第106話 逃亡者、魔王に会う

魔王城の門をくぐった所に委員長がいた。


「影宮君、遅かったわね。もっと早く来ると思ってたわよ」

委員長は僕が来る事を知っていたようだ。


「なんで委員長がここにいるの?王国から逃げ出したのは知ってるけど、どこにもいないからおかしいなとは思ってたんだよ」

僕が帝国領に行くのは伝えたはずなのに、いつまで経っても委員長達が来ないから不思議に思っていた。

道中で魔物や盗賊にやられるとも思えないし……


「色々とあったのよ。色々とね……」

委員長の顔から生気が消える。聞いたらマズかったのだろうか…


「……そっか。小山君達もここにいるの?」


「いるわよ。別の仕事をしているわ」


「そっか。それはよかったよ。委員長達の事も気になるけど、魔王様に用があって来たんだ。悪いけど案内してもらえないかな」

今まで何をしていたのかは気になるけど、とりあえず今は魔王だ。

知らない魔族の人に会うよりも委員長に会って良かったと思う。


「それは出来ないわ」

断られるとは思ってなかった。


「え、なんで?」


「私の今日の仕事は侵入者を追い返す事なの。魔王様から影宮君が魔王城に向かっているから戦うように言われているわ」


「…………え?」

理解が追いつかない。僕は侵入者なの?


頭の整理が追いつく前に委員長が戦闘体制に入ろうとするので、委員長を鑑定する。


色々とスキルや称号が増えてはいるけど、負ける要素はない。鑑定が妨害されてなければだけど。


僕がどうしようか迷っていると、委員長が光、いや聖魔法か……で攻撃を放って来た。


僕は避ける。

威力を見る限りでは、委員長がわざと弱者を演じていない限りは鑑定のステータス通りだろう。


「四天王のゲルダ様から、魔王様から許可は出ているって聞いてるから、僕は侵入者じゃないはずだよ」

僕は委員長に説明してみる。


「そんな事は関係ないのよ。その魔王様から戦うように言われてるんだから。それからゲルダ様って誰よ?」

確かにそうだよなぁ。魔王は何を考えているのだろうか……

それから、ゲルダ様は魔王城では偽名を使ってないのかな?


とりあえず委員長を倒して詳しく話を聞かせてもらうしかないかな。


僕は委員長の攻撃を避けつつ近づいて、背後をとってうつ伏せに倒して拘束する。


「やっぱり負けちゃったわね」

委員長が呟く。


「どういうことか説明してもらっていいかな?」


「さっきも言った通り、魔王様の命令に従っただけよ。もちろん本気で殺し合いをするつもりはなかったわよ。魔王城に初めて来た者の実力を測るのが私の仕事なのよ」


「さっき侵入者って言ったよね?」


「戦わせるために言っただけよ。私が勝っても、負けても魔王様の所に案内するように言われているからね。離してもらってもいいかな?」

僕は委員長の拘束を解く


「ありがとう。それじゃあついて来て」

僕は委員長に案内されて謁見の間まで行く。


中に入ると王座には子供が座っていた。

あの子供が魔王なのだろうか?


「魔王様、影宮君を連れて来ました」

委員長が子供に言った。やっぱりあの子供が魔王のようだ。

鑑定しようと思ったけどやめる。多分妨害されると思う。

その場合は鑑定しようとしたことがバレるだけだ。


「うん、ありがとう。ハイト君、久しぶり……って言ってもわからないよね。実際に会うのは初めてだし」

この魔王とはどこかで会ったらしい。直接ではないようだけど……


「えっと……。はじめまして」


「僕があげたスライムは使ってる?あれ結構お気に入りだったから使ってないなら返して欲しいんだよね」

僕は魔王とどこで会ったのか理解した。


「あ、はい。お返しします」

僕はラジコンスライムを返すことにする。

高性能のラジコンだったので少し名残惜しいけど、元の持ち主に返すのだから仕方ない。


「本当に?ありがとう」

魔王はラジコンスライムを受け取る


「それで魔王様に色々と聞きたいことがあるんですけど、いいですか?」

魔王には聞きたいこととお願いしたいことがある。

さっき1つ聞くことが増えたけど……


「スライムのお礼になんでも答えるよ。言ってみて」


「地球……元の世界に帰る方法は知りませんか?」

僕は魔王に帰還方法を知らないか聞く


「桜ちゃんにも聞かれたけど、僕の力で元の世界に返す事は出来ないよ。異世界へ行くには、世界を分けている壁をどうにかする必要があるからね。さすがに無理だよ」

桜先生が既に聞いていたらしい。

魔王の力でも帰る事は出来ないようだ。


「そうですか」


「でも自分だけならいつでも帰れたでしょ?なんで帰らないの?」

僕はドキッとする。この魔王、どこまで知ってるのだろうか……


「影宮君、本当なの?」

委員長に聞かれる


「何を言っているのかわからないです」

僕は惚けることにした。


「帰らないのか、帰りたくないのか。それとも本当に帰り方に気づいていないのかは知らないけど、深くは聞かないことにするよ。それで今日来たのはその件じゃないよね?」


「えっと、なんでそんなに色々と知ってるんですか?」


「僕は一応魔王だからね。こうやって城を空に浮かべてはいるけど、地上の事もある程度は知っておく必要があるからね。情報は仕入れているんだよ」

どうやって仕入れているのかは教えてくれないようだ。


「そうですか。それなら知っていると思いますが、少ししたら王国と帝国の戦いがあります。その時に各種族間で交流の場を設けたいと思ってます。魔王様にも魔族代表として参加して欲しいです。あと戦の立会人にもなってもらえると助かります」


「いいよ。今の地上は相変わらず混沌としているからね。僕は率先して動きはしないけど、手伝いくらいならしてあげるよ。ファルナも君に感謝していたからね」


「ありがとうございます」


「聞きたい事はこれだけかな?」


「あと1つだけ。なんで委員長達がここにいるんですか?」


「ああ、それは僕が魔王城に招待したからだよ。君に負けて……引き分けた時に興味を持ったからね。ちょうど王国から脱出したところだったから、ちょうどいいと思ってこの城に来てもらったんたんだよ。地上に帰っていいとは言ってあるけど、何故か帰らないから衣食住の対価として働いてもらっているんだ」

委員長達はなんで魔王城から帰らないのだろうか?

地球に帰る方法をここで探しているのかな?


「影宮君、騙されたらダメよ」


「え?」


「帰っていいと言われても帰れないのよ。こんな上空からどうやって帰ればいいのよ。魔王様の命令で他の魔族の人も地上に送ってくれないし……」


「それって招待じゃなくて拉致したってことじゃ……」


「悪く言うとそういうことだね」

魔王はなんでもないことのように認めた。


「えっと、みんなを地上に帰してもいいですか?」


「遊び相手がいなくなるのは残念だけど止めはしないよ。帰っていいと言っちゃったからね。また階段を作るの?」

止めはしないようだ。


「階段を作って来たのは知ってるんですね」


「最初から見てたからね」

最初から……?


「最初からって事は僕が呼んでるのも聞こえてたってことですか?」


「うん、聞こえてたよ。迎えを行かせてもよかったんだけど、無視したらどうするのかなぁって思って見てたら、階段を作って登ってくるから驚いたよ」

知ってた上で無視したようだ。結構面倒だったのに……


「…………。」


「そんなに怒らないでよ。帰りはみんなまとめて送ってあげるから」

怒って無言になっていたわけではないけど、もう一度螺旋階段を作る必要がなくなったようだ。

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