第44話 野球小僧-44

 さぁ、続いてはジロー君、静かに打席に入りました。小林君、次々と先輩が出てきますから、プレッシャーは大きいでしょうね』

『それと、立ち上がり、どういうふうに自分のペースをつかむかということが大事です』

『第1球、投げた、ストライク!低めにコントロールされています。ジロー君も戸惑っています。第2球、かまえて、投げた、打った!12塁間、大木君回り込んで、正面、はじいたぁ!あわてて拾って、1塁へ、セーフ!大木君エラーです』

『いまのは捕れますね。まだ経験不足というところです』

『ダッシュが遅れましたか』

『そうですね。判断が鈍かったですね』

『さぁ、クリーンアップの登場です。さっき先生がおっしゃったようにペースがつかめないうちに、クリーンアップというのは辛いところです。セットポジションかまえて、ランナーを気にしながら、投げた、ストライク!インコースへストライク!気持ちでは負けていません。思い切って、インコースへストライク。配球はどうでしょう?』

『直人君は様子を見ていますね。ランナーと、内野のポジションも見ながら、配球を読んでいますね』

『…こわいですね』

『読みのよさはもちろんですが、次のバッターへのつなぎを計算しています。長打より、進塁打を狙ってきますね』

『第2球、投げた、ボール。アウトコースへ外しました。しかし、直人君、平然と見逃しました。これは、読みどおりなんでしょうか?』

『いえ、このカウントでは打ちにいくつもりはなかったんでしょう』

『カウント、1エンド1ですが、これはバッティングカウントですか?』

『ここは、ヤマをかけてくるでしょう』

『どこでしょう』

『たぶん、インコース…』

『小林君、ふりかぶって、投げた、打った!サード上、越えた!レフト前、ヒット!ヒット!インコースでした、ね』

『えぇ、そうです』


『すごいですね、どうしてインコースだと思ったんですか?』

『そんなに難しくはないんです。初球がインコースでした。クリーンアップを相手にして、長打を警戒しているのであれば、インコースは投げにくいはずです。でも、インコースに来たというのは、その前の大木君のエラーが気掛かりだったということです。あれを見たとき、アウトコースでゲッツーは無理だと考えたバッテリーはインコース中心の組み立てにせざるを得なかったんです。だから、とりあえず、インコースにヤマをかけてもよかった。もし、ヤマが外れれば、次はまた狙い球を変えればいいだけのことですから、このケースで1エンド1なら、インコース狙いでOKなんです』

『なぁるほど。ランナーは12塁!ワンアウトです。さぁ、4番五十嵐君を前に、バッテリーどう攻める!』

『小林君はマウンドさばきが上手ですから、盗塁はできないでしょう。ただ、エンドランのような形で足を絡めて、得点を狙うのがいいと思います』

『さっき、先生がおっしゃったんですが、大木君のエラーはやっぱり気になりますか?』

『たぶん、バッテリーは気にしていますね。野球歴が一番短いのが大木君ですから』

『そうすると、インコース攻めということになりますか?』

『それはもうないでしょう。今、直人君に打たれたばかりですし。五十嵐君相手に、インコースだけでは抑えきれません』

『小林君、ランナーを気にしながら、第1球、投げた、ボール!アウトコース低めへボールです。アウトコースでしたね』

『低めに抑えればゲッツーもありますから』

『でも、セカンドゴロは…』

『仲間でしょ』

『はい?』

『仲間だから、信じるんです』

『はぁ…。あっと、第2球投げた、ストライク!インコースです。左右へ散らしてますね』

『ちょっと気になるんですけど、アウトコースへストライクを放る気があるんでしょうか』

『どういうことですか?』

『アウトコースはボールにして、インコースでカウントを取るつもりなら、読まれると一巻の終わりですよ』

『読みは鋭いんですか、五十嵐君は?』

『あたしはよく知りませんけど』

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