僕の初恋 お弁当物語
@gamacchi
昼休みに現れる女子
俺の名前は中川悠斗、特にスポーツが得意なわけでもなく、頭がいいわけでもない中学2年生。
顔がいいだけの男である。
この"顔がいい"は別に自惚れているわけではない。
告白される理由がみんなそうなのだ。
俺自身は自分の顔には興味がない。
顔なんてものは両親からもらったもので、自分が努力して出来たものでないのだ。
俺は、自分の努力を認めてくれた子と付き合いたい。
だから"顔"で惚れた子はどんなに可愛くても振ることにしている。
実際、今まで告白してきた女子の中には結構可愛い子も数人いた。
多分自分は振られないと自信タップリに告白してきたみたいだが、俺は、あっさり振ったのである。
プライドを傷つけただろうなと思いながら。
アニメや映画の学園物でよくあるシチュエーションに、校舎の屋上で雑談したり、告白したり、中庭で昼飯食ったりってよくあるんだけど、実際そんなことが出来る学校が全国に何校あるんだろうか?
実際には、屋上は施錠されていて立ち入り禁止になってるし、外で食べることを許可してる学校なんて聞いたことがない。
ましてや、体育館の倉庫でこそこそ昼食なんて食べれるはずがない。
昼食は"教室"で食べるのが常識だろう。
アニメや映画を全て否定するわけではないが現実にはありえないシチュエーションを、さも当たり前のように作り出しているのがアニメや映画なんだろう。
まぁそんなこと言ってたら、魔法使いや女戦士、幽霊に異世界なんて、更にあり得ない話なんだけど………
ところで、他のクラスの人間が、毎日別のクラスに行って昼食を食べるってのはどうなんだろう?
これくらいなら結構、現実的にあり得ることなんだろうか?
というのも、中学2年生の二学期に入った頃から、別のクラスの女子が、わざわざ俺のクラスに来て弁当を食べるようになってる。
クラスメイトの女子と、わいわいお喋りしながら楽しく食べてるみたいだ。
気になったので、一緒に食べてる女子、加藤沙也加に聞いてみた。
「最近いつもご飯食べに来てる子、あの子はクラスでイジメられてるのか?」
「何でそう思ったの?」
「普通、自分のクラスで食べるだろ?しかも週一とかじゃなくて毎日だもんな~」
「可愛いから気になるんでしょ~」
意地悪そうな顔をしながら言ってきた。
「見てないよ。見てるわけじゃないから可愛いかどうかは知らない」
やけにあっさり言われたので、少し残念そうだった。
「そうなんだ~、中川くんて視力悪いの?」
「いや、普通に1.5とかあるよ」
「そっか~まだ顔は分かんないんだね」
「でも、無関心ってわけじゃないなら、無駄じゃないってことだよね」
「え?何が?」
「あっ、こっちの話」
「イジメられて逃げてきてるって感じには見えないし、まぁ他のクラスで食べたらダメって校則もないだろうから別にいいんだけど、ちょっと気になった」そう言いながら自分の席に戻った。
次の日の朝、今度は加藤が声をかけてきた。
「中川くんて、いつもパン食べてるじゃん?育ち盛りの時期にいつもパンだと良くないって思うんだよね」
「うちは親が離婚してて父親だけだからな~、料理はするんだけど、朝は弱いんだよ」
俺がそう言うと、少し考えてるみたいな素振りをしたあと、思い切ったようにこう言った。
「だったらさ、私が中川くんの分もお弁当作って来るから、300円で売ってあげる。それなら気を使わないでしょ?」
確かに、300円なら高過ぎず、安すぎず、いい値段設定だとは思ったけど……
「遠慮しとく。だって、付き合ってる訳じゃないし、何か弱味って言うか、言いたいこと言えなくなりそうだし~」
「大丈夫だよ、わ、た、し、は好きにならないから。それに、ただで作ってくるわけじゃないし、言いたいことは言えばいいよ。お弁当は関係なくね」
わ、た、し、は?また誰か俺のこと好きなのか?なんて思ってると、
畳みかけるように、
「学校で渡したりしたら中川くん、みんなにからかわれて嫌だろうから、登校中に渡すようにするね。丁度同じ道通るし……どう、それなら大丈夫でしょ?」
確かに学校の外で受け渡しすればからかわれたりしなくてすみそうだと思った。
それに、確かに育ち盛りの昼食が毎日パンってのもどうかと思うし。
しかし、何で彼氏でもないクラスメイトにそんなことができるのか不思議だったので、
「何で好きでもない男子にそこまで出来るの?」って聞いてみた。
すると、
「架け橋になりたいだけかな?応援したいって言うか、お節介って言うか、、、、、まぁいいじゃない」
