第7話
夏休みも終わりに近づき、気温も少しずつ下がり始めた。
それでもまだまだ暑いのだけれど。
今日は俺の部屋で、由紀と勉強している。
最近では、由紀の分からないところが分かることが増えてきた。
「由紀、最近調子わるいよね」
おれが言うと、
「え?勉強の話だよね?尚哉くん、自分の学力が上がってるの気づいてないんだ。私は別に調子悪くないんだよ」
「え?そうなの?」
俺が言うと、
「2学期最初の実力テストで分かるよ」
と、言いながら、
「まぁ、私が安全圏だって言われてるんだから、これで二人一緒の高校いけるよね」
由紀が、にこにこしないから言った。
「少し、休憩しようよ」
俺が言うと、
「そだね、私そこのスーパー言ってくるね。ちょっと欲しいものがあるんだ」
と言って、出て行った。
何を買ってくるのかな?と思ったら、買ってきたのは、2つ入りのイチゴショートとティラミス2つだった。
今日は母さんが仕事だからおやつがなかったんだった。
「なるほどね。ありがとう」
「どういたしまして」
由紀が笑った。
やっぱり、由紀の笑顔は最高だな~なんて考えてると、
「何考えてるの?」
って聞いてきた。
「美人は三日で飽きるなんて絶対嘘だよな。飽きるんなら、それは本当の美人じゃないんだよ。俺、由紀の顔、飽きるなんて絶対ないもん」
って言うと、
「よ、よく、恥ずかし気もなくそんなこと言えるよね」
なんて言いながら、顔を真っ赤にしてる。
ほんと、最高に可愛い。
「あっ、最後の日曜日さ、遊園地行かない?デートの定番なのに、まだ行ったことないもんな-」
「いいね~、でも尚哉くん、遊園地嫌いじゃなかったっけ?」
「正直、ジェットコースターが苦手なんだよ。回転したり、急降下したりがなんか怖くて」
由紀が笑いながら、
「そんなに筋肉質でイケメンで男らしいのに、ジェットコースター苦手なのは笑えるよね」
「言うんじゃなかった」
そう言って、ティラミスを一気に食べた。
「由紀は、ジェットコースター大丈夫なの?」
聞くと、
「全然平気だよ、遊園地の乗り物なら苦手は多分ないと思う」
「お化け屋敷も大丈夫なの?」
「お化け屋敷はちょっと苦手かな。でも、あれって乗り物じゃないよね?」
どうよ、みたいな顔してる。
笑いながら、
「確かに、乗り物じゃないよね」
言いながら俺も笑った。
8月29日
夏休み最後の日曜日、今日は遊園地デートだ。
10時に駅の噴水のところで待ち合わせした。
以前田村に、
「あんな目立つところやめた方がいい」
って言われたけど、今は"西山由紀は俺の彼女だ"とアピールしたいくらいなので、あえて駅の噴水を待ち合わせにした。
5分前に着いたんだけど、由紀の方が早かったみたいだ。
「負けた」
と、つぶやくと、
「なに?待ち合わせに負けたとかないじゃない」
って、笑ってた。
「今日はやっぱりGパンなんだ」
つい、じろじろ見てしまった。
「あんまりじろじろ見られると、恥ずかしいよ~」
って、照れてる。
つい、見とれちゃった
毎回口に出すのもな~と思ったので口には出さなかったが、ほんと、何を着ても似合ってる。完璧だ。
「行こうか」
言って、駅に向かって歩き出した。
遊園地に着くと、隣接している動物園に先に入った。
それほど大きな動物園ではないが、像やキリン、シマウマなんかもいる。
どうやら、大型の肉食獣はいないようだ。
ペンギン、アザラシもいて、ちょっとしたショーを見せてくれた。
ショーが終わったあと、動物園を後にして、遊園地に入った。
お昼を回った頃だったので、先に食事を済ませようって話になって、遊園地の中にある洋風レストランに入った。
俺はカツカレー、由紀はハンバーグに目玉焼きが乗ってるのを注文した。
それらを口に運びながら何から乗ろうかと相談した。
遊園地の中には犬や猫、ウサギなんかと触れ合える場所があって、30分ほど、犬や猫と遊んでから、最初は軽く、小学生向きに作ったっぽいジェットコースターに乗った。
由紀は俺が怖がらないことが少し不満だったようで、
「期待してたのにな~」
と拗ねた真似をした。
いくら俺でも、流石に小学生向けの乗り物では怖がらない。
今度は室内に入り、動くベンチシートに座って3Dの大画面の中をジェットコースターのように進んでいく。
途中、サメに襲われるたり、嵐に巻き込まれたりと、息を吐かせぬアクションが続く。
終わると由紀が、
「楽しかったけど、やっぱり本物には負けるわね」
と、俺の顔をチラッと見た。
「分かったよ、俺の怖がる顔が見たいんだろ?」
って言いながら、由紀の腰をコチョコチョするフリをした。
「キャー」
と言って、由紀が逃げる。
ジェットコースターはやっぱり人気があるらしく、大勢並んでいる。
これはラッキーかも知れない。
何故なら先頭になる可能性が低くなるからだ。
……しかし、神は由紀に味方した。
なんと、俺たちの前のカップルが最後尾だったのだ。
つまり、俺たちが先頭。
最悪だ~
「やった~」
由紀は大喜びだ。
このジェットコースターは、上にレールがあるもので、俺が一番乗りたくないタイプのものだ。
それでも、由紀に楽しんでもらおうと、選んだのだが、やっぱり怖い。
遠心力でレールが外れやしないかと、心配でならない。
乗り込む時に、係の人に、
「レールから外れたりしないですよね」
って思わず聞いてしまった。
由紀が、
「やだ、尚哉くん、恥ずかしいこと聞かないでよ~」
と、俺の腰を軽くつねった。
出発進行~
最初は定番で長い登りになっている、ある意味、ここが一番ハラハラドキドキなのだ。
ガタガタガタガタ、機械音が恐怖心を駆り立てる。
頂上に達したらそのまま、
ゴーーーッという音と共に急降下。
右へ左へ、上へ下へ、さらには大きな円をえがきながら一回転、また、右へ左へ、最後に大きな山を越えて、スタート地点へ戻った。
流石に目を瞑るのは男として恥ずかしかったから、頑張って開けてはいたけど、半分放心状態だった。
「大丈夫?俺、生きてる?」
「生きてる、生きてる」
由紀はクスクス笑った。
そのあと、ゴーカートやらボートやら、一通りの乗り物にのったあと、
最後に、観覧車に乗った。
一回転25分と書いてあったから、
見た目以上に大きな観覧車なのだろう。
遊園地自体が高台にあるせいもあって、
俺たちの住んでる街まで一望できる。
頂上付近になると、かなり遠くではあるが、富士山が見える。
「あれ、富士山だよね。見えるんだー」
って喜んでた。
観覧車を降りて、売店に入り、親や、二宮、戸川、古角へのお土産を買って、遊園地をあとにした。
デートで遠出した時は、間違いなく、由紀のお母さんが駅まで迎えにくる。
まだ時間は6時過ぎだが、このくらいの時間になると、たむろしている若者もいるし、暴走族なんてのもいる。
背が高くて、筋肉質でも、殴り合いの喧嘩というものはしたことがない。
お母さんもそれが分かっているから、人の減った、危なくなる時間は心配になるのだろう。
俺も家まで送ってもらって、
「ありがとうございます」
お礼を言ってから由紀とお母さんは帰って行った。
続く
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