第114話 逃亡者、定時連絡をする

王国に潜入している篠塚君から念話が届いた。


王城の中への潜入に成功してから数日、大体のクラスメイトの状況を把握したとの報告だ。


その上で王国から逃げたいと思っているクラスメイトに接触して、作戦当日に篠塚君が先導して逃すのだが、接触するのが厳しいらしい。


理由を聞くと、高村の恐怖政治が完全に根付いてしまっており、接触した場合には高村にバレる可能性が高いそうだ。


『高村のやつ殺っとくか?』

篠塚君が物騒なことを言う


『それは最終手段にしよう。篠塚君の手を汚す必要はないよ』


『言っておくが、影宮に恩を感じているから俺はやっているだけだ。当初の作戦をやめて危険を冒してまで救おうとするなら、殺っちまった方が確実だろ?影宮と違って俺は、同郷だからって悪人に情けをかける理由がわからないな』


『情けを掛けているつもりは無いよ。篠塚君はお金を稼ぐために悪いこともやらないといけなかったみたいだけど、誰かを殺したことはある?』


『いや、ないな』


『こんな奴死んでもいいと思ってても、実際に自分の所為で死ぬことになると忘れられなくなるんだよ』


『それは影宮の実体験か?』


『そうだよ。だから本当に殺さないといけないなら、ちゃんと覚悟した方がいいよ。あと、どれだけやっても生きてさえいるなら治すことが出来る。だから迷ったなら殺さないようにだけ気をつけれくれればいい。川霧達が今その状態なんだよ。生かさず、殺さずの状態……結果的に殺すよりも酷いことをしているかもね』


『肝に銘じておく』


『僕が思うに、高村は戦の為に城を離れると思うんだ。だから前もって話をするのは諦めて、城を離れてから一気に行動まで移すしかないんじゃないかな?とりあえずその時に話を聞いてくれる人だけでも助けだそう』


『それをやると、それでも残った奴は更に状況が悪くなるぜ?いいのか?』


『委員長達が手を差し伸べたけど断って今の状況だよね。さらにこれから篠塚君が手を差し伸べるわけだ。それでも断るなら、それは自分で選択した望んだことだよ。見捨てるって言うわけではないけど、更に辛い思いをしても仕方ないよ。1人を助ける為に残りの全てを犠牲にすることは出来ないよ。それから何が起こるか予想が出来ないから先に逃がして欲しいのであって、戦いが終われば王国そのものがなくなっているはずだからね』


『わかった。それでいこう』


『よろしく頼むね。それと伝え忘れてたけど、委員長達とは無事に合流出来たからね。みんな無事だよ』


『そうか、それは吉報だな。影宮のことだから大丈夫だとは思うけど、戦いで躊躇して足元を掬われるなよ』


『ありがとう、気をつけるよ』


困ったけど、出来ることは今のところ無いので、今は王国が動くのを待つしか無い。

王国軍が動いたら篠塚君が教えてくれるはずだからそれまでは我慢だ。


それからしばらくして、王国との戦いまで半月を切った頃、篠塚君から念話が届く。


王国軍が動いたようだ。


クラスメイトも何人も同行しているらしい。

大体は戦いの参加者だろう。


『高村も予想通りそっちに行った。こっちに残ってるのは姫野と一緒でダンジョンに潜るのを拒否してレベルが低いままのやつばかりだ』


『わかった。うまくやってね。でも篠塚君が危なかったら逃げていいからね。自分の命を1番に考えてね』


『任せとけ』


『こっちに向かってるクラスメイトがどっち側か教えてもらえる?王国に自ら従ってるのか、それとも無理矢理従わざるを得ないのか』


『もちろんだ。だが名前を言って誰のことかわかるのか?』


『……メモして委員長に確認することにするよ』


『それがいいだろうな』

篠塚君に名前を言っていってもらう。

篠塚君の心配する通り、半分くらいは名前を聞いても顔が出てこなかった。


『ありがとう。今すぐに動くと王国軍が戻ってしまうかもしれないから、もうしばらくは待機でよろしくね。話をしても問題なさそうな人がいれば先に話をした方がいいけど、確実な人だけで』


『ああ、わかってる。そっちから王国軍が視認できる距離になったら連絡くれ。大人数の行進ではないからそこまで時間は掛からないだろう』


『戦う日の事を考えると10日後くらいかな。見えたら念話するよ』


そろそろか。万全を期したはずだけどやっぱり心配だ。


さらに日が進み、王国軍が帝国領近くまでやってきた。

戦いの場は各領地の間に作ってある。


当日までは少し離れた位置にて待機するようだ。


僕は篠塚君に念話を飛ばす


『王国軍が近くまで来たよ』


『了解した。思ったより早かったな。どうする、もう行動に移すか?一応2人には話をすることが出来て、逃走の際に説得の協力はしてくれる手筈になってる』


『いや、一つ心配なことに気づいてね。篠塚君と僕が話しているみたいに、遠距離で連絡が取れる手段があるかもしれない。そう考えると戦いが始まってしまってからの方がいいかもしれない。それを理由に今回の戦い自体を反故にされるのは困るから』


『考えにくいけど、可能性があるならそうするか。それじゃあそれまでは引き続き待機でいいんだな?』


『うん。それでお願い』


『それと、少しマズい話を聞いたんだ。噂ではあるんだが……』


『何か問題?人手が足りないなら考えるよ』


『こっちは大丈夫だ。杉岡の事だ。勇者なのは知ってるだろ?職業もだけど、スキルもだ』

杉岡が勇者なのは知っている。だけど、あの神が杉岡にそんな良いスキルを与えるとは思えなかった。

だから何か裏があると勝手に思ってたんだけど……


『うん。知ってる。もしかしてやばいチートみたいなスキルだった?』


『逆だ。噂が本当なら欠陥スキルだった。だけど影宮が困ることになる。ステータスが高い代わりに逃走が出来ないらしい』


『え……どういうこと?』


『ダンジョンで魔物に囲まれて逃げるしかない時があったらしい。それでも杉岡は逃げなかったらしい。それだけなら無謀にも勝てると判断したともとれるが、そんな感じでもなかったらしいんだ。だから逃げたくても逃げれなかったんじゃないかって』


『それの何が問題なの?』


『逃げられないってことは、降参も出来ない可能性がある。そうなると勝つ為には殺さないといけなくなる。噂だからな、そもそもの前提が間違ってるかもしれない』


『それは……困ったね』


『前に高村を殺すならちゃんと覚悟をしろって言ってただろ?あまり時間はないが、最悪を考えておいた方がいい』


『そうだね。教えてくれてありがとう。それじゃあ、また当日に』


『ああ』


最悪の場合か……。

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