第29話 野球小僧-29
「ね、それ本当?」山本
「うん、本当」室
「じゃあ、オレが活躍したら、大絶叫でお願いしますよ」山本
「名前は?」室
「オレ、山本和彦」
「ピッチャー江川、ツースリーから、…投げました、三振!山本君、大きな空振りで三振です!」室
「なんでだよ!」山本
「あたくし、秘かに江川君のファンなのです」室
「なんだよ、そんな実況ありかよ。日テレの巨人の放送じゃねえんだから、公平に頼みますよ」山本
「まぁまぁ、どうせ素人の実況だから、多少のひいきは大目に見てよ。A放送のアナウンサーたいなもんよ」室
「なんだ、そりゃ」山本
「打ったぁ、大きい!センターバック、センターバック、はいるかっ?はいれぇ!はいった、ホ~ムラン!、なんてね」室
「『はいれ!』はねえだろぉ」山本
「でも、そういう実況するアナウンサーもいるってことで、あたくしのような素人では、感情を抑えることなんてできないわ」室
「リョウさん、こいつ、バカ?」山本
「ちょっと」
「うるさい、そんなこと言うとボロカス言うぞ。大体、あんたでしょ、挑戦状なんて厄介なことしたのは」室
「オレ、知らない」山本
「山本とかいうバカのせいだって聞いてるのよ」室
「さーあ、飯も食ったし、軽く散歩でもしてくるか」山本
「あいつ、ホントに面倒なタイプね」室
「だれのことやら…」
「なんか言った?」室
「んん、別に。でも、大変だね放送部も総出で」
「まぁ、新聞部が助けてくれるし。新聞部の方が大変かもしれないわ」室
「ふーん、そう」
「それとね、ミホちゃんも見にくるってよ」室
「ふーん、そう」
「なんだ、うれしくないの?」室
「それどころじゃないよ。試合が…」
「ミホちゃんの前で恥かきたくないってか」室
「そんなこと……。それより、ボクがエラーしたら、無茶苦茶実況するつもりだろう」
「大丈夫、あたくしと亮君の仲じゃないの、アイスクリームでも奢ってくれるっていうんなら、抑えておいてあげるよ」室
「収賄の取引はしないよ」
「じゃあ、覚悟はいいな」室
「脅迫するの」
「そんな、脅迫なんて恐ろしい。あたくしは、亮君の試合に臨む覚悟を訊いただけなのに……」室
「泣きまねまでするの」
「まぁ、気にしない気にしない。頑張ってね。そいじゃ、あたくしは打ち合わせがあるから、これで」室
「はいはい」
「亮君」室
「なに?」
「ふぁいと!」室
親指を立ててウインクして見せた室に、亮はドキッとさせられてしまった。室は手を振って校舎の方へ走って行った。
「ふぁいと」
亮は一言呟いて残った弁当をたいらげた。
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