第107話 逃亡者、魔王と戦う②
魔王も参加してくれることが決まったので、謁見の間を出ようとするが、出る前に魔王から面倒な事を言われた。
「ハイト君、帰る前に僕のリベンジマッチに付き合ってよ」
……根に持ってらっしゃる
「何言ってるんですか?あれは引き分けで終わったじゃないですか」
「そうだったね、あれは引き分けだったね」
思い出してくれたようでよかった。操ってるラジコンスライムでもラッキーで倒しただけなのに、本体とかもっと無理。
「そうです。そうです」
「それならちゃんと決着をつけないといけないね」
「……絶対ですか?」
「うん。君が断っても、侵入者として僕は攻撃を仕掛けるよ。その場合は侵入者だから生死を気にする必要はないかなぁ…」
これは完全に脅しだ
「わかりました。勝っても負けても1回だけですよ」
「ちゃんと本気を出してよ。相手がいなくて退屈なんだから」
「わかりました。善処します」
僕と魔王は城の外に出る。委員長も観戦したいとついて来た。
「どこでやるんですか?僕は空を飛べませんよ」
「今から作るから少し待ってて」
魔王がそう言い、何か魔法を発動する。
目の前の空間に土が集まってきて平坦な地面を作り、周りを壁で囲う。一瞬で即席のリングが完成した。
何故か浮かんでいる。
「少し狭いけど、これで我慢してね。あと、城がある方角には攻撃しないでね。城は別に壊れてもいいんだけど、中にはまだみんないるからね」
城は壊れてもいいらしい。もしかしたらあの城も魔法で作ったのかもしれない。
「わかりました」
魔王と少し離れて対峙し、委員長の合図で戦闘が始まる
「始め!」
合図と同時に魔王の姿がブレる。
一瞬で距離を詰められて殴りかかってくる。
避ける余裕はなく、腕を上げて防御する。
防御の上から殴られて僕は吹き飛び壁に叩きつけられる
「かはっ」
肺から息が吐き出される。
腕が上がらない。折れているかもしれない。
「うーん。それが本当に全力?僕の攻撃を防御出来る時点で強者ではあると思うけど、これじゃあ全然楽しめないよ。怪我は治すから今度こそ本気で頼むよ」
魔王がそう言った後、腕の痛みがなくなった。
「本気ですよ」
反応するのが精一杯で、なんとか防御出来ただけだ。
防御の上からでもダメージがデカすぎたけど…
「いや、まだ力を隠してるよね?ハイト君が本気を出してくれないなら、妹ちゃんにお願いしようかな。同じことだよね?……いや、妹ちゃんの方が強いかな?」
「……なんでそこまで知ってるんですか?」
「僕も鑑定スキルを使えるからだよ。知ってるかな?僕くらいのステータスがあればスキルの詳細まで鑑定出来るんだよ。しかも他のスキルと組み合わせることで直接会う必要もないんだ」
ミアを鑑定したってことか……
「共有ってスキル使って欲しいなぁ。そしたら楽しめそうだなぁ。2対1で卑怯だなんて思わないから」
やっぱりバレている。このスキルは危険も伴うからずっと隠していたのに……。
「……わかったよ。でもそこまで知ってるなら分かると思うけど、使える時間は限られてるからね。近くにミアがいれば少しは持つかもしれないけど……」
「そっか。それなら呼んであげるよ。そしたら支援魔法も使えてさらに強くなれるでしょ?」
「え、何言って」
「召喚!」
僕の頭が追いつく前に魔王がスキルを使う。
魔王の前に魔法陣が現れて、そこからミアが現れる
「え、え……。あ、お兄ちゃん、ここどこ?」
ミアが困惑したまま聞く
「これで本気の全力が出せるでしょ?準備が終わるまで待っててあげるから」
「ねえ、お兄ちゃん。どういうこと?あの子誰?」
「あの人は魔王だよ。今手合わせしてるんだけど一瞬でやられちゃったんだ。そしたらもっと本気を出せって、共有を使えって勝手にミアをここに呼び出したんだ」
「え……お兄ちゃんが一瞬で負けたの?」
「何も出来なかったよ。だからお願い。支援魔法も頼むよ」
「う、うん」
ミアが自分と僕に支援魔法を掛けてから、共有のスキルを発動する。
スキル[共有]
特定の人物とステータスを共有する
発動中は魔力を消費する
共有スキルを使うことでミアのステータスを僕のステータスに上乗せすることが出来る。
但しミアのステータスを借りている状態になるので、ミアはその分弱体化することになる。
逆にミアのステータスを上げているときは僕のステータスが下がる。
ちなみにこの配分の決定権はスキルを使用しているミアにある。なので僕とミアが戦った場合、このスキルを使われた瞬間に僕の敗北が確定する。
「準備が出来たみたいだね。それじゃあいくよ」
魔王が突っ込んでくる。
さっきと違い姿がブレることはない。
魔王がまた殴ろうとしてくる。
ギリギリ避けることが出来るかもしれない。
でも避けずにこちらも攻撃を仕掛ける為に、僕も殴りにかかる。
避けて隙を見つける時間がないからだ。共有スキルによりどんどんと魔力が無くなっていく。
勝てる可能性があるとしたら今しかない。
僕の拳は魔王の左頬に当たる。
そして僕は吹き飛んだ。
腹を殴られたようだ。立ち上がることが出来ない。
「降参だ。これ以上は本当に無理だよ」
僕は両手を上げて負けを認める
「僕が傷を負ったのはいつぶりかな……。楽しめたからもう1つの力のことは気づかなかったことにするよ。本当はその力も使って欲しいんだけど、流石に安易に使ってとは言えないからね」
そう言った魔王の頬は少し赤くなっている。
魔王の言う通り、もう1つ力を隠している。
この力を使えば魔王と互角に戦える可能性はある。
でもこの力は無限に使えるものではない。ここで使うわけにはいかない。
魔王が治してくれたようで、お腹の痛みは消えて動けるようになる
「いやー、負けちゃったよ。ミアもごめんね。ミアの力を借りたのに勝てなかったよ」
「ううん。かっこよかったよ」
「ありがとう」
「借りも返したことだし、これからどうしようか?」
魔王が言う
これからも何も魔王への用事はもう終わっている。
「桜先生達と合流して僕は地上に帰りますよ」
「会議にはいろんな種族に参加して欲しいんでしょ?楽しませてくれたお礼に手伝ってあげようか?」
魔王が突然そんなことを言う
「人族に獣人族、魔族に元勇者、それからエルフと主要メンバーの参加は、既に決まってますよ」
元勇者は種族ではないけど、いうなら幽体代表?
「妖精と精霊が抜けているじゃないか。僕が話をしておいてあげるよ」
「妖精が見えるんですか?それから精霊?」
「見えるよ。妖精の女王とは友達だからね。精霊というのは妖精が物に宿って成長した姿だよ。妖精は精霊になってやっと一人前と認められるんだ。ちなみに妖精の女王は物に宿らずに気ままに暮らしてたら力だけ溜まっちゃった捻くれ者だよ」
最後の補足は要らなかったのではなかろうか……
「それじゃあお願いします」
多いに越したことはないので頼むことにした
「任せといて。部屋を用意するから今日は泊まってくといいよ。急いで帰らないといけない用事もないでしょ?」
魔王の言葉に甘えて今日は魔王城に厄介になることにした
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