第38話 野球小僧-38

『サンディ、慎重にサインを交換して、第1球を投げた、カーブ!あっと、これをキャッチャーはじいた!ランナー、イチロー君3塁へ、ボールは投げられない!3塁へ進みました』

『いいカーブですね。ここからでもはっきりと曲がっているのがわかりましたけど、池田君がランナーを気にしすぎましたね』

『ボールから目が離れてしまった』

『ええ、このあたりだろうとミットを差し出したら、それをすり抜けてしまった、ということでしょう』

『大変なピンチになりました。点差は2点ありますから、1点はしかたないということで攻めていくほうがいいんでしょうね』

『外野フライで1点失っても、ツーアウトランナーなしになりますから、悪くはないでしょう』

『打席の直人君、サンディをじっと見据えています。サンディ、ゆっくりと投げた、ストライク!これでカウントが1エンド1』

『さっきのパスボールで、カーブは投げにくくなりましたね』

『すると、ストレート狙いでいいわけですね』

『ええ』

『サンディ、3球目をゆっくりとしたフォームから投げた、速球、打ったぁ!打球は左中間へ!センター、レフト追って、その上を越えた!左中間を深々と破った長打コース!ランナーは悠々ホームイン!打った直人君、1塁を回って2塁へボールは返ってこない、直人君、あぁっと、自重して2塁へ戻りました。どうでしょう、3塁へは行けませんでしたか?』

『センターの小林君は強肩ですから、そのあたりを考えての走塁だと思いますね』

『さすが、緑川家の天才!まだまだチャンスが続きます。続いてバッターは五十嵐君。先ほどは凡退に終わりましたが、ここは意地を見せたいところ。どうでしょう、五十嵐君は打てるでしょうか』

『サンディはセットからのボールに力がないようですね。よくボールを選べば、充分打てると思います』

『黄色い声援も飛んでおります。日曜だというのに、応援のためだけに登校している女生徒も少なくありません。人気者4番打者、五十嵐君に、サンディ、投げた!ストライク!全然、力が落ちているように見えませんが』

『いえ、やっぱり、落ちてます』

『素人のあたくしにはわかりませんが、第2球投げた、ボール。低めに外れました』

『外したんでしょうね』

『そうですか』

『少しボール球を増やして、攪乱させる配球にしたのでしょう』

『なるほど。池田君が相当警戒しているということですね』

『たぶん、サンディの球威が落ちているのを警戒しているんだと思います』

『なるほど。第3球、投げた、ファール!高めのボールを振って、ファール。打球が放送席のほうに飛んできて、びっくりしました。

 ファールで、カウントが1エンド2。サンディに有利になりました。サンディ、すばやいフォームで投げた、打ったぁ!打球はセカンドの頭上を越えて、転々と、センターの小林君回り込んで、捕った。ランナーは今ホームイン、同点!五十嵐君は2塁へ、と、止まりました。ボールが送球されて、五十嵐君、1塁にストップです』

『うまく合わせましたね。アウトコース低めの速球を上から叩いて、セカンドオーバーのクリーンヒットです。非凡な才能がありますね』

『直樹さんが卒業して小粒になったと言われますが、五十嵐君は4番の重責を充分に果たしていると言えますでしょうか?』

『えぇ、問題ないですね。かえって直樹君がいなくなったことで、つなぐ野球ができるようになったんじゃないでしょうか』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る