第109話 逃亡者、暴露される
魔王との話が終わって部屋に戻ると、先生から驚くことを言われた。
「ミアちゃんから色々と話を聞かせてもらったけど、こんなに可愛い子とずっと一緒にいて、本当に何もないなんて、それはそれで先生は心配よ」
ミアからどんな話を聞いたのかはわからないけど、放っておいてほしい。
「ミアは妹なんです。何もするわけないじゃないですか」
「やっとちゃんと妹って認めてくれたね」
先生に反論したら、ミアが目をキラキラさせて嬉しそうに言った。
口を滑らしてしまったようだ。滑らせすぎていなかったのが幸いかもしれない。
「そうかな、前から妹だって言ってた気がするよ」
「妹みたいな…とか、妹のような…とかはよく聞くけど、ちゃんと言ってるのを聞いたのは初めてだよ。宿の時とか、都合の良いように妹って言うことはあったけどね」
恥ずかしいから言わないようにしてたからね
「そうだったかな…。口に出してなかっただけでずっと妹だって思ってたよ」
「ミアちゃんは影宮君とお付き合いしたいとか、結婚したいとかはないの?」
この話は早々と終わりにしたかったのに、先生がとんでもないことを言い出した。
そういったことは本人のいない所で聞いて欲しい。
いや、本人がいなくてもやめて欲しいけど……
「お兄ちゃんが求めてくれるなら私は嬉しいけどね。それにお兄ちゃんの好きなタイプって私とは違うみたいだから……」
そんな簡単に答えないで欲しい。
せめて僕のいない所でお願いしたい。
「2人とも僕の前でそういうこと言うのはやめてもらっていいかな?それにミアに僕の好みなんて話したことないよね?」
「見てればわかるよ。お兄ちゃん、顔に出やすいから」
ショックだ。そんなに顔に出てたのだろうか?
「影宮君ってどんな人が好みなの?」
先生はミアに聞く。話を止めるつもりはないようだ。
「お兄ちゃんはね、スラっとした大人の女の人が好きなんだよ。少し年上くらいのキレイな人」
ミアには僕の好みが完全にバレているようだ。
「それってもしかして……私?」
先生がふざけたことを言い出した。
「先生、もしかして酔ってます?」
「酔ってないですよ」
酔ってもいないのに、よくそんなこと言えるなぁと逆に感心してしまう。
「お兄ちゃんのタイプは先生とは違いますよ。先生も美人だと思いますけど、お兄ちゃんの好みはどちらかというとサトナさんみたいな人です」
「え……」
サトナさんはちゃっかり聞いていたようだ。
そろそろ本当にやめて欲しいんだけど
「あの、私はもう旦那がいますので……ごめんなさい」
そして、告白してもいないのに振られた。
「元気出してね。影宮君にもいい人が見つかるわよ」
慰めないで欲しい。別にショックも受けていないから
「いや、好みの話であってサトナさんが好きなんて言ってませんからね」
「わかってるよ。お兄ちゃんの本命は別にちゃんといるもんね」
僕はドキッとする
「何のことかな?」
僕は恐る恐る聞く。
「お兄ちゃん、ギルドの受付のお姉さんが好きなんでしょ?応援しているからね」
予想とは違う答えが返ってきた。
「なんでそう思うの?」
「だって、何かしら理由をつけてお菓子あげたりして気を引こうとしてたでしょ?話している時も少し浮ついてたし……」
確かにあの受付のお姉さんは僕の好みだ。見た目もだけど、性格も良いと思う。
あの頃、浮ついていたのも間違っていないだろう。
お菓子に関しては最初の頃だけで、途中からは向こうから要求してきたようなものだけど……
「確かにあのお姉さんは僕の好みのど真ん中ではあるけど、付き合いたいとか思ってないよ」
「そうなの?」
「そうだよ」
「そっか……」
「この話は本当に終わりね」
僕は本当に終わらせる。これ以上続けるのは本当に良くない。
「わかったよ」
ミアはわかってくれたようだ。
「影宮君、ちょっと話があるんだけどいいかな?」
先生が突然言い出した。さっきまでとは違い真面目な顔だ。
「なんですか?」
「2人きりで話したいの。隣の部屋で話しましょう」
僕以外に聞かれたくない話だろうか…
「わかりました」