って、何言ってんだろ?みたいなことを言ってた。
「わかった、じゃあ頼もうかな?お金は?毎日渡す方がいい?一ヶ月毎?」
「月毎でいいよ。回数数えて、掛ける300円ね」
「お弁当箱は二つ用意しといてくれるかな?空箱は洗って次の日に交換するから。はいお弁当箱代」
俺はそう言って、他のクラスメイトから見えないように、千円を渡した。
「大きさはこだわらないから」
「なる程、ちゃんと考えるじゃん」加藤は笑った。
「そう言うことで、じゃあよろしく」
「うん」
その日も例の女子がやって来て、いつものように、はしゃぎながらお弁当を食べていた。
次の日から早速お弁当を作ってくれた。ちゃんと布の袋も買ってくれてて、母親がいない俺は、加藤は絶対いいお母さんになるんだろうなって思った。
受け渡しは通学路から少し離れた公園。
話をしてると誰かに見られかも知れないから、ほんと、受け渡して終わり。
いつもパンを食べてたのに、ここ最近、毎日お弁当を食べてる僕を見て、「彼女出来たのか?」とか「お父さん再婚したの?」なんて聞いてくるクラスメイトもいたけど、
「もともと料理は好きだし、朝、早起きして作ってるんだ」
って、上手く誤魔化した。
お弁当を食べながら、俺はますます加藤さんがいいお母さんになるんだろうなって思ってた。
何を食べても凄く美味しいし、盛り付けも、彩りを考えて盛り付けてあって食欲が湧く見栄えになってる。中学2年生なのになかなかやるな~って、感心してた。
離れた席では加藤と例の女子がいつものようにお弁当食べてた。
そんなことが2月まで続いて、明日から短縮授業で昼までってなった日、いつものように公園でお弁当を貰ってた時に話があると言い出した。
何か凄く真剣な眼差しで……これは絶対告白してくるなって思った。加藤さんのことは決して嫌いじゃない。むしろ他の女子と比べたら好印象は持っている。だけど付き合うって、俺の中ではまだまだ未知の世界なんだよなぁ~
なんて、勝手に考えてたら、
「私と一緒にお弁当食べてる子いるでしょ!名前を西山由紀って言うんだけど……」
え?告白じゃないのか?拍子抜けしてしまった。
「え?その子がどうかしたの?」
「由紀ちゃんが、中川くんのこと好きだって言ってるの。付き合わない?」
「え?」
こいつはいきなり何を言ってるんだ?
「由紀ちゃんが毎日うちのクラスに来てたのは中川くん目当てだったんだよ。由紀ちゃんは凄くいい子だから真剣に考えてあげてほしんだ」
「ムリムリ、誰が相手でも、女の子と付き合うなんて考えたことないし、付き合い方も全く分かんないし、顔もまともに知らないし、性格だって知らないし、趣味も知らないし……」
おどおどしながら捲し立てた。
俺は嘘をつくのが苦手だ。いい人ではなく、嘘がすぐにバレるのだ。だから正直に話した。
すると今度は、加藤が正直に話すね。って前置きしてから、
「実はね、お弁当作ってるの、私じゃないんだ。由紀ちゃんなんだよ」
え?なんだって?
「明日から短縮授業で昼までだから今日が最後になっちゃうでしょ?3年生になったら私と中川くんが同じクラスになれる可能性は極めて低いし、それは由紀ちゃんだって同じだし。うちの学校、クラスの数が多すぎるのよね。何で少子化で10クラスもあるのよ。訳わかんない」
続けて、
「そうなったら由紀ちゃんが中川くんのクラスに行くの凄く不自然でしょ?だったらいっそ告白しようってことになった訳だよ」
そう言われて、少し考えてから、
「そうなんだ。思いつきで悪いんだけどさ、別にお弁当は今までみたいに作ってもらっていいかな。今すぐ付き合うとかは無理だけど、お弁当、美味しいし、正直あと一年食べたい。」
加藤は嬉しそうに、
「いいの?じゃあ私が今までみたいに渡し役になってていいのかな?」
心配そうに聞いて来たので、
「もちろんいいよ。まぁ、その西山由紀って子が僕に興味がなくなるまでってことでもいいし」
俺がそう言うと、
「中川くんってさ、相手を傷つけない振り方を心得てるよね。流石モテ男くんだ」
茶化してきたので、
「俺はそんなにモテないよ。顔も性格も成績も特にいいわけじゃないし」
「私が知ってるだけで5人には告白されてるよね?それって十分モテてるよ」
私、知ってるんだからね。って勝ち誇った顔で言ってきた。
まぁ、正確には10人近いんじゃないかな?
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