第110話 逃亡者、和食を食べる

元の部屋に戻ってきて、しばらくすると夕食に呼ばれた。


食堂に行くと、魔王の他にクラスメイトが皆揃っていた。


僕は席に着く前に委員長を呼び、一度食堂を出る。


「僕が地球に帰れる事は言わないで欲しいんだ」


「もう先生に話しちゃったわよ」


「それは先生に聞いたよ。他の人には黙ってて」


「それは構わないけど、理由を教えて欲しいな」


「それは……言いたくない」


「……言いたくないなら無理には聞かないわ」


「ごめん」


「いいわよ。みんな待ってるからご飯食べましょ。その後にみんなで影宮君の部屋に行くわ」


「うん、ありがとう」


僕達は食堂に戻り、席に着く


出てきた料理はまさかの和食だった。


ごはんに味噌汁、それから焼き魚だ。


僕は久しぶりの和食に少しテンションが上がる。

そしてご飯を一口食べてガッカリする。


「これ何?」

すごくパサパサしていて、味はない。少なくても米では無いと思う。


「米もどきよ」

委員長が答えてくれた。

いや、それはわかっている。見た目だけご飯の偽物だ。


僕は味噌汁を一口啜る。


「しょっぱっ!」

めっちゃしょっぱかった。


え、何?罰ゲームかなにか受けてるの?


僕は恐る恐る焼き魚を食べる


あ、これは普通に美味しい。


「影宮君、魚にはそれ掛けて食べるのよ」

委員長は黒い液体が入ったビンを指差す。


普通に考えたら醤油だけど、多分違うと思う。

そう思いながらも僅かな希望にかけて醤油らしきものをかける。トロッとしている。明らかに醤油では無い。


「くっさ」

めっちゃ生臭い。何これ?腐ってない?


隣を見るとミアが食べるのをやめていた。

仕方ない。腹ペコなら食べるけど、そうじゃないなら遠慮したい。


「これ何なの?」


「それは醤油もどきよ」

また委員長が答えた。

そういうことを聞きたいんじゃない。そして、醤油もどきって、似ているのは見た目だけだ。


「正直に言って不味いんだけど……」

僕は正直に言うことにした。


「やっぱりそうだよね」

そう言う委員長は一口も食べていなかった


「今日もダメだったね。下げてくれるかな?」

魔王が言った後、少しして違う料理が出てきた。


パンにスープ、サラダと肉だ。

肉が高そうではあるけど、この世界でよく見る料理が並ぶ。


普通に美味しそうだし、一口食べてやっぱり美味しかった。


「あのさ、さっきの何なの?」

僕はもう一度聞く。


委員長は小山君の方を見る。


「えっと……小山君?」


「あれは日本食です」

小山君が開き直ったかのように答えた。


「違うよ、あれは見た目だけで全然和食じゃないよ。そうじゃなくて何であんな罰ゲームみたいなのを作ってるのさ?」


「ははは、やっぱり罰ゲームなんだよ」

児玉君が笑う。


「本気で作ってるんだよ。でも材料から作れるわけないじゃんか」

小山君が苦虫を噛み潰したような顔で言った


「それにしても不味過ぎるんだよ」

児玉君がさらに言う


「2人とも言い合いはやめてよ。僕が知りたいのは何で小山君が和食を作ってるかってことなんだけど」


「それは……その……」

小山君は言いにくそうだ


「小山が和食が食べたいって言ってて、それを聞いてた魔王様が作るように命じたからだよ。それで毎日厨房に籠って試行錯誤してるんだ」

児玉君が教えてくれた


「異世界の料理って気になるよね?食べてみたいけど、いつまで経っても完成しないんだ」

魔王が呆れたように言った


「小山君って剣聖だよね?他に仕事はないの?」

剣聖を遊ばせて和食を作らせるほど人が余っているのだろうか?


