第5話

 6月初めにはポツポツと聞こえていた蝉の鳴き声も、今では至る所で聞こえてくる。

 また、暑い夏がやってきた。

 

 俺は泳ぐのは得意ではない。

 だから水泳の授業も当然嫌いなのだ。"かなづち"ってわけでもないのだが、早く泳ぐコツが全く掴めず、いつまで経っても、25メートル泳ぐのがやっとだ。

 そう、ただでさえ泳ぐのが嫌いなのに今年はもっと嫌いになりそうだ。

 簡単な話だ、由紀のスク水姿を、他の男子に見られたくないのだ。

 休み時間、そんな話を由紀にしたら、

「ありがとう尚哉くん。そう思ってくれて嬉しいよ。でも、授業サボるわけにもいかないし……」

 確かに、授業をサボるわけにはいかない。 

 俺は由紀にお願いした。

「お金は俺が出すから出来れば黒系のスポブラを買って欲しんだ」

 由紀はキョトンとしてる。

「尚哉くんは黒が好きなの?」

「違う、違う。水着の下につけるの」

「え?なんで?」

 え?ほんとに分かってないんだ?

 女の子って結構無頓着なんだな~と思った。

 スケベ心がないことを前置きして、説明した。

「つまり、スク水って、生地が厚いようで薄いんだよ。だから真ん中が透けて見えたり、カタチが浮き出たりするわけ」

 俺は自分の乳首の部分を押さえながら言った。

「男子には見えて女子には見えないっていうなら話は別だけど、男子に見えるものは女子にも見えるはずなのに、どうして隠す努力をしないのかなって、どうして女の子同士で指摘しないのかなって、俺にはそれが不思議でならない」

 そこまでいうと由紀が、

「要するに……私のそういう姿を他の男子には見られたくない…‥ってことだよね」

 由紀が続ける、

「でもさ、私はそれで大丈夫だけど、尚哉くんは他の女子の胸見てるんじゃないの?」

 悪戯っぽく、

「俺はそんなスケベじゃないよ。プールの時は女子は見ないようにしてるし」

「わかってるよ。じゃあ、明日買い物付き合ってね。他にも私服買いたいし、尚哉くんに選んで欲しいんだ」

「じゃあ、俺も服買おうかな」


 翌日、俺は由紀と買い物に行った。

 帰りに由紀の家に寄って、昼ごはんを食べて帰ることになってる。

 由紀を迎えに行って、駅までの20分をゆっくり歩いた。

 二つ隣の駅の近くにあるショッピングモールに行くんだけど、今日は歩いて行きたいからと駅まで送ると行ったお母さんをお断りしたのだ。

 しょんぼりしてたお母さんを見て、

「じゃあ、帰りは迎えにきてもらおうかな。荷物も増えるし」

 由紀が言うと、

「わかった。じゃあ帰る時、LINEしてね」

 と、凄く喜んでた。

「親子よね。お母さん尚哉くんのこと凄く気にいっちゃってるのよね」

 明るく、笑った。


 駅まで半分くらい歩いたところで、由紀が言った。

「悠斗くんって、いつも左を歩くよね」

「左の方が危ないからね」

「左が危ないか~確かにそうなるよね」

 俺の右腕に自分の左手を絡めながら、

「ありがとう」

 と、つぶやいた。


 モールに着くと、とりあえず黒のスポブラを買った。

 由紀はGパンなどのズボン系はあまり履かないようだ。

 ほとんど見たことがない。

 けれど、この日は、Gパンを買った。

 それは夏休みに仲良し5人組で遊園地に行く予定があるからだ。

 Gパンを買ったあとは、ここからが本番と言わんばかりに、いろんな夏服を、目を輝かせながら見ていた。

 気に入ったものは俺に見せてきて、

 俺も気に入れば試着する。

 結局、Gパン以外に5着は買ったんじゃないだろうか?

 由紀と違って、俺の買い物は早かった。少し生地の厚めのTシャツ二枚と襟付きのシャツ一枚だった。


 買い物が終わると、モール内にある喫茶店でコーヒーを飲んで、テストや夏休みの話をした。

「来週から期末テストだね、由紀は大丈夫そう?」

「私はぼちぼちかな~、最近少し悩みがあって、尚哉くんは凄く頑張ってるからまた成績、上がりそうだよね」

 悩み?

「由紀が悩んでるなら、俺……なんとかしてあげたい」

「あっ、大丈夫だよ。それに人に相談することでもないし」

「わかった。無理に聞かないけど、悩みが大きくなるなら、ちゃんと話してね」

 女の子には女の子の悩みがあるのだろう。

 あまり詮索しない方がいい。

「あっ、夏休みにさ、今度は両方の家族みんなで、クルーズ船乗らない?勿論夜に」

 俺が言うと、

「あっ、それいいね。私、尚哉くんのお父さんまだ見たことないし、私のお父さんも知らないよね」

 そう、まだ由紀のお父さんと会ったことがないのだ。

「うん、だからさ、両家族の顔合わせってわけでもないけど、由紀のお父さんとも話しがしたいし、うちの父さんにも由紀を紹介したいんだ」

 由紀は頷いて、

「分かった、みんなで行けたらいいよね」

 って微笑んだ。

 

 駅に着くとお母さんが既に来ていて、

 由紀の家に寄って、昼ごはんをご馳走になった。

 俺がグラタンを好きなのを聞いたのだろう、今日のお昼はシーフードグラタンのようだった。

 で、食べ終わったあと、クルーズ船の話をすると、

「じゃあ、行ける日をお互い出し合って、合う日に行くことにしましょうか」

 話も終わり、俺は由紀の家を後にした。

 

 期末テストが始まった。

 3年生になるまでは難しいと思っていた数学も、今ではそれほど難しいと思わなくなった。

 物理や国語も5人で勉強したおかげで、分からない問題も殆どなく、かなり期待できる結果になった。

 そんな話を由紀にすると、

「私は少し心配、数学と英語がね~」

 と、頭を抱えた。

 悩みごとがあると言ってたのが気にはなったが、本人が言いたくない事を無理に聞く気もなかったので、あえて聞かなかった。

 テストが返ってきて俺の成績は凄く上がっていた。

 由紀は、中間より少し落としたが、そられでも、平均85点はキープしていた。


 夏休みに入った。

 それまで少し落ち込み気味だった由紀も元気を取り戻して、明るく振る舞っている。

 

 宿題は7月中にみんな終わらせて、8月に入ってから週二回は5人で集まって勉強会をしている。

 まぁ、勿論、由紀と俺は毎日あってるんだけどね。

 

 クルーズ船に乗る日はお盆休みということになっている。

 法事とかあったりするので、16日ということになった。


続く

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る