悪人には死を
@gamacchi
第1話
俺の名前は高橋尚哉、17歳の高校2年生である。
スポーツはそこそこ出来るし、頭も悪くはない。
この、悪くはないっていうのが微妙な言い回しなのだが、要するに本気で勉強していないということである。
真剣に勉強すれば確かに一流大学には行ける頭を持っていると自分では思っている。
しかしどうも本気になれない。
何をするにしても本気になれないのである。
一流大学に行って一体何をするんだろうか?一流企業に就職して、高い給料もらって、結婚して幸せな家庭を築いて、子供を育てて一生を終える。
そんなありきたりな幸せがイメージできないのである。
自分で言うのもなんだが、俺は結構女の子にはモテる方である。言い寄ってくる女の子は常にいる。
でも……誰とも付き合う気がしない。
いや女の子と付き合うことに恐怖を感じているのかもしれない。
俺は『彼女』というのは、自分の力で守っていくものだと思っていた。
肉体的にも、精神的にもだ。
守れるものだとも思っていた。
しかし実際には守れなかったのである。
その子のことを理解しているようで理解できていなかったのかもしれない。
もう二度とあんな思いはしたくない。
だから女の子を好きにならないようにしている。
二度と道化師にはなりたくないのだ。
俺には中学2年生の時から付き合っていた彼女がいた。
名前を西山由紀という。
彼女を知ったのは2年生の2学期に入ってからだ。
別のクラスだった彼女が、2学期に入ってから突然うちのクラスで昼ごはんを食べるようになった。
この、他のクラスでご飯を食べると言う行為が珍しいことなのか普通に起こり得ることなのかはよく知らない。
ただ俺の人生においては、初めての出来事だった。
そして、俺がその女子に対して関心を持っていたかというとそうでは無い。
俺の席は窓側だったし、その女子の食べている席はドア側だったから顔もよくわからなかったし、まじまじと見ることもなかった。まぁ前提として俺が女子に興味がなかったというのが一番の理由ではある。
しかしこの女子は毎日くるのである。飽きもせずに毎日よく来るんだなぁと感心をしていた。
ところがこの女子とお弁当を食べていたクラスの女子田村由乃が突然俺のところに来てこう言ったのである。
「高橋くん、いつも私とお弁当食べている女の子わかる?」
何の話をしてるんだこいつは?と思いながらも
「他のクラスの女子がお前と弁当食べてるのは知ってるけど」
「その子がね、高橋君のことが好きなんだって。付き合って欲しいって言ってるの」
これで何人目だろうか?8人、いや9人目だ。俺のこと、よく知りもしないで好きだとか、付き合いたいとか、よく言えるんだなと感心してしまう。
そりゃ~、俺も男だから女の子から好きと言われれば嬉しくないわけではない。
でも、その子の顔も知らないのである。顔がわからないと言う事は要するに性格も分からないと言うことである。
オッケーなんてできるわけがないじゃないか?
俺はそんなに軽薄な男ではない。
田村にしてもその女の子から俺と話したことがあるのかどうかぐらいは聞いているだろうに。
「無理だよ、だって顔もよく見てないし性格もなんもわからないんだよ。それにさぁ、まだ中学2年生だし付き合うとか考えてないし…」
田村は少し考えているそぶりを見せながら、
「そっかあぁ、やっぱりそうだよね~。なんかさ、凄い好きになっちゃってるみたいで。何とかしてあげたいなって思ったんだけど……
「嫌いとか好きとか以前の問題だよね。知らないんだし…」
俺がそう言うと田村はうなずいてから、
「わかった、じゃあちゃんと伝えとくねごめんね急にこんな話して。でも、由紀ちゃん知ってたら絶対断らないってくらい、いい子だよ」
「まぁ、知らないから仕方ないよな。俺の方こそごめん、その子が傷つかなければいいけど」
この話はこれで終わりだと俺は思っていたんだ。ところが次の日…
また、田村が話しかけてきた。
「高橋くん、今日はお昼、パン買いに行っちゃダメだよ」
「え?何で?昼飯どうするんだよ」
俺が疑問を投げかけると、
「いいからいいから、絶対に教室から出ちゃだめだよ」
って、結構睨まれた。
「わかった、わかった。でも、5分だけ待って何もなければ買いに行くからな
」
俺がそう言うと、