「ここで力があった所で意味なんかないんだよ。誰がこんな所に攻めてくるって言うんだ。攻めてきたとしても魔王様の遊び相手になって終わりだよ」

小山君が悲しそうに言った


確かにそうだ。ここを攻めれるような人は限られてくるだろうし、そんな人をあの魔王が譲るとは思えない。


「また後で聞くよ……」

小山君の愚痴が止まらなそうだったので、後回しにした。


この後、みんなが今まで何をしていたのか聞くつもりだったけど、聞かなくてもなんとなくわかった気がした。


美味しい食事を食べた後、部屋で待っているとみんながやってきた。


「サトナさんがいるけど大丈夫?」

僕は委員長に聞く。


「大丈夫よ。魔王様にはほとんど筒抜けみたいなものだから」


「そうなんだ……。それで大体予想はつくけど、何があったか教えてもらっていい?」


僕は委員長達が今まで何をしていたのか聞く。


王国でのことは姫野さんから聞いて予想していた通りだった。高村の思惑通りに進んでしまい、ほとんど自分達だけで逃げ出すことになったらしい。


城を抜け出した後は予定通り帝国領を目指したけど、そろそろ帝国領に入るって時に魔王が現れて拉致られたようだ。

拉致した理由は面白そうだったからだそうだ。

なんとも残念な理由である。


ただ、その要因というか、きっかけは僕が魔王のラジコンスライムを倒したことによるものなので笑えない。


その後は予想通りだ。せっかくのスキルやステータスは関係なく、魔王のおもちゃになっていたようだ。

そうはいっても、生活はちゃんとしており、魔王城にある書物を読ませてもらったり、話を聞かせてもらったりと情報を集めるには良い環境だったらしい。


帰ろうと思っても帰れない時点で軟禁ではあるのだけれど。


「苦労しているように見えて、実は楽しそうだね」


「全然楽しくなんかないよ。なんで異世界にきてまで和食を作らないといけないんだよ。しかも0から」


「まあまあ」

僕は小山君を落ち着かせる


「それで影宮君は何をしていたの?」

委員長に聞かれるので、僕は今までのことをざっくりと説明する


「なんだよ、それ!お前ばっかり異世界を満喫しやがってズルいぞ!」

小山君が吠える


要点だけを説明していくと遊び歩いているかのように聞こえるのだろうか?


「まあまあ」

小山君をまた落ち着かせてから、王国との戦の話とクラスメイトを救出する話をする。


「篠塚君とは合流してたのね。いつの間にかいなくなってたから、どこに行ったんだろうとは思ってたけど。それで救出の方は篠塚君に任せておけば良いってことね」


「とりあえずはそれで大丈夫だよ。準備が整ったら念話で合図をくれることになってるから」


「戦にはちゃんと混ぜてくれるんだよね?」

小山君は戦いたいようだ


「いや、僕とミアでやるつもりだよ。さっきそう言ったよね?」


「インチキするくらいなら混ぜてくれよ。魔王に鍛えられてはいるから弱くはないよ」

小山君のステータスが高いのはわかってる。

何かしらのイレギュラーがない限りは負けることは無いと思う


「別にいいけど、相手は多分クラスメイトだよ?戦えるの?」


「女子じゃなければ……」


「じゃあダメだよ。負けた時の代償は大きいんだよ。相手が誰でも叩きのめす覚悟がないなら拒否するよ」


「影宮はそれが出来るのかよ?」


「出来るよ。みんなと違ってクラスメイトとの交流は少ないからね。王国側に付いている時点で遠慮はしない。殺しはしないつもりだけどね。そういう意味でも僕とミアが適任なんだよ。躊躇しにくく、手加減する力量差がある」


「……わかった。諦めるよ。そのかわり僕と戦ってよ」

小山君が意味不明なことを言い出した


「え、なんで?」


「魔王様に一撃入れたんだろ?僕達が地上に戻る方法として魔王様から1つ条件を言われてたんだ。それが不意打ちでもいいから魔王様に攻撃を当てることなんだよ。僕達が出来なかったことをやってのけた影宮と戦ってみたいんだ」


「小山君、なんでそんなに戦闘狂になってるのさ」


「異世界に来て特別な力をもらったのに、軽くあしらわれ続ける気持ちがわかるか?」

相当溜まっているようだ


「ああ、うん。わかったよ。今日はもう遅いから明日地上に帰ってからね」


「ん?地上?」


「委員長、まだみんなに言ってないの?」


「忘れてた……。みんな、明日地上に帰れるわよ」

委員長が慌てて言った。

珍しいものを見た気がする

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