僕と先生は隣の部屋に移動する。
少しだけだから、ミアには気まずいかもしれないけど我慢してもらうしかない。
「それで話ってなんですか?」
「ごめんなさい。もっと早く気づいていればあんな話はしなかったわ。影宮君、ミアちゃんのことが好きなんでしょ?」
「さっきも言いましたけど、ミアは妹ですよ」
「無理しなくていいわよ。そうやって自分に言い聞かせてるんでしょ?ミアちゃんは影宮君のことなんでも知っているようで、自分のことには疎いのかしら?それとも好意に気づかないように無意識にブレーキが掛かってるのかもね」
「…………わかりません。」
とても答えにくい。本当に自分でもこの感情がよくわかっていない。ミアの事は当然大切に思っている。
でもそれが妹としてなのか、それとも恋人になりたいのかよくわからない。
「…本当にわからないみたいね。言いにくかったら答えなくてもいいんだけど、影宮君1人なら帰れるんでしょ?帰らないのはミアちゃんがいるからなの?」
「ミアに話したんですか?」
「そんなに怖い顔しないで。話してないわよ。ミアちゃんは知ってるものだと思ってたから、特に話題にもしなかったわ。結果的に話さなくてよかったと思ってるわよ」
「すみません。なんで先生がその事を知ってるんですか?」
「委員長ちゃんに聞いたからよ」
委員長には口止めしてなかった。
「わかってくれているみたいですけど、ミアには言わないで下さい。色々と心の整理がついて、話すべきだとしたら自分で話しますので」
「もちろんよ」
「それでさっきの答えなんですけど、先生の言う通りです。自分の感情は正直よくわかりませんけど、ミアと会えなくなるのは嫌です。それにミアだけじゃなくて、僕の事を慕ってくれている子達もいて、会えなくなるのは悲しいです。でもやっぱり両親には会いたいので帰らないって選択も取れなくて……」
「影宮君はこの世界で良い出会いを沢山したのね。羨ましいわ」
「はい」
「それでね、2人で話したかった事はここからが本題なのよ。悩んでいる影宮君には酷な話かもしれないけど、私が帰還方法を調べている時に、たまたま知ったことがあるの。私達には関係のないことなんだけど、さっきの話だと影宮君には重大なことよ。知っておかないと後悔することになる事だから聞いて」
先生が深刻そうな顔で言う
「……お願いします」
「影宮君はなんとかミアちゃんと一緒に地球に帰る方法を探してるんじゃないかと思うんだけど、ミアちゃんは地球では生きられないわ」
「どういうことですか?」
それは僕の僅かな希望をも砕くことだった。
「地球というよりも、世界ごとに環境が大きく違うみたいなの。私達はこの世界に転移することになった時に、この世界でも生きることが出来る様に適応されたんだと思うけど、適応せずに世界を渡った場合は環境に適応できずに生きることが出来ない可能性が高いみたい」
「それは間違い無いんですか?」
「魔王城にある文献を読んで知ったことだから確証はないわ。でもそう考える方が普通なのよ。この世界が地球と同じ酸素濃度をしていたりすると考える方が不自然よ」
「……そうですね」
僕は地球にミアと一緒に帰るという夢物語を描いていたようだ。もちろんミアが付いてきてくれると言うのであればだけど……
魔王に協力してもらえば、転送でミア1人だけ地球に送ってもらえると思っていたけど、クラスメイトの事を無視して犠牲にした所で叶う話ではなかったようだ。
「酷な話だとは思うけど、知らずに実行してしまうよりはいいと思って……ごめんなさいね」
「先生はなにも悪くありません。教えてくれてありがとうございます。知らずにそうなっていたら悔やんでも悔やみきれませんでした」
「私にはどうやったらいいか見当もつかないけど、私達がこの世界で生きていられるのだから、ミアちゃんが地球でも生きることが出来るようにする方法もあると思うの。無責任なこと言ってるのはわかってるけど、諦めないでね」
「……はい」
知れてよかったとは思うけど……
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