「わかったわ、5分あれば十分よ」
って、にっこり笑った。
午前の授業も終わり、さあ5分の間に何があるんだろうと思ってると、田村が後ろの空いた席から、椅子を俺の机の前に持って来た。
俺は一番前の席だから、俺の机の前に椅子を置いても、誰にも迷惑はかからないのだが…問題はそこではない。なぜ俺の前に椅子を置いたのかである。
そんなことを考えていると教室の扉が開き例の女の子が入ってきた。
しかし、いつもなら田村のところに行くはずなのに今日はそのまままっすぐ俺のほうに向かって来る。
何だ何だ?って思ってると、そのまま田村が用意した椅子に腰掛けて、真っ赤になった顔をあげて、
「に、に、にしやま、ゆ、ゆ、ゆきです。き、き、今日は、た、た、高橋くんと、い、い、一緒に、ご、ご飯食べようと、お、お、思って、お、お、お弁当つ、つ、作っててきたの」
めちゃくちゃ吃りながら、それでも一生懸命な彼女見てたら、凄い好感がもてた。
しかも、彼女はとびっきりの美少女だったのである。
俺の思う『可愛い』や『美少女』『美人』のレベルは決して低くはない。
アイドルで例えるなら、他のみんなが可愛いと言っても、俺から見れば大したことないって、しょっちゅうあるんだけど、その逆は全くない。
つまり俺が美少女だと思った子は誰から見ても美少女なのである。
ちらっと後ろを向くと、数人の男子が羨ましそうにこっちを見てる。
なんでまた、こんな美少女が人気者でもないこんな男子に惚れたのか?全くもって謎である。
差し出されたお弁当は西山さんのよりひとまわり大きくて、育ち盛りの男子の食欲をちゃんと分かってるなって感心した。
「ありがとう、で、でもさ、ただで貰うの気が引けるから、500円で買うね」
「え?ダ、ダ、ダメだよ、わ、わ、私がか、か、勝手につ、作ってきただ、だ、だけだし」
「タダだとこっちが気を使っちゃうからさ」
「じ、じ、じゃぁ200円も、も、らっとくね」
って言いながら、財布から300円取り出して俺に渡してきた。
お弁当をもらって、フタを開けたら、そこにはビックリするくらい鮮やかな彩りのお弁当が現れた。
「これ、全部西山さんが作ったの?」
「お、お、母さんにも、す、す、少して、手伝っても、もらったけど」
「正直だね」って俺は笑った。
「じゃあ、いただきます」って手を合わせたら、西山さんも手を合わせて、
「い、いただきます」ってしてた。
「西山さんはどれを作ったの?」
「わ、私は、だ、だし巻き卵と、か、唐揚げ、あとは、ハンバーグ」
「じゃあ、だし巻き卵から」パクって一気に口に放り込んだ。
うわ~、これはうちの母さんより上手いかも。
「美味しいよ」って言ったら、めちゃ喜んでた。
「ところでさ、俺のどこが気に入ったの?小学校も別だったし、まだ、同じクラスにもなってないし」って聞いてみた。
西山さんは、突然聞かれたので、かなり咽せてるみたいだった。お茶を差し出すと、ゴクリと飲んでから、しばらく俯いて、思い切ったように話し始めた。
「小学生5年生の時、高橋くんに助けられたの」
え?助けた?記憶にないぞ~
「わ、私と、友達のに、二宮さんがだ、男子に絡まれてる時に」
記憶を辿っていく、え~女の子を助けた~? あっ、あれか~
「あっ、二宮さんってあの胸の大きな子?」って言うと、コクリと頷いた。
回想
小学5年生の時、ちょっと離れたコンビニに自転車で買い物に行った時、公園で女子が2、3人くらいの男子に嫌がらせされてたんだ。男子はうちの小学校の生徒だった。女の子は隣の小学生だと思う。
胸の大きな子に、
「触らせて」とか、「揉ませろよ」とか下品な言葉を吐いていた。
そこへ現れたのが俺だった。
「船橋、松井、後藤、お前ら、小学生のうちからそんなこと言ってるようじゃ、ろくな大人になれんよな~」って言ったら、
「高橋、いや、こんなの冗談に決まってるじゃん、本気にするなよ」
なんて言いながら、まあ、相手が俺じゃ3人でも負けるのが目に見えてると悟ったのか、スゴスゴと退散していった。
「ありがとうございます」
2人声を揃えて言ってくれたんだけど、俺はそんな言葉は無視して、着ていたジャンパーをかけてあげて、
「胸が大きくなってきたら、ブラジャーは絶対しないとダメだよ。お母さんが買ってくれないなら俺が話してやるよ。あっ、そのジャンパーは返さなくていいよ。安物だし、結構着てるから」
