わりました。失礼。打席の大木君に声援が飛んでいます。特に、ネクストバッターズボックスの山本君から』


「チビッ!当たれぇ!デッドボールでもいいから、出ろ!」山本

「打て、大木!」高松

「リョウ!Hit the ball!」サンディ



 声援の中で、亮は、覚めていた。一番下手な自分に回ってきたチャンスは、一番最悪になるのが当然だ。だから、最悪ではない、準悪くらいにできれば、それでいい。さっきのような、最悪の結果を引き起こすエラーのような結果にだけはなりたくない。最悪でなければ、いい。デッドボールで死んでも、かまわなかった。

 ただ、……、そうサンディがいつも言っている台詞、Hit the ball! Have a go!

 当てる。飛ばす。どこでもいい。それが、自分の努力の結果だから。デッドボールは、ダメだ!フォアボールも、ダメだ!

 Hit the ball! Have a go!

 振るんだ、当てるんだ、飛ばすんだ、走るんだ!それが、全てだ!



『打席の大木君、バットを立ててじっとピッチャーを見つめています。ピッチャー、三沢君、静かに足を上げた、第1球を投げた、振った、ストライク!空振り!大きな空振りです。三沢君、なかなかの速球を持っています』

『大木君、思い切りのいいスイングをしていますね』

『ここは、当てていったほうが』

『いえ、次のバッターを当てにするようなスイングはしてはいけません。コントロールのいい三沢君が相手である以上、臆することなく向かっていかなくてはなりません』

『そうですか。三沢君、構えて、第2球目を投げた、ファウル、かすった打球は1塁方向ベンチへ』

『三沢君も真っ向勝負ですね。変化球も持っているでしょう。それでも、真っ直ぐ勝負できています』

『大木君なら、打ち取れるという判断なんでしょうか』

『いえ、コントロール勝負だと思いますね。リーチの短い大木君のアウトコースへ2球とも集めています』

『すると勝負球はアウトコース?』

『いぇ、インコースです』

『逆ですか』

『アウトコースへ注意が行っている大木君に、インコースを合わせることはできないでしょう。さっきの高松君の時の配球もそうですが、東君は非常に相手をうまく手玉に取ったリードをしてきます。それと、大木君には、インコースのストレートをはじき返すだけの筋力はないと思いますね』

『経験が浅い大木君では、読みが浅く、体力もない、という判断ですね』

『そうです』

『さぁ、三沢君。勝負を賭けてくるか、1球様子をみるか。投げた、ボール!アウトコース、大木君釣られそうになりましたが、こらえた、よく見てボール!1球釣ってきましたね』

『これで、インコースは見えないはずです』

『大木君も、そこは読んでいる?』

『ヤマをかけるのは、怖いですね。もう1球釣ってくる可能性もあります。よく見て、来た球を打つことを心掛けることです』

『さぁ、カウント、1エンド2。勝負に出るか、ふりかぶって、投げた!』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る