第17話 野球小僧-17

 始業のベルが鳴って、慌ただしく亮は教室に入って来た。

「間に合ったぁ」

ほっと一息つくと、ほどなく赤松先生が教室に入って来た。亮に話し掛けようとした室はそれに気づいて慌てて席に着いた。

「お昼休みにしよう」とサンディに合図した。サンディは小さく頷いた。

 亮は昼休みになってようやく起きた。今日の時間割では恐い先生がいなかったので、注意はされたが、ほとんど眠ったままだった。

「亮、パン買いに行こうぜ」

「うん」

新田と一緒に出ていこうとした亮を室が呼び止めた。

「亮君、ちょっと話があるんだけど」

「なに?」

「あとにしろよ。パンがなくなっちまうよ」

「でも」

「室ちゃん、あとでね。新田、怒ると恐いから」

亮はそう言いながら新田を追って教室を出た。室はサンディと顔を見合せ、しかたないね、と合図した。

 廊下に出た亮は、後ろから呼び止められた。

「亮君」

振り返ってみると、そこに津田がいた。

「あ、なに、ミホちゃん」

「あのね」と言いながら津田は紙袋を差し出した。

「お節介かな、と思ったんだけど、これ練習に使ってみて」

「なに、これ?」

少しどぎまぎしながら亮は受け取った。中には、色鮮やかなゴムボール、いわゆるスーパーボールの大きなのが3個入っていた。

「弟が持ってたのを取り上げたの。これだったら、壁に投げても跳ね返ったとき、スピードが落ちないから、ちょっとは練習になるかなって思って」

「ありがとう。でも…、これ重いよ」

「まともに当たると痛いかなって思ったけど、そのへんは手加減して、ね」

「ありがとう」

亮は照れながら津田に礼を言った。それから、慌てて、

「あ、ボク、パン買いに行くとこだったんだ。またね」と言って、紙袋を持ったまま駆け出した。


 後に残った津田はくるっと身を翻して自分の教室に戻った。密かに見ていた室とサンディに気づかずに。

「…サンディ、ライバルじゃ」

「ワタシ、負けません」

 ふと、室は、どちらを味方すればいいのか迷いが生じた。

「あたくしは、どうすればいいんじゃ?」

きょとんとした顔で見ているサンディに気づかず、室はひとり悩んだ。

「ミホちゃんもサンディも友達で、どっちも亮君に気があって……、あたくしは、サンディに肩入れしていいのか…」

 すっくと背を伸ばすと室はサンディに言った。

「ゴメン、サンディ。特訓の話はなかったことに」

「ハイ?なんデスカ?」

「まぁ、あたくしにも、しがらみというものがあって……。ゴメン」

 室は逃げるようにサンディから離れた。サンディは何があったのかわからずに、ぼんやりと立っていた。


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