まぁ、今思えば小学5年生で、よくそんな言葉が出てきたなって思うけど、実際出てきたんだから仕方ないよな。
「あっ、いつもはスポブラしてるんだけど、今日は生地が厚いから大丈夫だと思って……」
「男って、いやらしい奴が多いから気をつけたほうがいいよ。まぁ俺も男だけど」
そう言って、俺は自転車を漕ぎ出した。
回想終わり
「あ~あの時の子だったんだ~」
また、コクリと頷いた。
「か、絡んでた人たちが、た、高橋って呼び捨てにしてたから、た、多分同い年だなと思って、ちゅ、中学になったら一緒の学校だな~って、す、凄く待ち遠しかったし、嬉しかった」
まぁ、好きになるには正当な理由だよな。好きになるのに理由が要るならだけど。
「なるほどね」ぽつりと言った。
ふと、西山さんのお弁当を見ると、まだ食べ始めのままだ、俺はもう半分になってる。
「先に、お弁当食べちゃおうか」
って言うと、
「う、うん」って言いながらお弁当を食べ始めた。
他のみんなはとっくに食べ終わってて、昼休みの半分を過ぎた頃にようやく食べ終わった。
「ごちそうさまでした」手を合わせて言うと、西山さんも、
「ごちそうさまでした」って言った。
俺は、正直言って西山さんに惚れてしまった。当たり前だろ、こんな美少女が、吃りながら一生懸命話してる姿を見て、惚れないなんてはずがない。
今度は、俺が吃りながら、
「あ、あ、あのさ~、、、、また、お弁当作ってくれたりしたら嬉しいかな~って」
「う、うん、毎日でも作るよ」
西山さんは満面の笑みで答えた。
昼休み終了の予鈴がなり、西山さんは教室に戻った。入れ替わるように田村が来て、
「ずいぶん雰囲気良かったよね。付き合うことにしちゃった?」
って聞いてきたので、
「あんなに真っ直ぐな気持ちをぶつけられたら、そりゃ反則だよ。まぁ、まだ付き合うかどうかはメールのやりとりとか、もっと話をしてからだろうけど」
田村にはそう言ったけど、答えはもう出ていた。
実は、昼休みの間にLINE交換してて、その日、帰ってから早速やりとりが始まった。
最初は西山さんから届いた。
今日は一緒に食べてくれてありがとう。
こちらこそ、美味しいお弁当ありがとう
お母さんが良かったねって、喜んでた。
お母さんにもありがとうございますって、お礼言っといてね。
わかった言っとくね。
LINEだとさ、わ、わ、私は、とかにならないんだね(笑)
あっ、ひょっとしてバカにされてる?
大好きな人が目の前にいて、一緒にご飯食べてるんだよ。乙女心を分かって欲しいな~
大好きとか、なんか凄く照れるんだけど
(汗)LINEだと結構大胆になれるタイプだったりする?
え?だって本当のことだもん❤️
文字だと、言いやすいのは確かにあるかなぁ
まぁ、俺も女の子とこうやってLINEするの初めてだけど、文字だと言いたいこと言えそうな気がする。
え?私のこと好きになったとか?
正直、向こうで田村と食べてるはあまり興味がなくて見てなかったんだ。
全然西山さんの顔知らなかったわけだよ。
でさ、いきなり俺の机の前に来て、顔見た時、めちゃくちゃドキドキしたんだ。
それって好きになったってことじゃないの?
わかんないな、女の子に好きとかって感情、持ったことないんだよ。
もう中学2年生だよ。
俺からすれば、まだ中学2年生なんだよな。
恋愛に関しては人それぞれだよね。
高橋くんってLINEは誰にでも気軽に教える方なの?
LINEは正直ほとんど使ってないんだ。
『既読スルー』とか言われるの面倒だしね。
じゃあ、告白とかは?手紙でされてたの?
え?手紙は2人だけかな?あとはみんなSMSだよ。全く知らない子から来た時はちょっと恐怖を感じるけど
高橋くんって、スマホ、いつから持ってるの?
中学生になってから、全教科平均点以上を維持できないと没収って条件でね。
へ~そうなんだ。つまり、今の話だと中学生になってから、最低でも4人以上には告られてるってことだよね?ニュアンス的に10人以上でもおかしくない言い方だよね?
しかも、知らない女子からもって、どれだけモテるの?
10人以上って、それはないない。ってか、西山さんの方こそ、絶対モテるよね?
え?私、私はそんなに告白されてないよ。2人かな?
男の子とあまり喋らないんだ。
だって高橋くんのこと、ずっと好きだし。
そう言われると本当照れるな~
あのさ、話は変わるんだけど、明日からお弁当、一緒に食べるのやめにしない?
なんか、みんなの視線が突き刺さるんだよ。
あっ、私も目立つかな?とは思ったよ。
でしょ?敵は作っても味方は出来ないかな~って。
敵とか味方ってあるの?(笑)
ああいうの見て、あいつらイチャイチャしやがって~って奴はいても、微笑ましく見るやつなんて居ないよ(笑)
やっぱり、そうだよね。
私も、あんなこと続けたら、それこそ敵をたくさん作っちゃいそう。
西山さんって、家はどの辺なの?
あっ、助けてくれたコンビニから南に2.3分のところだよ。
じゃあ、登校前にコンビニの裏の公園でお弁当もらおうか?
あっ、お母さんに相談してみる。お母さん、いつも私の味方だから。
しばらく経ってから、西山さんからLINEが届いた。
お母さんがね、7時半に車でコンビニまで行くから、車の中で受け渡しして、時間差で車から出れば、誰も気づかないよって言ってる。
なるほど、さすがは大人だね~
でも、お母さんに迷惑じゃないかな?
逆に喜んでるよ(笑)
ご飯の用意出来たみたいだから食べてくるね。
うん、俺もそろそろご飯の時間だから、
じゃあ、明日、7時半だよね?コンビニで待ってるね。
うん、また明日ね。
文字のやりとりだけで、こんなにドキドキするなんて、女の子を好きになるって、こういう感じなんだと、初めて知った。
翌日
7時半に車が到着、後ろのスライドドアが開いて、西山さんが手招きしてる。
「おはよう御座います」まずはお母さんに出来るだけ元気よく挨拶した。次に西山さんに挨拶。
「おはよう」
「おはよう」
西山さんも、返してくれる。
「はい、これお弁当」
「ありがとう、でも、毎日こんなことしてもらって本当にいいのかな~」
俺がそういうと、お母さんが、
「大丈夫よ、それにほんと、一人分も二人分も変わらないし」と言ってくれた。
「あっ、私先に出るね。高橋くんは5分ごね」
「うん、分かった、じゃあまた」
手を振って、車から降りて行った。
車の中で、西山さんのお母さんと二人っていうのもなんか緊張する。
「高橋くんは由紀のこと、好き?」
いきなり核心をついてきた。
「好き、、、だと思います。でも、同じクラスになったことないし、性格がまだわからないかなって」
すると、
「なるほど、でもさ、性格なんて付き合い出した時に全て分かってるもんでもないよね。付き合いながら分かっていく部分の方が大きいんじゃないかしら。
由紀はね、高橋くんを知るまで、男の子の話なんかしたことなかったの。それが、助けてもらった日から、早く中学生になりたい。毎日高橋くんの顔見たいってそればっかりだったのよ」
お母さんがニコッとして俺をみた。
「本当は、もう付き合うって決めてるんです。でも今言ったら、顔だけで決めたみたいで……いや、実際そうなんだけど……」
「フフ、正直ね。親の私からみても由紀はめちゃくちゃ美少女だと思うわ。早くしないと取られちゃうよ」
「あ、学校、行かないと、です」
「あっ、ごめんね、つい話に夢中になっちゃって」
お母さんはスライドドアのボタンを押して、
「じゃあ、今日にでも言っちゃいなよね」って笑った。
「はい、が、頑張ります」
俺はそう言って、車を降りた。
その日の夕方、俺は西山さんに電話をかけた。
「あのさ、昨日の夜、色々考えたんだ。で、答えがでて……俺と、付き合って欲しい」
俺がそういうと、
「ありがとう、じゃあ、今から、彼氏、彼女だね」
西山さんは、そう言った。
「恋愛って初めてだから、どんなことしたら相手が喜ぶとか怒るとか、全く分かんないから、気になることとか、嫌なところとか、あったらどんどん言ってくれて構わないからね」
「それは、私も同じだよ」
西山さんは優しく返事した。
「早速で悪いんだけど……明後日の日曜日、デートしたいんだけど」
「全然、悪くないよ」
実はもう場所は決めてある。でも、西山さんには、
「まだ、場所は内緒ね。お楽しみってことで」って言った。
「高橋くんとだったら、どこでもいいよ」
「ありがとう、じゃあ俺、ご飯食べるから切るね」
「はい。また、あとでLINEするね」
そう言って、電話を切った。
続く
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます